この記事は2022年12月14日(水)配信されたメールマガジンの記事「クレディ・アグリコル会田・大藤 アンダースロー『短観でも信用サイクルの防衛が急務であることが示された』を一部編集し、転載したものです。

短観,信用サイクル
(画像=PIXTA)

目次

  1. シンカー
  2. 10~12月期の日銀短観大企業製造業業況判断DI
  3. 10~12月期の大企業非製造業業況判断DI
  4. 中小企業金融機関貸出態度DI
  5. 内需はしっかり回復していくと予想

シンカー

  • 製造業の業況感にはグローバルな景気減速による下押しがあり、円安が進行してなければ、既にマイナスになっていたとみられる。

  • 非製造業の業況感は回復しているが、加速感はなく、通常国会での追加経済対策が必要になるだろう。

  • 信用サイクルの腰折れがリスクとなっていることが、日銀の金融政策正常化の動きを止めるだろう。

  • 利益率と設備投資計画が好調であることが、グローバルな景気減速の中でも、日本の内需が堅調な回復を続けられる支えとなっている。

10~12月期の日銀短観大企業製造業業況判断DI

2022年10~12月期の日銀短観大企業製造業業況判断DIは+7と、2022年7~9月期の+8を若干下回った。昨2021年10~12月期の+18をピークに、グローバルな景気減速の影響を受けて、悪化を続けている。

2022年度の企業のドル円の想定レートは130.75円(7~9月期125.71円)と、実勢より円高となっていたことが支えとなっている。もし円安が進行していなければ、業況判断DIは既にマイナスとなっていた可能性もある。

2022年1~3月期の先行きDIは+6への若干の悪化となり、グローバルな景気減速への警戒感が表れている。

10~12月期の大企業非製造業業況判断DI

2022年10~12月期の大企業非製造業業況判断DIは+19と、7~9月期の+14から改善した。

新型コロナウィルスで抑制されてきた経済活動の再開が押し上げ要因となった。臨時国会で成立した39兆円程度の財政支出をともなう経済対策の効果も、今後の経済活動の回復を後押ししていくとみられる。

しかし、2022年1~3月期の先行きDIは+11への悪化となった。感染拡大の警戒感が残り、経済活動の回復には勢いがまだみられない。グローバルな景気減速の内需への影響を限定するためにも、来年初の通常国会で追加経済対策が必要になるだろう。

中小企業金融機関貸出態度DI

日本経済の信用サイクルを示す中小企業金融機関貸出態度DIは2022年10~12月期に+16と、7~9月期の+17から大きな変化はなかった。

しかし、2020年7~9月期の+20から徐々に低下し、中小企業の体力を衰えさせ、非製造業の慎重な業況感に影響を与えている。

これまでの企業支援としての無利子・無担保融資の返済が始まり、海外経済の減速の影響も合わせて、企業の資金調達環境の悪化と事業継続の困難化で、信用サイクルが腰折れることが、先行きのリスクとなっている。

信用サイクルが腰折れると、失業率が悪化し、賃金上昇も止まるリスクとなる。緩和的な金融環境を維持することが重要な局面であり、2023年中に日銀が金融政策の正常化を進めることをためらう大きな要因となるだろう。

内需はしっかり回復していくと予想

グローバルな景気減速の下でも、緩和的な金融政策と積極的な財政政策に支えられて、内需はしっかり回復していくと予想している。2022年の日本の実質GDP成長率は+1.8%と、2022年の+1.6%なみを維持できるだろう。2つの要因が支えとなるとみらえる。

1つは、企業の売上高経常利益率が高水準を維持し、企業活動が衰えないとみられることだ。2022年度の大企業全産業の売上高経常利益率は+8.3%と、前回の調査の7.9%から高水準を維持している。

図:大企業売上高経常利益率

大企業売上高経常利益率
(画像=出所:日銀、クレディ・アグリコル証券)

2つめは、企業の設備投資の意欲が強いことだ。2022年度の大企業全産業の設備投資計画は前年度比15.2%(当社季節調整)と、2022年7~9月期の同+14.7%から更に上昇し、極めて強い水準を維持している。

円安と経済安全保障による生産拠点を国内回帰を含め、企業の新たな商品・サービスの投入が消費を刺激する好循環の中、グリーンやデジタル、先端科学技術、人材育成などのニューフロンティアを拡大する政府の成長投資を含む経済対策の効果が強くなり、2023年度も強いモメンタムを維持するだろう。

図:大企業設備投資計画

大企業設備投資計画
(画像=出所:日銀、クレディ・アグリコル証券)
会田 卓司
クレディ・アグリコル証券会社 チーフエコノミスト
大藤 新
クレディ・アグリコル証券会社 マクロストラテジスト

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