鈴木 まゆ子
鈴木 まゆ子(すずき・まゆこ)
税理士・税務ライター。税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

現在、中小企業の経営者が補助金制度に注目している。コロナ禍によって落ち込んだ事業経営を立てなおすためだ。今回は、補助金制度の概要やメリット、注意点に触れていく。補助金制度のコロナ特別枠も含めて解説するので参考にしてほしい。

中小企業の経営に補助金が有効な理由

補助金
(画像=anankkml/stock.adobe.com)

補助金を活用すれば中小企業の課題を解決できる可能性が高い。各課題について説明しよう。

課題1.資金繰り対策

中小企業の命綱と呼べるのが現金だ。ただ、知名度の高い中小企業でなければ、資金繰りに困ることもあるだろう。現金を調達する手段として融資を受けるわけだが、それには返済義務がともなう。

しかし、補助金は返済義務がない。事業が補助金の目的に沿っていれば支給されるため、自己資金が少なくても事業を円滑に展開できる。

課題2.事業の新規立ち上げや拡大

中小企業には自己資本が少ないケースが多い。新規事業の立ち上げや事業の拡大が難しいことがある。しかし、補助金の交付を受ければ、新たなビジネスや販路拡大を実現できる。

課題3.コンプライアンスの向上

補助金は申請すれば必ず交付されるものではない。厳格に審査されるうえに、交付決定後も事業について報告が求められる。事業目標を達成できなかったり、不正受給があったりすれば、補助金を返還しなくてはならない。

この補助金制度の厳しさが、中小企業で働く従業員の環境や法令遵守といったコンプライアンスの改善・向上につながる。

補助金とは

中小企業向けの補助金を紹介する前に、その目的や性質を確認しておこう。

補助金の目的

補助金の目的は、国や地方自治体の政策目標を実現することだ。そのため、政策にあった事業を行う事業者に交付される。

なお、補助金の目的や不正への対応などは、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」に規定されている。財源が税金であるため、使途については細かく確認される。当然、不正受給や目的外の使用があったときは返還しなくてはならない。

助成金や給付金との違い

補助金と同様、国や地方自治体から交付されるお金に助成金と給付金がある。いずれも返済不要な点では同じだが、次のような違いがある。

・違い1.ハードルの高さ

補助金は要件を満たしていれば交付されるものではなく、交付が決まっても事業の遂行状況を厳しく審査される。しかし、助成金や給付金は原則として交付要件を満たせば支給される。

・違い2.公募の時期

最近になって一部の補助金は通年で申請可能になったが、原則として予算案が国会を通過した直後に公募が行われる。

つまり、チャンスを逃すと1年待たなくてはならない。その一方、助成金は通年にわたって公募していることが多い。

・違い3.目的

給付金は、コロナ対策のように何らかの目的で給付されるお金の名称に使われる傾向だ。補助金は創業や事業拡大の支援、助成金は労働環境の改善や人材育成を目的としたものがある。

・違い4.実施の主体

補助金は経済産業省、助成金は厚生労働省が中心であるなど、実施の主体にも違いがある。地方自治体がその都度名称を考えて公募しているケースも少なくない。

中小企業におすすめの補助金3選

ここから代表的な中小企業向けの補助金を3つ紹介する。なお、2020年5月時点で、コロナ禍の影響により一般枠に加えてコロナ対策向けの特別枠が設けられている。

一般枠については、どの補助事業も従業員の賃上げを最終目的としているため、事業計画書には、以下の項目を盛り込まなければならない。

  • 人件費を含む事業者全体の付加価値額が年平均3%以上増加
  • 給与支給総額が年平均1.5%以上増加
  • 事業場内の最低賃金を地域別最低賃金+30円以上にする

さらに、これらの賃上げ計画を従業員に向けて申請時に表明しなければならない。ただし、特別枠については、この賃上げ目標の達成を据え置きできる。その場合、翌年度から3年以内に目標を達成する計画を立てればよい。

持続化補助金

持続化補助金は、正式名称を小規模事業者持続化補助金という。コロナ禍で注目を集めた持続化給付金とは異なるので注意しよう。

この補助金は、自社のブランド力を高めたり、広告宣伝に力を入れたりすることで新たな販路を開拓しようとする事業者に交付される補助金だ。通常枠と特別枠があり、それぞれの内容は次の通りである。

【通常枠】

補助率:2/3
上限額:50万円
対象となる費用:通販用ウェブサイトの作成費、店舗の改装費、チラシなどの広告宣伝費など

【特別枠】

補助率:2/3または3/4
上限額:100万円
対象費用:通常枠と同様 ※サプライチェーンの毀損への対応、非対面型ビジネスモデルへの転換、テレワーク環境の整備などに関する費用を1/6以上含まなければならない

一般枠の利用としては、旅館が外国人客を呼び込めるよう、ウェブサイトを多言語に対応させるケースなどがよい例だろう。

一方、特別枠の利用としては、店舗営業が難しくなったことを背景に、自社開発のレシピやレトルト食品を通販やテイクアウトで販売できるよう、ウェブサイトを開発するケースなどが該当する。

コロナ枠を利用すると以下のようなメリットもある。

  • 今年の売上が前年同期比で20%以上になった事業主が申請すれば概算払いで補助金を受け取れる
  • 2月18日以前に支出した費用も補助対象となる

コロナ禍で事業を継続するために支払った費用があるなら是非申請してみるとよい。

ものづくり補助金

ものづくり補助金は、正式名称を「ものづくり・商業・サービス補助金」という。つまり、製造業だけでなく、小売業や旅館経営などのサービス業も補助金交付の対象に含まれる。

新商品開発や新生産方式導入、新サービス提供に関する費用の一部が補助される。

なお、今年から通年にわたって応募可能となり、申請の締め切りは3か月ごとになった。さらに、事業実施時間が5か月から10か月に変更され、より活用しやすくなった。

通常枠と特別枠の内容はそれぞれ次のようになる。

【通常枠】

補助率:1/2
上限額:1,000万円
対象となる費用:機械装置やシステム構築費、専門家経費、外注費、クラウドサービスの利用料、運搬費など

【特別枠】

補助率:2/3または3/4
上限額:1,000万円+50万円(事業再開枠)
対象となる費用:通常枠と同様のほか、広告宣伝費や販売促進費など ※サプライチェーンの毀損への対応、非対面型ビジネスモデルへの転換、テレワーク環境の整備などに関する費用を1/6以上含まなければならない。

事業再開枠の50万円は、マスクや消毒薬、間仕切りの材料費など、感染防止策に関する費用とする。

IT導入補助金

IT導入補助金は、正式名称を「サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金」という。経営状況の視覚化や業務効率化、働き方改革を目的にITツールを導入した際に補助される。

物流や販促に向けたIT導入だけでなく、決済や会計、資金回収、労務管理に関する費用も含まれる。

通常枠と特別枠の内容はそれぞれ次の通りだ。

【通常枠】

補助率:1/2
下限額・上限額:30万円~450万円
対象となる費用:ソフトウェア、クラウド利用費、専門家経費など

【特別枠】

補助率:2/3または3/4
下限額・上限額:30万円~450万円
対象となる費用:通常枠と同様のほか、パソコンやタブレットのレンタル費用など ※サプライチェーンの毀損への対応、非対面型ビジネスモデルへの転換、テレワーク環境の整備などに関する費用を1/6以上含まなければならない。

中小企業が知っておきたい補助金の注意点

補助金には返済不要というメリットがあるが、いくつか注意点がある。

注意点1.補助金は課税対象

事業主が受け取る補助金や助成金、給付金は、法人税や所得税の課税対象だ。税法において非課税対象は、主に生活に困っている国民や受け取った損害賠償金などに限定されている。

たとえ国のお金であっても事業用の経費に充てられると、補助金や助成金は事業収入の代わりとして扱われるのだ。

注意点2.事業開始後にも書類審査がある

補助金は、申請して交付通知が来たからと安心してはならない。補助金の交付は、申請時だけでなく申請後も審査されるからだ。

交付決定後、補助対象事業の遂行内容について報告書を提出しなくてはならない。その際、補助対象となる経費の領収書を添付する。

注意点3.不正のペナルティが大きい

国民の税金を財源としているだけあって、不正受給の代償は大きい。交付された補助金の全額返還に加えて、年10.95%の加算金を支払うほか、刑事告発のリスクもともなう。

また、本記事で紹介した3つの補助金はいずれも賃上げ計画を要するものであり、申請時点で従業員に計画を表明しなければならない。

表明しないまま申請したことが発覚すれば、全額返還が求められる。賃上げ計画を達成できないときも補助金の一部を返還しないといけない。

中小企業の補助金申請をサポートする機関も

中小企業が補助金を申請する際、認定支援機関(経営革新等支援機関)のサポートを受けると、交付実現の可能性が高くなる。

認定支援機関は、国から中小企業のサポーターとして認定され、金融機関や税理士・弁護士などの士業が担っている。同機関の支援を検討しつつ、各種制度をうまく活用してほしい。(提供:THE OWNER

文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)