本記事は、岡田五知信氏の著書『起死回生 東スポ餃子の奇跡』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。

ニンニクマシマシ餃子の魅力

餃子
(画像=ocean_nikonos/stock.adobe.com)

ここで、「東スポ餃子」についてあらためて簡単に解説しておこう。

東スポWebで《ネタじゃない! 東スポ餃子が爆誕》と、「東スポ餃子」の誕生が大々的に宣言されたのは、2021年10月6日のことだった。当日午後に発売の東スポ本紙にも、同様の記事が掲載された。当初発売されたのは業務用の50個入りパッケージのみで、価格は税込み2,484円。その「東スポ餃子」最大のウリはなんといっても、青森県産ニンニクを100%使用し、ニンニクの量も通常の3倍、つまり〝マシマシ〟入っていること。その他の豚肉や野菜もすべて国産と、素材にも味にも大いにこだわっている点だ。

一般に販売されている冷凍ニンニク入り餃子の多くは、中国など外国産の比較的安価なニンニクを使用しているが、東スポ餃子に入っている青森県産は仕入れ価格がその5〜10倍はする。特に青森県産のニンニクには独特の甘みもあるため、ニンニクのパンチ力を感じさせながらも、ニンニク特有の辛味が少なく、香りがいいうえにニンニクの甘みも感じられる味わいになっている。

実際、フライパンで焼いて食してみても、焼いている最中からニンニクの匂いがキッチンの中に濃厚に漂う。しかし、それは決して嫌な匂いではなくむしろビールなどのアルコールを欲する魅惑的で背徳感漂う香りだ。

味は謳い文句の〝マシマシ〟のニンニクを感じるが、それほど刺激は強くなく、肉と野菜の甘みの中にさらにニンニクの甘みも加わり、絶妙なバランスが保たれた具材のおいしさが際立つ。しかも、通常の3倍のニンニクが練り込まれている割には、食した後のニンニク臭もマイルドに感じられる。ニンニクはちょっと苦手という女性や子どもにもウケること間違いない味わいだ。それもこれも青森県産のニンニクにこだわった結果なのだろう。

「東スポ餃子」が本気のPRを展開し、話題に

「東スポ餃子」のお披露目として、自社での試食会を行ってから九州・福岡市では地元の人気ラーメンチェーン店にプロレスラーの大仁田厚(*1)、アイドルグループ「HKT48(*2)」の坂口理子、山下エミリー、村川緋杏らを呼んでの試食会、中京・名古屋市では高須クリニック名古屋院の高須幹弥院長とアイドルグループ「SKE48(*3)」の熊崎晴香、太田彩夏が参加してのマスコミ発表会&試食会など、各地でさまざまなPR活動を行った。

*1:大仁田厚/おおにた あつし。1957年10月25日生まれ。長崎県長崎市出身。日本のプロレスラー、政治家(2001〜2007年には参議院議員を務めた)、タレント、俳優、YouTuber。身長181cm。

*2:HKT48/2011年10月23日に誕生した福岡市を拠点に活動する日本の女性アイドルグループ。AKB48グループの1つで、秋元康がプロデューサーを務める。

*3:SKE48/2008年に誕生。名古屋市栄を拠点とし、中京圏を中心に活動している日本の女性アイドルグループ。秋元康がプロデュースするAKB48グループの1つ。

それらが奏功し、さまざまなメディアでも「東スポ餃子」が取り上げられた。2022年4月には、その1年前に東スポのリストラをスクープした「週刊文春」までが、《盛るのは話だけではなかった…東スポが生き残りをかけたニンニクマシマシ「東スポ餃子」》と、記事で紹介するほどだ。

ここまで話題になり売り上げが伸長してきた「東スポ餃子」だが、そもそも新聞社の東京スポーツが〝「東スポ餃子」プロジェクト〟を立ち上げたきっかけは何だったのか。

2021年10月に「東スポ餃子」の発売を開始したということは、企画を検討してから発売までの準備期間を、短く見積もっても早期退職制度で多くの社員との丁々発止の直後にはスタートしていなければならないのだ。

とすると、リストラを実施する前からこのプロジェクトは水面下で進んでいたことになるはずだが、平鍋氏は新規事業のスタートについて次のように語り出した。

新事業のスタートはちょっとしたきっかけ「プロジェクトを立ち上げたといっても、ほんとに偶然が重なっただけです。何か新しいことをやろうとしてこの東スポ餃子を考え出したわけではありません。2021年3月末に希望退職者制度を始めて、それが6月まで続いたので、その年の上半期はとにかく目まぐるしい毎日だった。

それらが落ち着いた7月上旬に、都内の中華料理店で、生鮮食品や青果の仕入れ販売や流通を行っている有限会社戸田商事(*4)の鈴木英弘副社長と会食をしたときのことです。鈴木氏とは15年ほどのお付き合いがあり、折々会食をしてはお互いの近況を話す親しい間柄でした。戸田商事は商社でもあり、またM&Aも多く行い、現在は数十の法人が傘下にあります。

*4:有限会社戸田商事/2006年設立の総合商社。本社は東京都千代田区。さまざまな分野で事業を展開しており、「食品・酒販」「医療用品」「ビューティ&ヘルス」「物流」「貿易・通関」「広告/印刷」の事業において、グループ会社・関連会社・業務提携会社合わせて数十社となる(2022年9月現在)。

食事をしながら雑談をしていると、鈴木氏がポツリと一言。

『宇都宮で餃子を作っている大和フーズ(*5)という食品メーカーが仲間に加わったんだけど……。東スポと何か仕掛けられないかな? 例えば餃子とか……。何か作れば面白いんじゃないかな……』

*5:大和フーズ/大和フーズ株式会社は1973年に創業した栃木県宇都宮市に本社を置く業務用総合食品卸売会社。業務用冷凍食品や調味料、レトルト食品などを製造している。2020年8月21日に戸田商事の完全子会社になった。

そう語ったのです。おそらく冗談半分でいったのだと思います。私もいつもなら大笑いをしてやり過ごすような些細な一言だったのですが、会社の状況も切羽詰まっていたこともあったのでしょう。その言葉を聞いた瞬間〝ピン〟ときました。何か脳天を突き抜けた感覚ですね。

『東スポ餃子……。これは面白い。やりましょう!』

これがまさに『東スポ餃子』を始めるきっかけになりました。私の頭の中には、そこからすぐに『新聞→競馬→ビール→餃子』というイメージが浮かんだんです。思いつきというかひらめきですよ。

そこからは速攻でした。その場で鈴木氏に、

『鈴木さん、真剣にやります。私は本気ですから……』

といって握手した。そのとき私のいった、『本気です』

というフレーズは、後々、販促用ポスターを作った際にキャッチフレーズに使用されました。すっかり本気になった私は会食の最中も4〜5回、

『本気です』

を繰り返していたと思います。それに鈴木氏も応じ、

『本当に真剣に進めるの? 分かりました。それでは次回、担当者を連れてくるので、将来的なことについて打ち合わせをしましょう……』と、何だか話がとんとん拍子に進んでいったのです」大和フーズの食品作りには定評があった。材料に強いこだわりを持ち、職人気質(*6)のある社内風土で食品業界でも知られる存在だった。通常、冷凍餃子には廉価な外国産ニンニクを使うケースが多い。しかし、大和フーズでは青森県産のニンニクを使い、他の食

*6:職人気質/しょくにんかたぎ。職人気質は「実直な性格」という意味。とても真面目で曲がったことが嫌い。「いい加減」の対極にある性格やそのような人。職人に多い気質で自分の技術に自信を持ち、安易に妥協したり金銭のために自説を曲げたりせず納得できる仕事だけをする。

食材についても国産にこだわっている。その結果、製造原価が高くなり、どうしても販売価格も高めになっていた。しかし、餃子の味は明らかに他の宇都宮餃子よりおいしいと評判の会社だった。同じ宇都宮の地場で餃子を製造する食品メーカーとは異なった、青森県産のニンニクを使ってこだわりの餃子を作り続けていた結果、宇都宮の餃子メーカーの中でも少々目立つ存在だったのだ。

しかし、地元で孤立し、利益率も低減……。会社の経営にテコ入れを行わざるを得ず、戸田商事の傘下に加わったのだ。

そんなこだわりの餃子作りに専念する職人気質も東スポと相性がよかったようで、実際に戸田商事、大和フーズ二社と「東スポ餃子」との製造販売の話はすんなりとまとまった。残りは東スポ社内の調整だが、平鍋氏は上層部に決済を取ると自分の責任においてプロジェクトを軌道に乗せたのだ。

「『東スポ餃子』は絶対に成功するという根拠のない自信がありました。『失敗』の文字すら浮かばなかった。ですから、戸田商事の鈴木氏と2人でどんどん進めていったのです。社内で会議にかけることによって意見調整をするなどの時間がかかることが嫌だったということもあったので自分が責任を取る形で勝手に進めようと……」

そう語る平鍋氏だが、実はプロジェクト成功の秘策も織り込まれていたのである。

売れるためには〝良い加減〟のニンニク量が必須

スプーン,さじ
(画像=Nataly-Nete/stock.adobe.com)

東スポが餃子を売り出すというからには他との差別化も必要になるだろう。もちろん、これまで経験をしたことのない業種でビジネスを始めるにあたって、商品性についても知りたいことは多い。その点について平鍋氏は語る。

「東スポが餃子を販売するからには、こだわりというか、東スポらしいものを出そうと考えました。やはり東スポらしく、

『尖とがっているイメージ』

を出したかったのです。もちろん普通の餃子では失敗するだろうとも思いました。そこで、何をするかを検討して、試行錯誤したのです。

大和フーズが製造していた餃子には『ニラ餃子』や『ニンニク餃子』、『野菜餃子』など数種類の餃子がありました。それらの餃子を一通り食べてみましたが、いずれも『東スポ餃子』と銘打めいうつにはいま一つインパクトが不足している印象でした。そこで、素材の中でも人気が高いといわれているニンニクをフィーチャーする方向で商品作りを進めることにしました。ニンニクを多めに入れることにしたのです。しかも、中国産の廉価な普通のニンニク餃子と同じでは意味がありませんから、ニンニクのインパクトには気を使いました。その他、皮へのこだわりも重要で、その点については大和フーズ自身が持っているノウハウと秘伝の調理法を存分に発揮していただきました。

ニンニクを2倍、3倍、4倍、5倍とさまざまな量を加えて餃子を試食してみました。

すると面白いことが分かったのです。4倍、5倍だとニンニクばかりになって全然おいしくない。とはいえ2倍では物足りなさがあり、実は3倍くらいでほどよくニンニクがきき、さらに〝尖っている感〞が出ていたのです」

「東スポ餃子」はこのようにして誕生し、合わせて商品名も必然的に「ニンニクマシマシ 東スポ餃子」に決定されていった。

商品はできあがった。だが問題は販路の新規開拓と販売方法だった。

商品は完成しても販路と売り方が重要……

ビジネス成功の要諦には、売り方がある。売り方に失敗してしまえば、

「モノはよかったのにね……」

と残念な評価をされる。そのような新事業の失敗は、全国津々浦々、数多あまた存在するだろう。

「東スポ餃子」の商品の方向性や作り方、コンセプトは決定したのだが、いったいどのようにして売っていくのか……。私たち消費者にとって気になるのは、どこで手に入るのか? 価格はどのくらいになるのかといったことだ。「東スポ餃子」の販売を開始するにあたって、流通や販売の戦略についても平鍋氏に尋ねてみた。

「スーパーなどの小売店に突然『東スポ餃子』を並べて売るのか。それとも業務用にしてラーメン店などの飲食店に卸していくのか……。まずはじめにそれらを検討しました。

そこで、やはり業務用からスタートし、ある程度『東スポ餃子』の存在や知名度を浸透させてから小売店で展開しないと、リスクが高いだろうという判断をしました。ですから、販売当初は業務用で50個入りを1パッケージにし、2,300円〜2,400円の価格で販売することにしました」

東スポ餃子の奇跡
岡田五知信
早稲田大学卒。徳間書店『週刊アサヒ芸能』編集部や新潮社『フォーカス』編集部で編集記者を経て1992年に在京キー局に中途入社。バラエティー番組や情報番組、特番などでディレクターやプロデューサーを担務。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)