この記事は2022年8月17日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「貿易統計22年7月-輸出は中国向けが持ち直す一方、米国向けが低調」を一部編集し、転載したものです。
貿易赤字(季節調整値)がさらに拡大
財務省が8月17日に公表した貿易統計によると、22年7月の貿易収支は▲14,368億円の赤字となり、赤字幅はほぼ事前の市場予想(QUICK集計:▲14,050億円、当社予想は▲15,390億円)通りとなった。輸出が前年比19.0%と6月の同19.3%から伸びが若干鈍化する一方、原油高、円安の影響で輸入が前年比47.2%(6月:同46.1%)と伸びを高めたため、貿易収支は前年に比べ▲18,713億円の悪化となった。
輸出の内訳を数量、価格に分けてみると、輸出数量が前年比▲2.0%(6月:同▲1.5%)、輸出価格が前年比21.5%(6月:同21.1%)、輸入の内訳は、輸入数量が前年比2.3%(6月:同1.3%)、輸入価格が前年比44.0%(6月:同44.2%)であった。
季節調整済の貿易収支は▲21,333億円と14ヵ月連続の赤字となり、6月の▲19,500億円から赤字幅が若干拡大した。輸出が前月比2.1%と10ヵ月連続で増加したが、輸入が同3.5%とそれを上回る伸びとなった。
7月の通関(入着)ベースの原油価格は1バレル=116.6ドル(当研究所による試算値)と、6月の117.1ドルからほぼ横ばいとなった。足もとの原油価格(ドバイ)は、世界経済の減速懸念などから、90ドル台まで下落している。しかし、長期契約で販売する際に指標価格に上乗せされる調整金が大幅に上昇しているため、通関ベースの原油価格は100ドル台で高止まりすることが見込まれる。輸入価格の高止まりを主因として、貿易収支(季節調整値)は当面大幅な赤字が続く可能性が高い。
米国向けの輸出が低調
22年7月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比▲6.2%(6月:同▲1.7%)、EU向けが前年比17.4%(6月:同6.7%)、アジア向けが前年比▲2.1%(6月:同▲2.6%)、うち中国向けが前年比▲9.9%(6月:同▲15.1%)となった。
22年7月の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前月比▲5.5%(6月:同1.0%)、EU向けが前月比5.7%(6月:同2.2%)、アジア向けが前月比0.6%(6月:同1.3%)、中国向けが前月比1.5%(6月:同5.2%)、全体では前月比▲0.7%(6月:同0.0%)となった。
EU向けは好調を維持し、ロックダウンの影響が和らいだ中国向けも持ち直しているが、景気減速が鮮明となっている米国向けが自動車を中心に落ち込んでおり、輸出全体を押し下げている。
自動車輸出(対世界、台数ベース)は前年比▲5.3%(6月:同▲10.1%)と7ヵ月連続で減少した。季節調整値(当研究所による試算値)では、前月比3.3%(6月:同2.2%)と2ヵ月連続で増加したが、22年入り後の落ち込みを取り戻すまでには至っていない。
鉱工業生産の輸送機械は7月が前月比12.9%、8月が同7.1%の大幅増産計画となっているが、自動車輸出の動向を踏まえれば、実際の生産は計画から下振れる可能性が高い。
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斎藤太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査部長
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