この記事は2022年11月18日に「第一生命経済研究所」で公開された「2023年・春闘賃上げ率の見通し」を一部編集し、転載したものです。


賃上げ
(画像=Andrey Popov/stock.adobe.com)
  • 2023年の春闘賃上げ率を2.70%と予測する(厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」ベース)。上昇率は22年の2.20%からはっきり高まり、1999年(2.66%)並みの伸びとなるだろう。また、賃上げ分のうち、定期昇給部分(1.8%程度)を除いたベースアップで見ると0.9%程度となり、2022年の0.4%程度から伸びが高まると予想する。足元で加速する物価高への配慮もあり、前年以上のベースアップが実現する見込みである。

  • 足元の企業収益は、原材料価格の高騰という逆風が吹く中でも底堅く推移している。企業収益の水準も高く、企業の賃上げ余力は存在する。低水準の失業率に見られるとおり、労働需給が改善していることも賃上げに繋がる材料だ。加えて、加速する物価高への配慮が賃上げを一定程度後押しする可能性が高い。資源価格の高騰や円安の進展を受けて物価上昇率は加速しており、実質賃金は大幅な減少が続いている。家計の物価高への負担感は非常に大きく、賃上げが物価上昇に追い付かない状況への問題意識も高まっている。

  • こうした状況を受け、連合は2023年の春闘基本方針において+5%以上(定期昇給分2%+ベースアップ3%)の賃上げを要求する方針を打ち出している。これは、2016年以降の要求水準である「+4%程度」を大幅に上回る。経団連もベースアップを中心とした賃上げを会員企業に呼びかける意向を示すなど、物価上昇への一定の配慮もうかがえる。いつになく賃上げムードが高まっていることから、最終的には企業側が労働者側にある程度歩み寄る形で決着し、昨年を上回る賃上げが実現する可能性が高い。

  • もっとも、それでもベースアップは+1%に届かないだろう。消費増税により物価上昇率が大幅に高まった2014年度(総合+2.9%、コア+2.8%)の状況を受けて交渉が行われた2015年春闘では、賃上げ率は+2.38%となった。当時も実質賃金目減りへの政府の問題意識は強く、賃上げ要請が行われていた。その結果、物価高への配慮もあり前年から伸びは高まったものの、ベアは+0.6%程度にとどまった。2023年春闘では当時よりも賃上げ機運は高まっているため、上昇率は15年を上回るだろうが、それでもベア+1%超えのハードルは高い。

  • なお、2023年春闘では、物価上昇と賃金上昇の好循環の実現が一つのテーマとなっている。もっとも、物価上昇の定着には持続的な高い賃上げの実現とサービス価格の上昇が必要だが、そうした好循環が実現することのハードルは高い。足元の物価上昇は輸入価格上昇をきっかけとしたコストプッシュインフレであり、財価格が大幅に上昇する一方でサービス価格の上昇は限定的なものにとどまる。2023年の春闘では物価高への配慮もあり賃上げ率が高まるとみられるが、前述のとおりそれでもベースアップは1%に届かないとみられる。緩やかながら賃上げが実現することでサービス価格も伸びを高める可能性はあるが、一方で財価格は鈍化する可能性が高く、CPI全体でみれば2023年度は鈍化傾向で推移する見込みだ。また、2023年の物価上昇率が鈍化するなか、春闘における物価高への配慮は2024年には期待し難い。2024年以降にも持続的に賃上げ率が高まるといった状況が実現する可能性は低く、安定的な物価上昇が定着することは難しいと予想している。

  • 海外経済の動向もリスクだ。急ピッチで進められる金融引き締めの影響で2023年の世界経済は大きな下押し圧力を受けることが予想される。仮に2023年初にも景気減速感が強まり、金融市場の混乱等が生じる場合、先行き不透明感の強まりから春闘における交渉に影響を与える可能性があるだろう。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 シニアエグゼクティブエコノミスト 新家 義貴