本記事は、岡田五知信氏の著書『起死回生 東スポ餃子の奇跡』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。
「東スポ餃子」の意外な波及効果
世間を驚かせた今回の「東スポ餃子」プロジェクト。この事業を始めたことで、会社としては餃子の売り上げ以外に会社に波及する効果や変化などはあったのだろうか? 平鍋氏は飲みかけのコーヒを一気にすすり上げるといった。
「一番効果があったのは、九州、大阪、名古屋で『東スポ餃子』の試食会のイベントをやったことですね。東スポは日本全国地域ごとに『中京スポーツ』、『大阪スポーツ』、『九州スポーツ』がありますが、東京、中京、大阪は夕刊紙なのに対して、九州だけは朝刊紙なんです。夕刊紙の場合にはプロ野球を扱うにしても、前日の試合結果を伝える他の朝刊スポーツ紙に速報性ではかないません。
その結果、どうしてもネタものやスキャンダルが中心になります。そうするとどうしても球団スタッフや選手にとってはネガティブな記事になってしまうので、新聞自体が嫌われるわけです。ところが『九州スポーツ』は朝刊ですから、ソフトバンク(*1)のスキャンダル記事など不要です。他の朝刊スポーツ紙と同じ内容になったとしても、とくに問題ありません。しかも九州ではシェアがナンバーワンですから、ソフトバンクの選手も取材には気持ちよく応じてくれます。
*1:ソフトバンク/福岡ソフトバンクホークス。日本のプロ野球球団。パシフィック・リーグ所属。2022年現在の監督は藤本博史。法人会長は王貞治。通称は「ソフトバンク」または「ホークス」。福岡県をフランチャイズとし、福岡市中央区にある福岡PayPayドームが本拠地。
余談ですが、以前、東京で巨人担当をしていた東スポのカメラマンの話ですが、巨人を取材していた頃は球団スタッフや選手たちから煙たがられていましたが、『九州スポーツ』に異動し、ソフトバンク担当になりました。福岡に着任してしばらくしたら、彼が会社に電話をしてきたんです。
『いやぁ、九州はいいです。絶対に僕を福岡から東京に戻さないでください。福岡にきたらモテるようになったんですよ……』
バカみたいな話ですが本当です。『九州スポーツ』は九州で1番売れているからイメージがよく、結局、そのカメラマンはマスコットガールたちと合コンを繰り返し、そのうちの一人と結婚していました(笑)。それくらい各地でイメージがまったく違います。
これだけ支社間で温度差があったわけです。しかし、今回の餃子PRや販促事業を展開し、地元のテレビ局に取り上げてもらったりしたことで、一気に各地支社との垣根がなくなったんですよ。それまでは明らかに各地の支社との間に壁というか大きな溝があったんです。経費削減を理由にいろいろな面を東京に一極集中させていた部分がありましたからね。支社の記者からは、
『所詮東京のヤツが勝手にやっていることだ』
などとよくいわれたりしていました。それが、一緒になって『東スポ餃子』のイベントを進めたりしたことで、それまであったわだかまりが一気に吹っ飛んだんです。
イベントをやるときは、編集局のトップである私だけじゃなく、営業局のトップの國見取締役やその他の役職者も現地に一緒に行きました。一般社員だけを現場に行かせてイベントを支社に丸投げするんじゃなく、ちゃんと東京から責任者の取締役や部長がきてくれ、自分たちもイベントに参加して本気で地域活性化を仕掛けるんだと理解してもらえた。
実は後になって中部支社の長谷川支社長が、
『これが〈東スポ餃子〉の最大の効果だ』
といっていましたが、各地の支社、社員が初めて一致団結できたんだと思っています。それで支社の間にあった壁がなくなり、皆で同じ方向を向くことができるようになりました。今は、長谷川支社長をはじめ、関西支社の吉武支社長、西部支社の大霜支社長らとの意思疎通がしやすくなって、業務が昔よりもスムーズに運ぶようになっています。今回の『東スポ餃子』のビジネスにおいて、会社として最大の効果を生んだのは、まさにこの点ではないかとさえ思っています」
他の企業でも新しい事業を始めるところはあるかもしれないが、そういった人的交流が深まり、交流が盛んになったというメリットがあることも強調しておきたいところだ。
「自分たちでイベントをやったのは、社内コミュニケーションが深まるということを狙っていたわけではありませんが、結果的にそうなりました。新しい関連商品を全国に浸透させるのはとても大変なことです。いくら私たちが、
『〈東スポ餃子〉を売っています!』
といっても知らない人はいっぱいいます。テレビCMを昼夜たくさん流すわけでもありませんから、自分たちが現地に行ってやるしかない。というか、私が地方に出張に行きたいという理由もありましたけどね(笑)」