株を買っても、債券を買っても値下がりした2022年、その中で伝統的資産クラスの「代替」になるものが何かないかと期待されたオルタナティブ投資も、2022年に限って振り返れば惨憺たる結果となったものがほとんどだ。たとえば代表的な不動産指数である「ダウ・ジョーンズ米国不動産指数」の年初来11月末までのパフォーマンスは△20.04%と、実は先進国株式の△16.47%よりも悪い。コモディティは年間通算すると+28.90%と振り返れば良好な数値に見えるが、あのボラティリティに耐えられる胆力ある投資家はそうそういないだろう。2023年の投資戦略を組み立てる上で伝統的資産クラスとオルタナティブ投資の使い方には再考が必要だ。
株式および債券投資のパフォーマンスが安定せず、そのリスク分散のために「伝統的な資産クラスとの相関性が低い資産クラス」として、欧米の年金基金などの大手機関投資家はオルタナティブ投資に関心を寄せてきた。ここに「オルタナティブ投資」を理解する上で重要なキーワードがある。「相関性が低い」だ。
誤解している向きも多いが、「相関性が低い」という言葉の意味は決して「反対方向に動く」ということではない。やや乱暴なたとえだが、株価と金利は正反対に動く。つまり、金利が上がると株価は下がり、金利が下がると株価は上がる。もちろん例外的なタイミングもあるが、これが株価と金利の関係に関する基本的セオリーだ。もしAとBが必ず正反対に動くのであれば、そこには「負の相関関係がある」といえるだろう。
「相関性」とは「2つのものが密接にかかわり合い、一方が変化すれば他方も変化するような関係」(Goo辞書)のことだ。数学的には、その度合いは「△1~+1」の間を辿り、△1はピッタリ正反対に動くこと、そして+1ならピッタリ同じ方向に動くことを意味する。その中間のゼロは何かといえば、正にそれが「相関性が低い」ということである。2つの事象の変化に何の規則性も見出せないという意味だ(※数学的にゼロになることは計算式的に有り得ないが)。
ここでお気付きだろう。
オルタナティブ投資は一般的には「伝統的な資産クラスに対して相関性が低い投資」と定義されるが、その定義には「負の相関を持つ」という意味は含まれていない。相関係数の絶対値が1より低ければ「相関性が低い」という説明にはなるが、仮に絶対値が0.7や0.6とやや低い場合でも、正負記号がマイナスでない限りは、統計学的には約6~7割は似たような方向に動くということなのだ。
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2022年が資産運用にとって苦難の1年となった大きな理由は、世界的な金利の上昇傾向にある。コロナ禍のパンデミックから急速に回復しようとした世界経済は、金利の上昇によってサプライチェーンのミスマッチを起こし、需要に供給が追い付かないことから物価高を招くことになった。そこにロシアのウクライナ侵攻が加わり、燃料価格や穀物価格が高騰、インフレが加速した。
そしてこの流れを抑え込むために、多くの中央銀行がさらなる利上げを繰り返した。その結果、株価は下落した。もちろん金利上昇に伴って債券価格も下落、過去40年間機能してきた「株式と債券との分散投資効果」もうまく機能しない、まさに両者共倒れの1年となったのだった……。
このような状況でオルタナティブ投資が伝統的な投資に対する「代替」としてリスク分散に寄与しなかった理由の1つは、相関性は確かに低いものの、それが実は「正の相関」だったため、同じように値下がりしたものが多いということだ。不動産指数の下落率が先進国株式の下落率を上回るのはまさに相関が低い証なのだが、相関が低いからといって、その絶対値が小さくなることは担保しないのである。仮に相関性が1ならば、数学上は下落率もほぼ同じになったはずだ。
そして、オルタナティブ投資がリスク分散に寄与しなかったもう1つの理由は、これは2022年の相場状況に限ったことではないがーー、リスクとリターンの関係の見誤りにある。投資収益として高いリターンを得るには、何らかのリスクを取らざるを得ず、リターンはそのリスクを取った者への「報酬」だ(成功した場合に限るが)。よく「リスクとリターン」ともいわれるが、「リスク(RISK)とリワード(REWARD)」という言い方の方が的を射ている。端的な例が宝くじだ。買わなければ当たらないが、逆に1円の損もしない。「当たるわけないが……」と言いながらも「夢を買ったつもりで」と投資した人にだけ、幸運の女神が微笑むチャンスが与えられる。極端な例ではあるが、宝くじこそ、リスクを取った者だけが報われる際たるものだ。だからこそ、相関性が低いということよりも、どんなリスクを取ったオルタナティブ投資なのかを適切に理解することが肝要だ。
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2022年、コモディティのパフォーマンスが年初来から11月末までで+28.90%に及ぶとお伝えしたことがあるが、このパフォーマンスを享受するには非常に胃が痛い思いをしたことだろうと思う。そもそも今回のリターンの源泉は「War Risk」だ。(ロシアとウクライナが)早期に停戦するのか、核戦争に発展するのかなど、その方向性をジャッジすることは至難の業だ。だからこそ、今その+28.90%に微笑む投資家は、それをきちんと意図して手に入れたのか、もしくはまったくどんなリスクを取っているのか気付かないままに無頓着に放っておいた結果として「たまたまラッキー」で転がり込んだものなのか、次に繋げるためにはそのあたりの状況を冷静に見極めないといけない。
不動産のパフォーマンスが先進国株式よりも悪かったのは、中央銀行が政策金利を引き上げ、また金融引き締め策をとったからだ。不動産も通常の投資スタイルならば「値上がり」しないとプラスのリターンは得られない。もしくは、高い家賃でも払ってくれる店子が順調に集まってこそリターンが得られる。ならばその不動産を買う主体、あるいは借りる主体はどこからどうやってその資金を持ってくるか。まずよほどのことがない限り、それが法人であれ、個人であれ、銀行預金を取り崩してキャッシュで不動産を買う例は少ないだろう。銀行ローンなり、社債の発行なり、何らかの資金調達を行って不動産の購入資金に充てるものだ。2022年はこの金融環境で従来通り潤沢な資金が不動産市場に回るかどうかに対し、リスクを取ったことになる。ただ答えは、資金のパイプが詰まって買い手が減り、高い家賃を払うよりはコストカットを考えるCEOが増え、都会の高い家賃に耐えるよりも郊外の住宅に住み、リモートで働くことを選んだ人たちの方が多かった。結果的に、不動産の値上がりも高利回りの賃貸収入も「絵に描いた餅」となった。
ではオルタナティブ投資の中のオルタナティブとも呼ばれる「ヘッジファンド」の2022年のパフォーマンスはどうだったか。筆者の知見の範囲でいえば、苦戦したファンドが多いと聞いている。たとえばCTA(Commodity Trading Advisor)と呼ばれるヘッジファンドは、商品先物のみならず、通貨や株式指数先物など幅広いレバレッジド投資を行っているが、商品価格の変動要因が「War Risk」であったことを考えると、パフォーマンスが「荒れた」ことは容易に想像できるだろう。さらにそれにレバレッジをかけているのだから、勝敗の行方は極めてはっきりしている。暗号資産(仮想通貨)を利用したファンドも多かったが、そもそも暗号資産自体が下落トレンドにあったところに「FTXの破綻」でとどめを刺された感がある。暗号資産は元々、裏付けのある資産ではない以上、価格変動の方向性は一方通行にもなりやすい。
2023年のパフォーマンスを危惧している「オルタナティブ投資」がもう1つある。プライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)だ。PEファンドが投資対象とするのはその名の通り「非上場の株式」なので、実は投資対象の価格の透明性が低い。そもそも将来の価値急増を期待しているものや、企業再生などでターンアラウンドさせて価値向上を目指すのがプライベート・エクイティの本質である以上、現時点で解散した場合の価値が投下資本を下回る可能性は高い。もちろん、その価値算定には第三者の監査法人などが関わっているが、上場株式のように日々刻々と市場の目にさらされるものではなく、お手盛り部分がある可能性までは排除できない。
市場取引ではないという意味では、実は不動産も同じだ。時価評価に使っている価格での販売が担保できない以上、実はREIT(不動産投資信託)などの運用サイドが考える時価より実勢が低い可能性は否定できない。ただ、買いが優勢な時はこうした問題は表面化しない。
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さてここまで見てきて「なんだ、オルタナティブ投資なんて全然役に立たないではないか」と思われた人も多いかもしれない。だが、それはあまりにも性急に出し過ぎた結論だろう。重要なことは「どんなリスクのリワード(報酬)」としてのリターンを期待して投資するのかを把握すること。そして散りばめられるカタカナや専門用語を臆せずにきちんと理解すること。それができないのならば、オルタナティブ投資には手を出さない方がよいかもしれない。ただ、そのリターンの源泉さえ適切に理解できていれば、オルタナティブ投資アセットを含めた投資対象の選択肢自体を多く持つことは正しい態度である。加えて、リターンが得られるまでのタイムスパンを決して単年度で見極めないこと。投資は継続してこそ高い成果を得られるのだから。