世界的なサイバーセキュリティ企業であるパロ・アルト・ネットワークス<PANW>の成長が加速してきた。サイバー攻撃が高度化するなか、パロ・アルトの次世代セキュリティ製品が評価されているためだ。この分野に先行投資したことでライバルを上回る成長局面に入った。今23年度は通期で創業来初の最終黒字となる見込みだ。次世代セキュリティ(NGS:New Generation Security)が伸びている背景、パロ・アルトの強みなどについて英文の決算資料等から分析していきたい。

目次

  1. 次世代セキュリティ(NGS)の成長で、今期ついに黒字変換へ
  2. 好決算で翌日の株価は12%高と急騰。ナスダックでも勝ち組
  3. 主要KPIの数値から、パロ・アルトの高成長期入りを示唆
  4. 次世代セキュリティ(NGS)がゲームチェンジャー
  5. 今後のネットワークセキュリティ市場は拡大するのか
  6. まとめ:機関投資家も注目するパロ・アルト。クラウド化による先進性が成長のカギか

次世代セキュリティ(NGS)の成長で、今期ついに黒字変換へ

#2:米国パロ・アルト再加速。ネットセキュリティ市場で高成長を続けるそのワケは?

パロ・アルト・ネットワークス(以下、パロ・アルト)は8月22日、2022年第4四半期決算(5~7月)を発表した。売上は前年同期比27%増の15.5億ドル、営業利益は1,500万ドルと、四半期ベースでは2018年10月~2019年1月期以来14四半期(約4年)ぶりの黒字決算だった。

サイバーセキュリティの世界は大きく変わり始めている。ファイアウォールのようにネットワークのエンドポイントを点で防御する方法から、エンドポイントの防御はもちろん、使用されるアプリを包括的に管理し、迅速かつ効率的に防御する次世代セキュリティ(以下NGS、Next Generation Security)の時代になりつつある。セキュリティシステムも、自社運用(オンプレミス)からクラウドに主流が移りつつある。パロ・アルトのNGSはその流れを的確にとらえ、収益を牽引している。

好調な第4四半期の結果を受けて、2022年度(2022年7月期通期)の売上実績は29%増の55.0億ドル、営業損失は1.88億ドルと前年度の3.04億ドルから赤字幅を縮小した。コロナ禍で2020年度こそ売上の伸びが鈍化したが、2021年度、2022年度と売上の伸びが再び加速してきている。(図1)

2023年度(23年7月期通期)の会社ガイダンス(予想)は、売上が68.5億~69億ドル(24.5%~25.4%増)と続伸し、最終利益は黒字化する計画だ。

▽図1:パロ・アルト・ネットワークスの業績推移 単位:100万ドル(一株益、調整後一株益はドル)

決算期(年度)売上増収率(%)営業利益経常利益最終利益一株益調整後一株益
2017年7月期1,76127.8-179-194-216-2.39
2018年7月期2,27329.0-129-130-147-1.61
2019年7月期2,89927.6-54-74-81-0.87
2020年7月期3,40817.5-179-231-267-2.76
2021年7月期4,25624.9-304-465-498-5.186.14
2022年7月期5,50129.3-188-207-267-2.717.56
2023年7月期(予)6,850〜6,90024.5〜25.4 黒字 9.40〜9.50
引用:決算は基本的には米国決算方式のGAAP基準。調整後一株益についてはパロ・アルト発表のNon-GAAPのデータより著者作成

好決算で翌日の株価は12%高と急騰。ナスダックでも勝ち組

パロ・アルトの決算は、2022年第4四半期の実績、2023年第1四半期と2023年度通期のガイダンスともにアナリスト・コンセンサス(平均予想)を上回るポジティブ・サプライズだった。加えて、1対3の株式分割(9月14日から)ならびに9.15億ドルの追加の自社株買いを発表した。

これにより、決算発表翌日の8月23日の株価は20.49ドル(12.1%)高と大きく買われた。ちなみに、パロ・アルトは好決算が続いており、2022年の株価は、四半期決算発表毎に実績がアナリスト・コンセンサスを上回り、買われている(図2)。

▽図2:パロ・アルトの日足チャート(2022年)

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画像引用: Kabutan米国株から著者作成

主要KPIの数値から、パロ・アルトの高成長期入りを示唆

パロ・アルトの主要KPIには、売上(装置、サービス)の他に、請求額(Billings)、RPO(Remaining Performance Obligation)がある。Billingsは、四半期毎の売上に、SaaSによるサブスクリプションの前受け収益の増減を加えた数値だ。RPOは将来の売上につながる契約残高であり、業績の先行指標である。

2022年度売上は29%増の55.0億ドルだった。そのうち装置(ハードウェア)が21%増の13.6億ドル、サービス(サブスクリプション、サポート)が32%増の41.4億ドルだ。収益性の高いサービスの伸びが大きく、その比率は2020年度の69%から75%まで上昇した(図4)。サービスの比率向上が収益改善に寄与している。

▽図4:パロ・アルトの製品売上とサービス売上推移とサービス比率

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画像引用:Seeking Alpha

2022年度の請求額は37%増の74.7億ドル。そのうち、NGSは60%増の18.9億ドルと非常に高い伸びだ。2023年の予想請求額は20~21%増の89.5~90.5億ドル。NGSは37~40%増の26.0~26.5億ドルを見込んでいる。

そして、2022年度のRPOは41%増の31億ドル。年間売上に占めるRPOの比率は56%まで高まった(図5)。RPOは将来の売上につながる契約残高であり、今後の売上増につながる重要なKPIだ。

▽図5:パロ・アルトの売上とRPOの売上に占める比率の推移

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画像引用:パロ・アルト社「Q4 Fiscal Year 2022 Earnings Call」プレゼンテーション資料

次世代セキュリティ(NGS)がゲームチェンジャー

次世代セキュリティ(NGS)とは具体的にはどういうものだろう。パロ・アルトでの売上は、2022年で年率60%も伸びており、特に大口の契約が増えている。大企業がクラウドベースのNGSの導入を増やしている。

従来型のサイバーセキュリティはネットワークと社内LANのエンドポイントにファイアウォールを設置、点で防御するのが主流であり、LAN内のアプリの管理は不可能だった(図6)。

▽図6:従来型とパロ・アルトのファイアウォールシステムの違い

NGSは、エンドポイントの管理に加え、ネットワークに流れているアプリケーションを識別し、アプリケーションベースのアクセス制御を行うことができる。パロ・アルトのNGSは、業務に関係のない通信の遮断や、ファイル交換ソフトの 使用などによるセキュリティリスクの回避などを包括して実現することができるプラットフォームとの位置づけである。
近年のサイバー攻撃は、より高度で複雑になってきている。ランサムウェア、標的型攻撃、サプライチェーン攻撃、ビジネスメール詐欺など、方法も多様だ。SaaS時代を迎えたいま、セキュリティの脅威に対し包括的に対応するNGSの必要性は高まっている。パロ・アルトの調査によると、ランサムウェアによる2021年の平均身代金支払額は54万ドルに達した。NGSのニーズは当面減ることはないだろう。

ファイアウォール製品に革新をもたらしたパロ・アルトのNGS

パロ・アルトは2005年に創業、2007年に世界で初めて次世代ファイアウォールという名称を使い市場に製品を送り出した。ファイアウォール製品に「アプリケーション識別」「ユーザ識別」「コンテンツ識別」という新しいセキュリティ機能を実装したのだ。2017年にはクラウド化されており、拠点ごとの設置、運用が不要になったほか、テレワークなどでオフィス外から働く環境も一括管理が可能であり、ネットワークに包括対応できる。