この記事は2022年9月2日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「昨年のジャクソンホールで早期利上げが示唆されたら、米株はどうなっていた?」を一部編集し、転載したものです。

米株
(画像=Tania/stock.adobe.com)

目次

  1. ジャクソンホール後に急落
  2. 2021年末は10%程度、低い水準だったかも?
  3. 2021年末の値や史上最高値は取扱注意

ジャクソンホール後に急落

金融市場で注目されていた8月26日のジャクソンホール会議でパウエルFRB議長がインフレ抑制に注力していく姿勢を講演で示した。それを受けてS&P500種株価指数が26日だけで3%以上も下落するなど、米国株式は大きく下落した【図表1】。週明けの29日以降も長期金利の上昇とともに下落基調が続いている。

もともと筆者は米国株式の先行きを慎重にみていた(*1)こともあり想定した展開であるが、中には驚かれた方もいることだろう。米国株式はまだまだ割安感に乏しく、次のFOMCがある9月20日、21日あたりまでは値動きが激しい展開が続き、さらに下落する可能性がある。

米株
(画像=ニッセイ基礎研究所)

*1:「米株高の賞味期限は?」をご参照。


2021年末は10%程度、低い水準だったかも?

1年前のジャクソンホール会議を思い出すと、パウエルFRB議長がインフレは一時的であるとの考えを示し、2022年に入ってこれが誤った判断であることが明らかになっている。では、もし1年前のジャクソンホール会議で今年と同じようにインフレと戦う姿勢と早期の金融引締めが示唆され、金融引締めが実際よりも前倒しされていたら、米国株式はどのようになっていただろうか。

2021年末で考えると、実際にはS&P500種株価指数は4,766ポイントであった。長期金利が1.5%と低位であったため、予想PERが21.6倍と高い値が許容されていた。もし、金融引締めが前倒しされていたら長期金利は2%程度まで上昇し、予想PERが19.5倍程度まで低下した可能性がある。実際に2022年3月中旬以降、長期金利は2%を上回り続け、予想PERは2月中旬以降19.5倍を下回り続けている。もし、長期金利、予想PERともに金融引締めが3カ月程度前倒しされていたなら、こうした状況は2021年末にでもあり得たであろう。

筆者の試算では、S&P500種株価指数は2021年末に4,300ポイントとなり、実際の値より10%程度低くなっている【図表2】。この4,300ポイントを基準にすると、4,000ポイントを下回っている現在のS&P500種株価指数は8%程度低い水準にある。この8%という乖離率は実際の年初来の下落率17%より9%も小さく、現在の株価に対する印象が変わってくる。

米株
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2021年末の値や史上最高値は取扱注意

上記の数値は、あくまでも筆者の試算であり、たらればの範疇を出ない。また、断っておくが米金融政策当局の当時の判断を批判しているわけでも、したいわけでもない。1年前はウクライナ侵攻を予測できないし、2022年にこれほどインフレになるとは考えられていなかった。また金融引き締めに転じられる経済情勢にもなっていなかったと思われる。実際に昨年のジャクソンホール会議から金融引き締めに転じた場合、経済情勢が現在より悪化し、株価が今以上に低迷していた可能性もある。

ただ、その一方で2021年末にかけて金融政策によって低金利下が続き、結果的に株価が吊り上がっていたことは確かである。早めに金融引締めに動いていれば、2021年年末の株高はありえなかったであろうし、S&P500種株価指数の史上最高値も昨年のジャクソンホール会議直前の2021年8月25日の4,496ポイントを更新できなかった可能性が高い。

つまり振り返ってみると2021年、特に年末にかけては、予想PERが21-22倍程度と平時よりはかなり高く、バブルとまでは言い過ぎだが、プチ・バブル状態だった可能性がある。ゆえに、S&P500種株価指数を考えるうえで2021年末の4,766ポイントや2022年1月3日に付けた史上最高値4,796ポイントを意識して、今後の動向を判断すると間違うかもしれない。少なくとも年初来もしくは史上最高値から〇〇%下落したからそろそろ下げ止まるとか、来年早々にはきっと反発するはずなどと感覚的に考えるのではなく、経済情勢なども良く見た上で判断する方が賢明だと思われる。


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前山裕亮(まえやま ゆうすけ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員

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