この記事は2022年12月8日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「日銀短観(12月調査)予測~大企業製造業の業況判断DIは2ポイント下落の6と予想、先行きは総じて警戒感が強めに」を一部編集し、転載したものです。

日銀短観
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目次

  1. 要旨
  2. 12月短観予測:景況感は方向性が分かれる、設備投資計画は好調を維持か
    1. 大企業非製造業の景況感は改善
    2. 設備投資計画は大幅な回復計画を維持する見込み
    3. 注目ポイント:仕入・販売価格判断DI、設備投資計画
    4. 金融政策変更の決定打にはならない

要旨

  1. 12月短観では、原材料・エネルギー価格の高騰が引き続き幅広く景況感の重荷となるなか、半導体市場の悪化等に伴う海外需要の低迷もあり、大企業製造業の景況感がやや悪化すると予想。なお、円安進行は原材料高に繋がっている反面、輸出割合の高い業種では輸出採算の改善などを通じて景況感の追い風になったと考えられる。一方、非製造業については、経済活動再開の流れが継続したうえ、全国旅行支援などの政策的な追い風もあり、対面サービス業を中心に景況感がやや改善すると見込んでいる。

  2. 先行きの景況感は総じて悪化し、先行きへの警戒感が示されると予想。製造業では世界経済の減速に対する懸念が景況感を圧迫しそうだ。また、非製造業ではコロナ再拡大による人出の減少や物価上昇に伴う国内消費の減退に対する警戒感が重荷となるだろう。

  3. 今年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年比16.2%増と前回からほぼ横ばいとなり、大幅に持ち直す計画が維持されると予想。収益回復による投資余力の改善、昨年度から先送りされた計画の存在、脱炭素やDX・省力化に向けた需要の存在などが好調の背景となる。

  4. 今回特に注目されるのは、前回に続き、仕入・販売価格判断DIの動きだ。既往の資源・エネルギー高や円安進行による輸入物価上昇を受けて、コスト増に直面した企業が価格転嫁を進めたことで物価上昇が加速し、家計の負担感が強まっている。今回、仕入価格がどの程度上昇し、企業の採算がどれだけ圧迫されているか、今後はどの程度仕入価格が上昇し、販売価格に転嫁される見通しなのかが明らかになる。また、設備投資計画の重要性も高い。輸出では海外経済減速の可能性が高まっており、個人消費にもコロナの再拡大や物価上昇の加速といった下振れリスクが燻っている。そうした中、設備投資について、好調な計画が維持されるかが日本経済の回復の持続性や下振れリスクに対する耐久力を左右する。

日銀短観(12月調査)予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

12月短観予測:景況感は方向性が分かれる、設備投資計画は好調を維持か

大企業非製造業の景況感は改善

12月14日に公表される日銀短観12月調査では、製造業と非製造業で景況感の方向性が分かれ、景気がまだら模様となっていることが浮き彫りになりそうだ。引き続き、原材料・エネルギー価格の高騰が幅広く景況感の重荷となった。そうした中、大企業製造業ではさらに海外需要も低迷したことで、業況判断DIが6と前回9月調査から2ポイント下落すると予想する(表紙図表1)。この場合、景況感の悪化は昨年12月調査以降4四半期連続ということになる。一方、大企業非製造業では、経済活動再開の流れが継続したうえ政策的な支援もあり、業況判断DIが17と前回調査から3ポイント上昇すると見込んでいる。

業況判断DIの水準で見ると、製造業はもとより、非製造業でもまだコロナ禍前のピーク(*1)には距離を残す形となる。

ちなみに、前回の9月調査(*2)では、上海の都市封鎖解除に伴う供給制約の緩和が支えとなったものの、原材料・エネルギー価格の高騰などが逆風となって大企業製造業の景況感が弱含む一方、非製造業では経済活動再開の流れが続いたことで、景況感がわずかに改善していた(図表2・3)。

日銀短観(12月調査)予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

前回調査以降も、既往の資源高や円安進行に伴う原材料・エネルギー価格の高騰が続いている。また、自動車産業における部品不足などの供給制約は緩和に向かっているとみられるが、世界的な半導体市場の悪化や中国経済の回復の遅れなどから海外需要が低迷している。一方、国内では行動制限の再発令が回避されたうえ、全国旅行支援や入国制限の緩和などの政策的な追い風を受けて人出が前年を上回って推移し、サービス需要が回復している(図表4~7)。

今回、大企業製造業では、原材料・エネルギー価格の高騰が引き続き景況感の重荷となったうえ、海外需要の低迷もあり、景況感がやや悪化すると見ている。なお、円安の進行は円建て輸入価格を押し上げることで原材料・エネルギー高に繋がっている一方、輸出割合の高い加工業種では輸出採算の改善などを通じて景況感の追い風になったと考えられる。

非製造業についても、原材料・エネルギー価格の高騰が引き続き景況感の重荷となったものの、経済活動再開の流れが継続したうえ、全国旅行支援などの政策的な追い風もあり、対面サービス業を中心に景況感がやや改善すると見ている。

中小企業の業況判断DIは、製造業が前回から1ポイント下落の▲5、非製造業が2ポイント上昇の4と予想している(表紙図表1)。大企業同様、製造業の景況感がやや悪化する一方、非製造業の景況感は改善すると見込んでいる。

日銀短観(12月調査)予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)
日銀短観(12月調査)予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

先行きの景況感は総じて悪化し、先行きに対する警戒感が示されると予想している(表紙図表1)。まず、製造業では急速な利上げに伴う欧米の景気後退やゼロコロナ政策下にある中国経済の低迷など世界経済の減速に対する懸念が景況感を圧迫しそうだ。また、非製造業ではコロナ感染再拡大による人出の減少や物価上昇に伴う国内消費の減退に対する警戒感が重荷となるだろう。なお、足元では、国際商品市況の上昇や円安の進行が一服しているものの、原材料・エネルギー価格高止まりに対する警戒感も払拭されないとみている。


*1:ピークの時期はともに2017年12月調査。当時のDIの水準は製造業が26、非製造業が25。
*2:前回9月調査の基準日は9月12日、今回12月調査の基準日は11月28日(基準日までに約7割が回答するとされる)。


設備投資計画は大幅な回復計画を維持する見込み

2022年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年比16.2%増と9月調査としては過去最高の伸びを記録した前回(同16.4%増)からほぼ横ばいとなり、前回同様、前年から大幅に持ち直すとの計画が維持されると予想している(図表8~10)。例年、12月調査では中小企業において計画の具体化に伴って若干上方修正される傾向が強いほか、企業収益の回復を受けた投資余力の改善、昨年度から先送りされている計画の存在、脱炭素やDX・省力化に向けた投資需要の存在が好調な設備投資計画の背景となる。

ただし、資源高や円安によって資材価格が高騰しているうえ、欧米の利上げや中国のゼロコロナ政策などを受けて海外経済の後退懸念が高まっていることから、一部で投資の見合わせや先送りの動きも出始めていると考えられる。このため、前回調査からの伸び率の修正幅(▲0.2%ポイント)は例年(*3)をやや下回ると見ている。

日銀短観(12月調査)予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)
日銀短観(12月調査)予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

*3:2012~21年度における12月調査での修正幅は平均で+0.9%ポイント


注目ポイント:仕入・販売価格判断DI、設備投資計画

今回の短観で特に注目される項目としては、前回に続き、仕入価格判断DIと販売価格判断DIが挙げられる(図表11)。

既往の資源・エネルギー価格の上昇や円安の進行による輸入物価上昇を受けて、コストの増加に直面した企業が価格転嫁を進めたことで国内でも物価上昇が加速しており、家計の負担感が強まっている。足元にかけても輸入物価が高止まるなかで、今回の仕入価格がどの程度上昇し、企業の採算がどれだけ圧迫されているか、今後はどの程度仕入価格の上昇が見込まれ、どの程度が販売価格に転嫁される見通しなのかが両DIの動きによって示される。この点は、企業業績や物価、日本経済の行方を占ううえで重要な手がかりになる。

また、これに関連して、企業のインフレ期待がさらに高まるかも注目される。企業の物価見通しは物価上昇の加速を受けて前回にかけて大きく上昇しており、5年後では初めて2%(全規模計)に到達した(図表12)。とりわけ中期のインフレ期待が高まれば、企業による賃金や価格設定に影響を及ぼす可能性もある。

日銀短観(12月調査)予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

さらに、今後の日本経済の行方を占ううえでは、今年度の設備投資計画の重要性も高い。GDPの需要項目のうち、輸出に関しては海外経済減速の可能性が高まっており、内需の柱である個人消費に関してもコロナ感染の再拡大や物価上昇の加速といった下振れリスクが燻っている。そうした中で、内需のもう一つの柱である設備投資について、好調な計画が維持されるのかが日本経済の回復の持続性や下振れリスクに対する耐久力を左右する。

金融政策変更の決定打にはならない

今回の短観が日銀に早期の金融政策変更を促す可能性は低いだろう。

まず、今回の景況感はまだら模様となることが予想されるうえ、今年度の設備投資計画が好調な内容であったとしても、その実現性に対する不確実さは依然として残る。

また、販売価格判断DIや企業の物価見通しが高止まりすることで、物価上昇の継続性に対する日銀の見方を強気化させる可能性はあるものの、日銀の目指す「賃金上昇を伴う形で安定的な2%の物価上昇」という状況が実現するためには、来年の春闘での大幅な賃上げ妥結が不可欠だ(かなりハードルは高い)。従って、日銀は当面、現行の金融緩和を維持しながら、企業による賃上げの動向などを注視していくだろう。


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上野 剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席エコノミスト

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