一定の期間における企業の資産や負債、損益の状況を確定する目的で行われる「決算」。企業の財務状態や経営成績などが明らかになるため、決算発表後は株価が大きく上下することも少なくない。より戦略的な投資を目指すなら、決算書の見方やチェックするべきポイントを確認し投資判断に活かしていこう。

目次

  1. その目的は?どんなスケジュール? 決算の概要を確認
  2. 決算手続きの流れ
  3. 投資判断にチェックするならここ。決算を構成する3つの書類
  4. 投資家なら知っておきたい損益計算書の利益とは
  5. 実際にどう読み解く?投資家のための貸借対照表と損益計算書の分析方法は?
  6. 投資家がチェックするべき決算のポイント
  7. まとめ:投資家として決算の見方を知り、ワンランク上の投資を目指そう

その目的は?どんなスケジュール? 決算の概要を確認

決算から何がわかる? 決算書の見方と投資家が知っておくべきチェックポイントを徹底解説
(画像=domnitsky/stock.adobe.com)

会社の売上や利益、業績見通しなどの報告が行われる「決算」。国内の株式市場に上場する日本企業には原則として、四半期(3ヵ月)ごとの決算発表が義務づけられている。決算は何を目的とし、どのようなスケジュールで行われるのか。ここではまず、決算の概要を確認しよう。

決算の目的

決算は、企業の資産や負債、純資産の状況を把握し確定するために行われる手続きだ。決算は以下の目的で行われる。

▽決算の目的
・経営者が自社の財務状態や経営成績を把握するため
・株主や取引先、金融機関といったステークホルダーに経営状態を報告するため
・税額を確定し申告および納税するため

決算は、健全な経営を図るために企業にとって欠かせない手続きだ。また、企業の利害関係者であるステークホルダーが、経営状態や財務状況を知るための材料としての重要な役割も担っている。

決算スケジュールとは

原則として、上場企業の決算は年4回(3ヵ月ごと)行われる。法人の決算日に規定はなく自由に設定できるため、決算が行われるタイミングは企業によって異なる。

たとえば、4月から翌年の3月までの1年を会計年度とする企業の場合、4~6月を第1四半期、7~9月を第2四半期、10~12月を第3四半期、翌年1~3月を第4四半期と呼ぶ。また、第1~2四半期は「上半期(上期)決算」、第3~4四半期は「下半期(下期)決算」とされる。

企業は、各四半期が終わってから1ヵ月半(45日)以内に決算発表を行う必要がある。なかでも第4四半期は「本決算」と呼ばれ、その会計年度の通期の決算発表が行われるためもっとも注目が集まる。株式を保有する企業や、投資を検討する企業の決算を見るなら、まずは本決算のタイミングを確認し決算内容をチェックしよう。

決算手続きの流れ

決算は、以下の手順で行われる。

▽決算の手順
1.決算残高の確定
2.税金の計算および計上
3.決算書の作成
4.株主総会などで承認を受ける
5.法人税申告書の作成および提出

決算残高の確定

決算書を作成するには、決算日時点での各勘定科目の残高と実際の残高が一致していることを確認し、決算残高を確定する必要がある。そのためにまず当期分の記帳を終わらせた上で、試算表や明細表を作成し、残高の確認が行われる。

税金の計算および計上

決算残高が確定したら、税金の計算および計上を行う。法人が納める主な税金には、以下が挙げられる。

▽法人が納めるべき主な税金
・法人税
・法人事業税
・法人住民税

法人税は、企業の所得に対して課せられる国税だ。決算日の翌日から2ヵ月以内に税務署に確定申告書を提出し、税の納付を完了する必要がある。

法人事業税は、法人が事業を行うにあたって利用しているさまざまな公共サービスや公共施設について、その経費の一部を負担する目的で課税される税金だ。納税は、都道府県に行う。

法人住民税は、事業所のある地方自治体に対して納める税金だ。個人の住民税と同様に、法人であっても自治体の公的サービスを享受しているという観点から納税が義務付けられている。税金は、事業所がある地方自治体に対して行う。

決算書の作成

決算残高が確定し税額の計算が終わったら、決算書を作成する。作成した決算書は不備や間違いなどがないよう、監査役の確認を受ける必要がある。

株主総会などで承認を受ける

監査役による決算書の確認が完了したら、株主総会などで承認を受ける必要がある。株式会社は原則として定時株主総会での承認が必要だが、例外として取締役会および会計監査人を設置している企業は、当該計算書類の内容を定時株主総会で報告するだけでもよい。

法人申告書の作成および提出

決算書の作成が完了したら、法人税など税金の申告書類も作成することになる。申告書の提出および納税は原則として、期末日から2ヵ月以内と決まっている。期限内に速やかに申告納税を終えられるよう、企業は計画的に作成作業を進める必要がある。

投資判断にチェックするならここ。決算を構成する3つの書類

決算書を構成する主な書類は、「貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう)」および「損益計算書(そんえきけいさんしょ)」「キャッシュフロー計算書」だ。これら3つの書類は財務三表(ざいむさんぴょう)と呼ばれ、企業がどのように資金調達したかや、どのような利益を得たかなど、事業に関する資金の流れが記される。企業の決算を投資判断に役立てるためには、財務三表の読み込みができるかがポイントとなるだろう。

決算を構成する書類1:貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう)

貸借対照表は、企業の財務状況を記した財務諸表だ。資産および負債、純資産を1つの表で管理することで、安定した経営ができているかを確認することができる。企業の財産の残高(バランス)を一覧表(シート)にまとめて記すことから、「バランスシート(B/S)」とも呼ばれる。

貸借対照表ではシートの左側に借方となる「資産の部」、右側に貸方となる「負債の部」および「純資産の部」が記される。それぞれの部の詳細は、以下のとおりだ。

▽貸借対照表の借方および貸方の詳細

【借方(かりかた)】
資産の部:企業が集めた資金や蓄積した利益の使途および保有状況を記載

【貸方(かしかた):企業が集めた資金の調達方法を記載】
・負債の部:返済義務が発生する借入金や対価の支払いが必要な買掛金、将来の支出に対し備える引当金などが含まれる
・純資産の部:企業が保有する資金のうち、返済義務がないものが記載される。株主から集めた出資金や利益剰余金(内部留保)などが含まれる

資産の部および負債の部、純資産の部に記される主な科目を以下で確認しよう。

▽貸借対照表に記される主な科目

借方貸方
資産の部負債の部
流動資産:
現金および1年以内に現金化できる資産。預金や受取手形、売掛金などが該当

固定資産:
1年以上にわたり利用され、現金や価値を生み出す資産。土地、建物、機械装置、借地権、特許権などが該当

繰延資産:
売却による現金化ができない資産。創立費、開業費、開発費などが該当
流動負債:
1年以内に返済義務がある負債。支払手形、買掛金、未払金などが該当

固定負債:
返済日が1年以上先の負債。社債や長期借入金などが該当
純資産の部
株主資本金:
株主全体に帰属する資産。資本金、資本剰余金、利益剰余金の合計から自己株式を引いた金額となる

その他の包括利益累計額:
新株予約権や非支配株主持分が該当
※筆者作成

貸方において負債の部の割合が多い企業は、自由に利用できる資金が少ない一方で、多くの借り入れができるだけの信用力があるとも考えられる。純資産の部が多い企業は、比較的自由に使える資金を多く持つと考えられる。ただし場合によっては、多くの内部留保を抱えている企業の可能性があることは知っておこう。

決算を構成する書類2:キャッシュフロー計算書

キャッシュフロー計算書は、現金の増減とその原因が把握できる財務諸表だ。キャッシュフロー計算書を確認すれば、現時点で企業が保有する現金額がわかる。また、期首と比較することで現金残高の推移を知ることも可能だ。

決算を構成する書類3:損益計算書

損益計算書は、企業の収益力をまとめた財務諸表だ。プロフィット&ロス・ステイトメント(Profit&Loss statement)を略して(P/L)と呼ばれることもある。

損益計算書を分析すれば、どのくらいの費用を使って収益を上げ、どれだけの利益を生み出したかを知ることができる。投資を検討している企業の収益力を知りたいなら、損益計算書はとくに確認したい書類の1つだ。

損益計算書は、「経常損益」と「特別損益」に分けて記される。経常損益は、企業の経営活動から発生する損益のことで、本業となる営業活動から発生する「営業損益」と、営業活動以外から生じる「営業外損益」で構成される。

特別損益は、本業以外で臨時突発的に発生した損益だ。特別利益の一例としては固定資産売却益、特別損失の一例には災害損失が挙げられる。最終的に企業がどのくらいの利益を上げたかは、経常損益と特別損益を計算し、法人税などの税金を引いて算出する。

損益計算書を分析すれば、企業があげている収益の内容をより詳しく知ることができる。決算を投資に活用するなら、貸借対照表と併せて損益計算書にもしっかりと目を通したい。

投資家なら知っておきたい損益計算書の利益とは

ここでは財務三表のなかでもとくに、損益計算書を読む際に知っておきたい4つの利益(売上を含む)の見方を解説する。投資の材料として活用する方法も、併せて確認しよう。

投資家なら知っておきたい損益計算書の利益1:売上高

売上高とは営業損益の部に計上される利益で、企業の商品やサービスを提供して得られた売上金額の合計をいう。本業で稼いだ利益が対象のため、有価証券の売却益や不動産収入などは含まれない。

売上高は企業の商品やサービスがどれだけ利益を生み出しているかを示すため、決算書を見るならまず確認したい項目だといえるだろう。

投資家なら知っておきたい損益計算書の利益2:営業利益

営業利益とは、売上高から原材料などの売上原価と、人件費および広告費といった販売費や一般管理費を引いたものだ。営業利益を知れば、経営のコストパフォーマンスを知ることができる。

売上高が多いにも関わらず営業利益が少ないなら、事業にコストがかかりすぎている可能性もある。その場合、コストがかさんでいる理由についても確認すると安心だ。

投資家なら知っておきたい損益計算書の利益3:経常利益

経常利益とは、営業損益と営業外損益を合わせた経常損益部分の利益のことだ。営業利益に営業外収益を加え、営業外費用を差し引いて求める。つまり経常利益は、企業における通常の活動の経営成果を総合的に表したものだ。

経常利益には突発的な損益は含まれないため、企業の稼ぐ力を知りたいときに確認するべき数字だといえる。

投資家なら知っておきたい損益計算書の利益4:税引前当期純利益

税引前当期純利益は、経常利益に特別損益を加減したものだ。特別損益が発生しなかった年は、経常利益と税引前当期純利益は同額となる。

税引前当期純利益は、特別損益によって金額が変わる。特別損益は、固定資産の売却益や災害損失など金額が大きいケースも多く、場合によっては税引前当期純利益に大きな影響を与えることは知っておくべきだ。

たとえば、自然災害などにより多額の特別損失が発生した場合、税引前当期純利益は赤字になるかもしれない。しかし経常利益が黒字なら、本業は順調であると考えることができる。

一方、不動産の売却などにより多額の特別損益を得ると、税引前当期純利益が大きくプラスになることもあるだろう。この場合、利益が出ていることに喜ぶだけでなく、経常利益ではどのくらいの利益をあげられているのか、しっかりと確認することが重要だ。

投資家なら知っておきたい損益計算書の見方4:当期純利益

当期純利益は、税引前当期純利益から法人税などの税金を引いたものだ。これが、企業の年間の最終的な利益となる。

注意したいのは、ここで引かれる税金は前期の所得をもとに計算されている点だ。そのため今期の経営成績を知りたいなら、税引前当期純利益も併せて確認しよう。

実際にどう読み解く?投資家のための貸借対照表と損益計算書の分析方法は?

投資において決算が重要な理由は、その事業の資金の流れや収益内容がわかることだ。企業の年間の事業成績がわかり、今後の事業見通しを立てる一助とすることができる。ここでは、貸借対照表および損益計算書から企業のどのような情報が読み取れるかを解説する。

貸借対照表を分析し「企業の安全性」を確認する

貸借対照表は、企業の安全性を計るのに適した資料だ。株式投資では、投資した企業が倒産するリスクはできるだけ小さく抑えたい。投資銘柄を選定する際には、貸借対照表をもとに算出できる「流動比率」および「自己資本比率」で企業の安全性を確認しよう。

・短期的な企業の安全性を計る:流動比率
流動比率は、短期の負債に対する企業の支払い能力を知ることができる指標だ。流動比率の計算は以下の式で行う。

▽流動比率の計算式

流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100

流動比率は一般的に200%以上だと健全で、100%を切ると危険だとされる。ただし、情報通信業やサービス業に比べ卸売業や小売業などは流動比率が低くなるなど、業種によっても流動比率の水準に差があるため、同業他社間で比較検討することが重要だろう。

・長期的な企業安全性を計る:自己資本比率
自己資本比率は、企業が調達した資金のうち返済不要な資金が占める割合を知れる指標だ。自己資本比率が高い企業は、一般的に財務面の安全性が高いとされる。自己資本比率の計算式は以下のとおりだ。

▽自己資本比率の計算式

自己資本比率(%)=自己資本÷総資本×100

自己資本比率は一般的に、20~50%程度であれば問題ないとされる。なお、自己資本比率は高ければ高いほどよいというわけでもない。自己資本比率が高すぎる企業は、信用力不足等何らかの理由で金融機関からの借り入れができない状態の可能性もある。

そのほか、自己資本比率を見る場合には、預金などすぐに現金化できる資産がどのくらいあるかも確認するべきだ。

損益計算書を読めば「利益の性質」をより詳しく知れる

損益計算書をしっかり読むことができれば、企業が生み出す利益の内容や性質をより詳しく知ることができる。本業で利益を上げている企業へ投資したいと考えるなら、損益計算書を分析することが重要だ。ここでは、損益計算書から読み取れる3つの指標を紹介する。

・損益計算書の重要指標1:売上総利益率(粗利率)
売上総利益率は、売上原価に対しどれだけ利益を上乗せしているかを表す数値だ。

▽売上総利益率の計算式

売上総利益率(%)=売上総利益÷売上高×100

売上総利益率については数値が高いほど利益率が高いと考えられるが、業種によっても数値の水準が異なる。売上総利益率を見るなら、同業種間や同社における数年のデータの推移を比較する必要がありそうだ。

・損益計算書の重要指標2:売上高営業利益率
売上高営業利益率は、売上高に対する営業利益の割合だ。本業がどれだけ利益を上げられているかを表す。

▽売上高営業利益率の計算式

売上高営業利益率(%)=営業利益÷売上高×100

売上高営業利益率も、数値が高いほど本業での利益が上がっているとされる。5%を超えると優良、1~3%程度は一般的な数字だといわれる。なお、売上高営業利益率も業種によって差があるため、同業他社間で比較することが重要だ。

・損益計算書の重要指標3:売上高経常利益率
売上高経常利益率は、本業での利益プラス通常の会社の活動でどれだけの利益が上がっているかを表す指標だ。

▽売上高経常利益率の計算式

売上高経常利益率(%)=経常利益÷売上高×100

売上高経常利益率が高いほど、効率的な経営を実現しているといえる。もし0%を下回っているなら、経営状態は赤字と考えられるため、投資は再検討した方が良いだろう。

投資家がチェックするべき決算のポイント

最後に、投資家が決算を見る際にチェックするべき3つのポイントを解説する。

投資家の決算チェックポイント1:決算書の各項目の伸び率

決算のチェックポイントの1つめは、各項目の伸び率だ。企業の現状を知るだけなら、1期分の決算を見れば足りる。しかし、企業の成長性や業績の推移を見るなら複数年分の決算を確認することが重要だ。

単に前年と比較するだけでなく伸び率まで分析・把握することで、今後の成長性や収益の予測を立てることができる。順調に成長している企業なら、今後の株価の上昇も期待できるだろう。

一方、伸び率が鈍化している場合、投資家に悪材料と捉えられ株価が下落する可能性がある点も知っておこう。

投資家の決算チェックポイント2:業績見通しと結果

決算では一般的に、業績の報告と併せて今後の見通しが行われる。具体的には、第1~3四半期に「今期の通期業績見通し」、第4四半期(通期決算)には「来期の通期業績見通し」が公表される。

また通常は見通しと併せて、「以前の見通しより上方修正されたか」「下方修正されたか」、それとも「修正はなかったか」などがチェックされる。下方修正は株価の下落、上方修正は株価の上昇につながる可能性がある点は知っておくべきだろう。

投資家の決算チェックポイント3:コンセンサス(市場予想の平均値)に対する業績

決算では、コンセンサスを上回るかも重要視される。決算の結果がコンセンサスを上回った場合、予想よりも株価が上がる可能性がある。

一方、決算結果がコンセンサスを下回った場合には、決算結果に関わらず株価が下落するケースも少なくない。株式投資をするなら、その銘柄に対するコンセンサスも知っておくべきだろう。

コンセンサス(アナリスト予想)は、各証券会社の顧客ページなどで確認できる。すでに口座を保有しているなら、株式を売買する前に確認しよう。

まとめ:投資家として決算の見方を知り、ワンランク上の投資を目指そう

決算は、一定の期間における企業の資産や負債、純資産の状況を確定する目的で行われる。経営者にとっては保有する企業の健全化を目指す資料となるとともに、ステークホルダーに財務状況を開示するといった重要な役割も持つ。

決算書を構成するのは、財務三表と呼ばれる「貸借対照表」および「損益計算書」、「キャッシュフロー計算書」だ。財務状況を詳しく知りたいなら貸借対照表、現金の現状を知りたいならキャッシュフロー計算書、収益力を確認するなら損益計算書を確認しよう。

決算書は1期だけでなく、複数年分を確認し推移を知ることが重要だ。また、決算書の内容とコンセンサスに乖離がある場合、市場の期待感や失望感に繋がり決算結果とは関係なく株価が上下する可能性がある点には注意しよう。

このように決算は、株価の値動きに大きな影響を与えるケースも少なくない。本記事を参考に決算書の読み込みおよび活用にチャレンジし、より戦略的な株式投資の実現を目指そう。