退職金はいわゆる「年収」には含まれませんが、退職金を受け取ると税金がかかります。
給与にかかる税金とは計算方法が異なるため、退職金にかかる税金の仕組みを知り、手元にどのくらいの資金が残るのかを把握しておきましょう。また、退職金の受け取り方によっても税金の計算方法は変わります。制度について理解を深めておくことが大切です。
退職金は「年収」には含まれない
年収とは、1年間の収入です。給与では、社会保険料や税金を差し引く前の総支給額を指し、「額面」と表現することもあります。退職金は収入ではあるものの、一時的なものであることから、基本的に「年収」には含めません。
しかし、退職金を年金として継続的に受け取る場合は、年収に含めて考えることもあります。
退職金の受け取り方で税金が変わる
退職金には、所得税と住民税という2種類の税金がかかります。退職金の受け取り方によって、税金の計算方法が変わります。
退職金の受け取り方には、「一時金」として一括で受け取る方法と、「年金」として分割で受け取る方法があります。一般的に、一時金として受け取ったほうが、税金は少なくなる傾向があります。しかし、個別の状況によっても異なるため、退職金の受け取り方は慎重に選択しましょう。
一時金として受け取る退職金にかかる税金
まずは、退職金を一時金として受け取る場合の税金について解説します。
所得税の計算方法
通常、給与所得や事業所得、不動産所得などは、全て合計した上で所得税を計算します。これを「総合課税」と言います。一方で、退職金は「退職所得」として扱われ、他の所得とは分けて所得税を計算します。これを「分離課税」といいます。
退職金は、老後の生活を支える大切な資産です。退職金に多額の税金がかかり、手元の資金が少なくなると、老後の生活に支障をきたす可能性があります。そのため、給与などの所得と比べて、税金が優遇されています。
ここれからは、所得税の計算方法を3ステップに分けて解説します。
-ステップ①退職所得控除額を計算
まずは、「退職所得控除」です。退職所得を計算する時は、受け取った退職金から、退職所得控除を差し引くことができます。退職所得控除の計算式は次の通りです。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数 ※80万円に満たない場合、80万円 |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
-ステップ②退職所得を計算
次に、退職所得控除を差し引いた上で、さらに2分の1を掛けて退職所得を計算する方法です。退職所得の計算式は、次の通りです。
(退職金の収入-退職所得控除)×1/2=退職所得
こうして2段階の優遇を適用して退職所得を計算したら、所得税率を掛け、控除額を差し引いて所得税を計算します。
-ステップ③退職金の所得税率と控除額を確認
所得税率は退職所得の金額によって変わり、退職所得が多いほど高い税率が適用されます。
退職所得 | 所得税率 | 控除額 |
1,000円~194万9,000円 | 5% | 0円 |
195万円~329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
330万円~694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万円~899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万円~1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円~3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
退職金にかかる所得税の計算式は次の通りです。
退職所得×所得税率-控除額=所得税
また、2037年12月31日までは、東日本大震災の復興のため、所得税に加えて復興特別所得税がかかります。計算式は次の通りです。
所得税額×2.1%=復興特別所得税
以上が退職金における所得税の計算方法です。
住民税の計算方法
住民税の税率は、都道府県や市町村によって異なりますが、一律約10%です。所得税を計算する時に計算した退職所得に住民税率を掛けて計算します。
一時金として退職金を受け取る2つのケース
ここからは、一時金として退職金を受け取るケースの税金を計算してみます。
退職金2,000万、勤続年数30年のケース
まずは、勤続年数をもとに退職所得控除を計算します。勤続年数が20年超なので、次の計算式に当てはめて計算します。
800万円+70万円×(勤続年数30年-20年)=退職所得控除1,500万円
次に、計算式に当てはめ、退職所得を計算します。
(退職金2,000万円-退職所得控除1,500万円)×1/2=退職所得250万円
次に、所得税率表を見て、適用される所得税率と控除額を確認し、所得税を計算します。
退職所得250万円×所得税率10%-控除額9万7,500円=所得税15万2,500円
次に、所得税をもとに、復興特別所得税を計算します。
所得税15万2,500円×2.1%=復興特別所得税3,202円
次に、退職所得をもとに、住民税を計算します。
退職所得250万円×住民税率10%=住民税25万円
所得税・復興特別所得税・住民税の合計額は次の通りです。
所得税15万2,500円+復興特別所得税3,202円+住民税25万円=合計の税金40万5,702円
つまり、勤続年数30年で退職金2,000万円を受け取った人の手取りは以下の通りす。
2,000万円-40万5,702円=1,959万4,298円
金額が大きい割に徴収される税金は少なく、退職金にかかる税金が優遇されていることが分かります。
また、退職金が退職所得控除の範囲内に収まっていれば、税金はかかりません。例えば、勤続年数30年で、退職金が1,500万円なら、退職所得控除を差し引いた時点で所得が0円になるため、所得税も住民税もかかりません。
退職金600万、勤続年数9年3ヵ月のケース
ここでは、勤続年数が短く、退職金も少ない場合の計算例を見ていきましょう。勤続年数に端数がある場合、繰り上げて計算するため、9年3ヵ月は10年として計算します。
勤続年数が20年以下なので、次の計算式に当てはめて退職所得控除を計算します。
40万円×勤続年数10年=退職所得控除400万円
次に、退職所得を計算します。
(退職金600万円-退職所得控除400万円)×1/2=退職所得100万円
それぞれ税率をかけて、所得税、復興特別所得税、住民税を計算します。
退職所得100万円×所得税率5%=所得税5万円
所得税5万円×2.1%=復興特別所得税1,050円
退職所得100万円×住民税率10%=住民税10万円
税金の合計額は15万1,050円、退職金から税金を差し引いた金額は584万8,950円です。
「退職所得の受給に関する申告書」の提出が必要
退職金にかかる税金は、基本的に会社が計算して徴収(源泉徴収)してくれるため、自分で計算したり確定申告したりする必要はありません。
これには「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出する必要があります。「退職所得の受給に関する申告書」には、住所や氏名、勤続年数などを記入します。この申告書を提出していないと、退職金にかかる税金が非常に高くなる恐れがあります。会社から「退職所得の受給に関する申告書」を受け取った時は、必要事項を記入し、速やかに提出しましょう。
年金として受け取る退職金にかかる税金
退職金を年金として受け取る場合は、他の所得と合算して計算する「総合課税」となり、退職所得ではなく「雑所得」として扱われます。そのため、退職所得控除を適用することはできません。
雑所得にはいくつか種類がありますが、分割で受け取る退職金は「公的年金等」に含まれます。総合課税なので、他の年金と合算した上で、所得税率をかけて所得税を計算します。
なお、公的年金等の雑所得の計算方法は年齢や所得金額によって細かく設定されています。65歳未満で、公的年金等にかかわる雑所得以外の合計所得金額が1,000万円以下なら、次の表をもとに計算します。なお、公的年金等の収入の合計が60万円までなら、所得金額は0円になります。
公的年金等の収入の合計×割合-控除額=公的年金等に係る雑所得の金額
公的年金等の収入の合計 | 割合 | 控除額 |
60万円超130万円未満 | 100% | 60万円 |
130万円以上410万円未満 | 75% | 27万5,000円 |
410万円以上770万円未満 | 85% | 68万5,000円 |
770万円以上1,000万円未満 | 95% | 145万5,000円 |
1,000万円以上 | 100% | 195万5,000円 |
公的年金等の雑所得を計算した場合は、他の所得と合算し、所得控除を差し引いて「課税所得」を求めます。課税所得に所得税率・住民税率をかけて、所得税・住民税を計算します。2037年12月31日までは、復興特別所得税もかかります。
一時金と年金のどちらが得なのか
実施にどのくらいの税金がかかるかは、退職金の額や勤続年数、他の所得の状況によって変わります。しかし、一般的には退職所得控除を適用できることから、一時金として受け取ったほうが税金は少なくなる傾向があります。
一方で、一時金として受け取ると手元にまとまった資金が入るため、どうしても散財してしまいがちというデメリットもあります。旅行に出かけたり家のリフォームをしたりしていると、あっという間に退職金が底を尽き、老後の生活に支障をきたすことになりかねません。
「リスクの低い金融商品に投資して資金をロックする」など、散財を防ぐ手立てを事前に考えておくと良いでしょう。
退職したら確定申告で還付金を受け取れる可能性
「退職所得の受給に関する申告書」を提出すれば、退職金にかかる税金は会社が徴収してくれるため、自分で確定申告する必要はありません。しかし、退職した年は、会社で年末調整を受けることができない場合もあるため、ご自身で確定申告をすることで還付金を受け取れる可能性があります。
iDeCoや民間の生命保険に加入している場合は、小規模企業共済等掛金控除や社会保険料控除を所得から差し引くことができます。また、生計を同じにする家族の医療費が10万円を超えた場合は、医療費控除を差し引けます。
確定申告でこのような控除を適用することで、納め過ぎた税金が還付金として戻ってくる可能性があります。
退職金にかかる税金を知り老後の資金計画を立てよう
退職金は、退職後の生活を支える大切な資金です。就業規則などでどのくらいの退職金をもらえるか確認し、税金を計算してみましょう。手元に残るお金を把握することで、老後の生活について具体的にイメージでき、退職金の使い道を早めに検討することができます。
※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。
(提供:Wealth Road)