この記事は2022年10月6日(木)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田・松本賢 アンダースロー(日本経済の新しい見方)『日本経済ピッチ(成長):外需の鈍化を積極財政で防衛してリベンジ設備投資へ』を一部編集し、転載したものです。

日本経済
(画像=takasu/stock.adobe.com)

目次

  1. 要旨
  2. 成長 ― 外需の鈍化を積極財政で防衛してリベンジ設備投資へ
  3. 労働 ― 堅調な信用サイクルの維持で労働市場の回復が継続
  4. 企業 ― 設備投資サイクルが天井を打ち破りデフレ構造不況からの脱却の転換点へ

要旨

  • 2022年度の実質GDP成長率は+2.2%と、新型コロナウィルスの感染抑制やウィズコロナへの適応などで、経済の正常化の動きが進む割には、物足りない成長になるだろう。インフレ抑制のため、海外の中央銀行の金融引き締めが進み、海外経済が減速しつつある。そして、エネルギーを中心とする輸入物価の上昇により、交易条件が悪化してきた。純輸出には下押しがかかり続けることになるだろう。

  • 岸田内閣は、小さな政府(政府の機能縮小)から大きな政府(政府の機能向上)へ財政政策を転換、そして財政支出を伴わない規制緩和などから財政支出を伴う所得分配と成長投資を中心とする成長戦略へ転換し、積極財政が内需からの成長を支えるだろう。秋の臨時国会では大規模な経済対策を実施し、2023年度の政府本予算も新しい資本主義を実行に移すために膨張するとみられる。外需の鈍化を、積極財政による内需で支え、2023年度の実質GDPは+1.8%を予測する。

  • 2024年度には、海外経済の回復の動きと内需の拡大が合わさることにより、実質GDP成長率は+2.5%へ加速することになるだろう。内需では、2023年度はリベンジ消費が回復のモメンタムがけん引役だが、2024年度にはリベンジ設備投資にけん引役が移行し、景気回復を経済活動の停滞感が残るU字型から強いV字型に変えるだろう。

成長 ― 外需の鈍化を積極財政で防衛してリベンジ設備投資へ

2022年度の実質GDP成長率は+2.2%(2021年度+2.3%)と、新型コロナウィルスの感染抑制やウィズコロナへの適応などで、経済の正常化の動きが進む割には、物足りない成長になるだろう。

インフレ抑制のため、海外の中央銀行の金融引き締めが進み、海外経済が減速しつつある。そして、エネルギーを中心とする輸入物価の上昇により、交易条件が悪化してきた。純輸出には下押しがかかり続けることになるだろう。

一方、岸田内閣は、小さな政府(政府の機能縮小)から大きな政府(政府の機能向上)へ財政政策を転換、そして財政支出を伴わない規制緩和などから財政支出を伴う所得分配と成長投資を中心とする成長戦略へ転換し、積極財政が内需からの成長を支えるだろう。秋の臨時国会では大規模な経済対策を実施し、2023年度の政府本予算も新しい資本主義を実行に移すために膨張するとみられる。

外需の鈍化を、積極財政による内需で支え、2023年度の実質GDPは+1.8%を予測する。2024年度には、海外経済の回復の動きと内需の拡大が合わさることにより、実質GDP成長率は+2.5%へ加速することになるだろう。

内需では、2023年度はリベンジ消費が回復のモメンタムがけん引役だが、2024年度にはリベンジ設備投資にけん引役が移行し、景気回復を経済活動の停滞感が残るU字型から強いV字型に変えるだろう。政府の成長投資の拡大と円安水準が維持されていることが追い風となるだろう。

第四次産業革命、デジタル・トランスフォーメーション、脱炭素、経済安全保障などの投資テーマが前面に出てくることになる。

内需の力によって4年連続で+1%程度まで回復するとみられる潜在成長率を上回る水準となり、企業の成長期待の上振れにつながるだろう。企業の投資の拡大と失業率低下にともなう賃金上昇による消費の回復が両輪となる内需拡大が、成長を自立的にけん引するだろう。

潜在成長率を上回る実質GDP成長率が継続することによる需要超過への変化と、期待インフレ率の上昇で物価上昇も強くなり、長らく政府が目標としてきた+3%の名目GDP成長率が達成できることになるだろう。2025・2026年度の実質GDPも、投資の拡大による生産性の上昇をともないながら、潜在成長率を上回ることで、デフレ構造不況脱却の機運が高まるだろう。

▽実質GDP成長率と水準

実質GDP成長率と水準
(画像=出所:内閣府、Refinitiv、作成:岡三証券)

労働 ― 堅調な信用サイクルの維持で労働市場の回復が継続

日本経済は輸出・製造業から内需・サービス業中心に変化し、在庫サイクルより信用サイクルの影響を強く受けている。

日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIは、民間の信用が拡大できる環境かを示す信用サイクルとして、雇用の拡大を牽引するサービス業の動向を表し、失業率に明確に先行する。ウィルス問題発生後も、政府・日銀の大胆な経済政策で堅調な信用サイクルが維持され、経済とマーケットの収縮を止めている。

しかし、ウィルス問題が長引いていること、エネルギー価格上昇によるコストの大幅な増加、そして海外経済の減速と金融市場の不安定感が信用サイクルの下押しリスクとなっている。2023年度まで、これらの問題が日本経済にどれほどの悪影響を及ぼすかは信用サイクルがどれほど下押されるかに左右される。

信用サイクルが腰折れば、企業のリストラやデレバレッジを誘発し、景気後退に陥るリスクとなる。これまで企業は流動性を負債の拡大で維持してきた。流動性から負債の維持が困難となるソルベンシーの問題に深刻化することは、経済活動が回復することと、日銀の大規模な金融緩和の粘り強い継続、そして政府の追加の経済対策で防がれ、労働市場の回復は継続するだろう。

2024年度からは、企業活動は明確に活性化し、失業率が2%台前半に低下する中で賃金上昇が強くなり、内需は強く拡大していくだろう。デジタル技術革新は労働生産性向上の力になり、実質所得を増加させるだろう。人手不足感がかなり強くなり、内需の拡大が企業の採用競争を促進し、賃金上昇が物価上昇につながる形に進展するとみる。

▽信用サイクル(日銀短観中小企業貸出態度DI)と失業率

信用サイクル(日銀短観中小企業貸出態度DI)と失業率
(画像=出所:総務省、日銀、作成:岡三証券)

企業 ― 設備投資サイクルが天井を打ち破りデフレ構造不況からの脱却の転換点へ

異常なプラスの企業貯蓄率が示す弱い企業活動が、総需要を破壊する力として内需低迷とデフレの長期化の原因になってきた。

第四次産業革命を背景としたAI・IoT・ロボティクスを含む技術革新、デジタル・トランスフォーメーションという新しいビジネスモデル、遅れていた中小企業のIT投資、脱炭素への取り組み、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、無形資産の拡大に向けた研究開発、そしてウィルス問題後の新常態への適応などの投資テーマには広がりが出てきた。

コロナショック下でのIT技術の活用の経験もイノベーションを促進するだろう。経済活動が回復してくれば、労働需給の逼迫で、生産性と収益率を投資によって向上させる必要性が強く意識されるだろう。

ウクライナ問題などもあり、サプライチェーンの維持やエネルギーの確保、権威主義国への依存の解消を含めた経済安全保障も大きなテーマになってきた。2024年度までには、企業の新たな商品・サービスの投入が消費を刺激する好循環の中、グリーンやデジタル、先端科学技術などのニューフロンティアを拡大する政府の成長投資を含む経済対策の効果と合わせて、リベンジ設備投資が、景気回復を経済活動の停滞感が残るU字型から強いV字型に変えるだろう。

2025年度までには、設備投資サイクルを示す実質設備投資のGDP比率はバブル崩壊後初めて17%弱の強固な天井を打ち破り、企業の期待成長率・収益率が上振れ始めたことを示すだろう。

企業貯蓄率は低下していき、正常なマイナスに戻り、総需要を破壊する力がなくなることでデフレ脱却の条件が整うだろう。バブル崩壊後のデフレ構造不況からの脱却の転換点に来たことをマーケットは感じるようになるだろう。

▽設備投資サイクル(実質設備投資GDP比)と企業貯蓄率

設備投資サイクル(実質設備投資GDP比)と企業貯蓄率
(画像=出所:内閣府、日銀、岡三証券、作成:岡三証券)

▽日本経済見通し

日本経済見通し
*寄与度 **資金循環統計ベース(画像=出所:内閣府、総務省、財務省、日銀、Refinitiv 、岡三証券、作成:岡三証券)
会田 卓司
岡三証券 チーフエコノミスト
田 未来
岡三証券 エコノミスト
松本 賢
岡三証券 エコノミスト

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