プラスチックは、軽量で強度が高く低コストで生産・購入ができるため、私たちの生活のあらゆる場面で利用されています。プラスチックの生産量と廃棄量は年々増加し、温室効果ガスの増加や生態系への影響が懸念されています。世界中の科学者は、解決策のひとつとしてプラスチックを分解する微生物(細菌)やワーム(うねるタイプの虫)の研究に取り組んでいます。

そこで本記事では、プラスチックを食べる虫や微生物の概要や産業化するための課題などについて解説します。

世界中の科学者が注目!プラスチックを消化する微生物やワーム

深刻化する地球温暖化問題 解決のカギを握るのはプラスチックを食べる スーパーワーム
(画像=FarknotArchitect/stock.adobe.com)

1990年代初頭から一部の科学者がプラスチックを消化する微生物やワームに関する研究に取り組んでいました。この研究が世界規模で盛んになったのは、2000年代に入ってからのことです。驚くべきことに環境の変化とともに微生物も進化を遂げており、これらの微生物が有するプラスチックを分解できる可能性のある「スーパー酵素」に世界中の研究者が注目しています。

2021年スウェーデンの研究チームは、地球上に少なくとも10種類のプラスチックを分解できる3万種類の酵素が存在することを示した報告書を発表しました。以下、興味深い2つの事例を紹介します。

発泡スチロールを食べるスーパーワーム

発泡スチロール(発泡PS)は、密度の高い非生分解性のため、プラスチックの中でも処分に時間とコストかかります。この厄介な素材を少しでも効率的かつ安全に処分する手段として注目されているのが、ミールワーム(ゴミムシダマシ科の幼虫)が腸内に持っている特殊な酵素です。

2015年に米スタンフォード大学の研究チームによって「発砲スチロールも消化できる」という事実が発見されました。2016年には、日本でプラスチックを食べる細菌、2018年に米英の研究者がプラスチックを食べる強力な酵素を発見しました。2022年現在は、スーパーワームの消化液を抽出後、溶解液として利用する「スーパー酵素」を発砲スチロールの大量処分に役立てるための手段が模索されています。

2022 年には、米デザインスタジオ、Doppelgänger(ドッペルゲンガー)がミールワームの外骨格を活用したポリスチレンフォームのバイオプラスチック版を開発しました。このミールワームはタンパク質豊富な食品としても注目されており、「正真正銘のスーパーワーム」として今後さらに活用幅が広がることが予想されます。

プラスチックを分解する微生物

もうひとつ、実用化の一歩手前の段階に到達しているのは、PET(ポリエチレンテレフタレート)を分解する微生物由来の「スーパー酵素」です。PETは、食品包装(ペットボトルなど)から洋服まで広範囲に利用されています。2019年の生産量は、約3,050万トンに達し、2024年には約3,530万トンへ増加すると見込まれています。

研究を加速させるきっかけとなったのは、2016年に京都工芸繊維大の研究チームが大阪府にあるリサイクル施設のごみの山から発見した微生物です。「イデオネラ・サカイエンシス」と名付けられたこの微生物は、プラスチックを分解するPET分解酵素ペターゼ(PETase)を有しPETを栄養源として育ちます。

この画期的な発見は、世界中の科学者の注目を集め、2018年には「通常数百年かかるPETの分解プロセスをわずか数日で分解し始める」という改良版が発表されました。さらに2020年には、米英の研究チームがPETaseをベースに従来と比べて最大6倍の速度で分解可能なスーパー酵素を発表しました。

産業化するための課題

様々な研究が世界中で進められているにも関わらず、いまだにプラスチックを分解したり食べたりする微生物やスーパーワームが商業化されないのは、なぜでしょうか。その理由としては、コストや手間、一定の環境条件が必要となる可能性などが挙げられます。

北米固形廃棄物協会応用研究のディレクターであるジェレミー・オブライエン氏は、「スーパー酵素プロセスがどのような有機廃棄物を生成するのかは不明で、既存の微生物への潜在的な影響しかねない」と懸念を示しています。

一方で、テキサス大学オースティン校の分子生物科学のアンドリュー・エリントン教授は、ワームや微生物が異なる環境下で「これらの酵素が効果を発揮できるのか」という点に疑問を唱えているのが現状です。また全てのプラスチック廃棄物を処理法に応じて分別するためには、かなりの労力とコストがかかることが予想されます。例えば、スーパーワームの酵素が実用化された場合は、発泡スチロールを他のゴミとは別に回収することが必要です。

産業化して大量の廃棄物を処理するためには、ビジネスの観点も踏まえた効率的なエコシステムの構築が不可欠となるでしょう。

仏バイオテクノロジーは2024~2025年の産業化を目指す

産業化に向けた課題とともに新たな技術をリサイクルのエコシステムに活かす発想が具体化しています。最も先鋭的なプロジェクトとして期待が高まっているのは、フランスのバイオテクノロジー企業Carbios(カルビオオス)の「変異細菌酵素」です。これは、堆肥に含まれていた細菌酵素を人工的に変異かつPETの分解能力と安定性を向上させ、分解後の素材から新たに高品質のPETを製造するものです。

同社は、ペプシやロレアルなどの大手企業と提携してプロジェクトを加速させており、2024~2025年に産業化することを目指しています。

スーパーワームや微生物を利用したリサイクル技術は、将来的にサーキュラーエコノミー(循環経済)の一端を担うと期待されており、投資のチャンスとしても注目したい領域です。Wealth Roadでは、今後もリサイクル技術市場の動向をレポートします。

※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買及び投資を推奨するものではありません。

(提供:Wealth Road