この記事は2021年12月24日に日本実業出版社から発売された「事業の再構築」を考えたときに読む本」の一部を抜粋して編集、転載したものです。
目次
コロナ禍による市場環境の変化で、新事業の展開や業態転換を模索する中小企業が増えている。そんな時に頼りになるのが、補助金や助成金といった支援制度だが、情報不足のために有効活用できていない企業も多いと聞く。
新事業へのチャレンジを考えているなら、まずは基礎知識からおさらいしておこう。中野裕哲さんの「「事業の再構築」を考えたときに読む本」から一部を抜粋して紹介する。
中野裕哲 経営コンサルタント、起業コンサルタント、事業再構築コンサルタント、税理士、特定社会保険労務士、行政書士、ファイナンシャルプランナー(CFP、1級ファイナンシャルプランニング技能士)。V-Spiritsグループ代表。経営者支援をライフワークとし、年間約300件の経営相談・起業相談を無料で受け、多くの経営者を伴走支援している。また、北海道から沖縄まで、全国のクライアントを指導し、経営者が困ったときの経営全般の駆け込み寺の役割も果たしている。 |
1. 「チャレンジ資金」はフル活用しよう
中小企業経営において補助金や助成金をうまく活用できているかどうかは、経営者によってバラツキがある。うまく活用できれば、有利に経営を進めることが可能だ。その理由は、融資とは違って基本的に返済が不要な資金だということ。
効率的に補助金、助成金を活用できたなら資金繰りは楽になる。また、何か新しいことにチャレンジする際の、心理的、資金的なハードルを下げ、リスクを低減することが可能だ。
補助金や助成金は、中小企業にとっての「チャレンジ資金」だといえる。うまく活用できるように体制を構築して、不断の努力とチャレンジでどんどん上昇していく活気ある企業へと成長させよう。
2. 補助金、助成金、給付金はどう違う?
補助金、助成金といっても、その種類や目的は様々。同じような言葉で混同されがちだが、ほかにも給付金という助成制度がある。3種はそれぞれ特徴が異なっている。整理してみよう。
2.1. 補助金とは
起業促進、地域活性化、女性や若者の活躍支援、中小企業振興、技術振興などの施策を目的として、経済産業省が行う。補助金ごとの募集要件を満たしたうえで応募し、審査を通過することが必要だ。
合格率(採択率という)は補助金によって異なり、数%~90%程度まで幅がある。また、同じ補助金でも、数回に分けて募集することがあり、採択率に変化がある。
[過去の例]
・IT導入補助金
・小規模事業者持続化補助金
・事業承継補助金
・ものづくり補助金
2.2. 助成金とは
雇用維持、雇用促進、労働者の職業能力向上などの施策を目的として、主に厚生労働省が実施する。経済産業省系の補助金とは異なり、助成金ごとの要件を満たしていれば「審査で落とされる」という概念はないのが特徴。
基本的には「雇用」に関連する助成金であるため、新たに人を雇用する計画などがあるとき、事前にチェックしておきたい。
[過去の例]
・雇用調整助成金
・トライアル雇用奨励金
・キャリアアップ助成金
2.3. 給付金とは
緊急的に国や自治体などが給付するお金のこと。一刻でも早く給付することを最優先として設計されているため、補助金や助成金に比べると、要件も提出する書類の数や内容も極力簡素化されている。常にあるものではなく、新型コロナウイルスの感染拡大期といった有事の際に、補正予算などで緊急的に実施される施策だ。
[過去の例]
・持続化給付金
・特別定額給付金
3. 補助金、助成金を活用するときに絶対に知っておきたいこと
補助金や助成金を上手に活用したいとき、知っておきたい注意点がある。
3.1. 完全後払い
基本的には完全後払い制。つまり、国や自治体が「はい、このお金を使ってください」と、最初にお金を渡してくれるのではない。
そのため、手持ちキャッシュや銀行融資など「財務」との関わりが非常に重要だ。補助金、助成金を活用するときには、会社全体の財務の話と切っても切り離せないことを認識しておこう。
3.2. 情報収集
情報収集を怠らないこと。補助金や助成金の存在を知り、適切なタイミングで確実な手続きをしなければ、受給できない。関係省庁のホームページをチェックしたり、詳しい専門家に相談したりするなど、こまめな行動を心がけよう。
3.3. 準備
迅速に行動しよう。補助金や助成金は国が予算の枠内で募集するもの。機を逃さないよう、すばやく準備をして、いつでも申し込める状態にしておきたい。
3.4. 無理に受給しない
非常に重要なことだ。無理に受給しようとして経営をゆがめてしまえば本末転倒になる。補助金、助成金がないものとして経営判断をして、たまたま要件に当てはまっているなら有効活用する。そのくらいの感覚を持ちたいものだ。
4. より多く受給するためのテクニック
中小企業が経営を進めていくにあたり、国や自治体の支援をうまく活用するのはライバルに差をつけるために有効な手段だ。
特に、補助金や助成金、融資など、手元キャッシュや投下資金を増やせる効果が高い施策をうまく利用し、時代の波に乗るのが必勝セオリーともいえる。1つでも多くの支援策を活用したいところだ。そこで知っておきたいのが、対象経費が被る複数の補助金、助成金は受給できない「併給調整」の考え方だ。
例えば、ある時期の社員Aさんの給料を「○○補助金の対象経費として受給しよう」と考えたとする。
ところが、同じ時期に▲▲助成金でもAさんの給料を対象とした助成金を受給していたことが分かった。この場合、制度上は同じ経費となるのため「併給調整」の対象としては認められない。
このようなケースでは、Aさんの給料を、どちらの対象経費として受給するのが有利か、事前に見極める必要がある。場合によっては○○補助金ではAさんの給料を対象経費にせず、広告費を対象経費にすれば受給できる可能性がある。
つまり、そうした判断をすることにより、○○補助金と▲▲助成金、どちらも満額受給できる可能性がでてくるわけだ。
また、補助金や助成金によっては、1社で何度も受給できる可能性も。例えば、2019年と2021年に、同じ会社が同じ補助金で複数回採択されることがあるのだ。
こうした判断をするには、経済産業省系の補助金、厚生労働省系の助成金、自治体の補助金など「串刺しした情報」を持ち、全体を俯瞰した幅広い知識が必要だろう。