この記事は2022年4月26日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「2021年好調過ぎたツケを払う米国株式」を一部編集し、転載したものです。

目次

  1. 要旨
  2. 1 ―― 米長期金利の上昇を嫌気して急落
  3. 2 ―― 割高な米国株式
  4. 3 ―― 業績拡大では下支えできない可能性が高い
  5. 4 ―― 最後に

要旨

米早期利上げで来年半ばまでに1ドル=118円も
(画像=PIXTA)
  • 米国株式の予想PERは低下してきているが、それ以上に米長期金利が上昇したため割高感がある。

  • 米国企業の企業業績は現時点で堅調であるが、これから業績がよほど上振れでもしなければ、現在の株価水準を維持することは難しいと思われる。

1 ―― 米長期金利の上昇を嫌気して急落

米国株式は、3月15日、16日のFOMCを通過してから持ち直していたが、4月に入ってから再び下落してきている。S&P500種株価指数(青線)は3月上旬に一時4,200ポイントを下回っていたものの、3月末には4,600ポイント台まで戻していた【図表 - 1】。その後は米金融政策に対する警戒感から下落し、特に4月21日、22日と2日間で4%以上下落したこともあり、再び4,200ポイント台で推移している。

投信動向
(画像=ニッセイ基礎研究所)

2 ―― 割高な米国株式

1月、3月はFOMC後に米国株式が反発したため、5月の3日、4日に予定されているFOMC後も同様の展開を期待している投資家もいるだろう。しかし、米国株式は割高感が高いため、そのような展開は期待しない方が良いのではないかと筆者は考えている。仮にFOMC後に反発しても小幅かつ短期で終わる可能性が高いと思われる。

S&P500種株価指数の予想PER(青線)は再び19倍を下回ってきており、22倍に迫っていた年初と比べるとだいぶ低下してきた。ただ、米長期金利(10年国債利回り:面グラフ)が3月、4月と急激に上昇し3%に迫ってきていることを考慮すると、予想PERは依然としてかなりの高水準にあるといえる。

投信動向
(画像=ニッセイ基礎研究所)

実際に予想PERの逆数である予想益回りから米長期金利を引いた米国株式のリスク・プレミアム(青線)をみると、そのことがよく分かる【図表 - 3】。米国株式のリスク・プレミアムは2014年以降、概ね3%以上で推移してきた。足元、2.5%と長期的な下限水準である3%を大きく下回っており、米長期債と比べて米国株式が割高なことが示唆される。直ちにというわけではないが、いずれ株式リスク・プレミアムが3%まで上昇することが懸念される。

投信動向
(画像=ニッセイ基礎研究所)

3 ―― 業績拡大では下支えできない可能性が高い

今後、予想PERは株式リスク・プレミアムの上昇に加えて、米長期金利の上昇によってさらに低下すると予想される【図表 - 4】。長期金利が3%でも株式リスク・プレミアムが3%まで上昇すると、予想PERは16.7倍と17倍を下回ってくる。さらに長期金利が3.5%まで上昇すると15倍台まで低下することになる。

投信動向
(画像=ニッセイ基礎研究所)

米国企業の業績は現時点では堅調であるが、予想PERが17倍を下回る水準に低下してしまうと、年末まで現在の株価水準を維持するのは難しいと思われる。株式リスク・プレミアムを3%として考えると、長期金利が3%とこれからほとんど上昇しなくてもS&P500種株価指数が現状の水準を維持するにはEPSが260ポイント程度必要となる【図表 - 5】。来期2023年予想EPS:246ポイントであることを踏まえると、これから業績が5%以上上方修正されてないと株価は現在の水準を維持できない計算である。

しかし、実際のところ長期金利が年末までに3%で収まってくれる可能性は低い。長期金利が3.5%まで上昇すると、EPSが270ポイントと足元の予想から10%上方修正されても、今年3月8日に付けた今のところの年初来安値4,170ポイントを下値更新することになりそうである。さらに、長期金利が4%まで上昇すると年初来安値はおろか2020年末の水準3,756ポイント付近、もしくはそれ以上に下落し、2021年の上昇分が吹き飛ぶ可能性が高くなる。

以前から「米長期金利の上昇が緩やかならば、業績拡大によって株価横ばい、もしくは緩やかに上昇」とお伝えしてきたが、現在の状況を踏まえると、残念ながら緩やかな金利上昇では収まりそうにないため、株価は今後しばらく下落していくリスクが高いといえよう。

投信動向
(画像=ニッセイ基礎研究所)

4 ―― 最後に

2022年に入ってから、米国で金融引き締めを2021年から行うべきだったという声が出ている。加えて、バイデン政権の財政政策も結果的に景気を過熱させたという指摘がされている。つまり、米国株式は2021年に好調過ぎたツケを2022年に払っているとみることができる。そのため、2022年の株価下落が2021年の上げ幅程度で収まればよいくらい割り切って考える必要があるだろう。長期投資のスタンスの方はそのように考えて特段問題ないと思われるが、逆にそのように割り切ることができない方は米国株式を一旦売却して、保有量を減らすことを検討しても良いタイミングなのではないだろうか。


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前山裕亮(まえやま ゆうすけ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員

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