税制優遇制度のNISAでは、株式や投資信託、ETF、REITなどの運用益が非課税(※一定の投資枠内)になります。対象商品であれば投資するものを自由に選べますが、ネット上で「投資信託を買ってはいけない」といった情報を目にし、不安を感じている方も多いでしょう。
そのような方に向けて、本記事ではNISAの仕組みや投資信託との相性、よくある失敗例などをまとめました。NISAで投資する銘柄で悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
そもそもNISAとは?
NISA(ニーサ)は、金融庁が実施する投資の税制優遇制度です。毎年設けられる非課税投資枠の範囲内であれば、対象の金融商品(株式や投資信託など)で得た全ての運用益が非課税になります。
2022年12月現在、利用できるNISAには次の3種類があります。
<NISAの種類>
一般NISA:国内の成人を対象にした制度。株式や投資信託、ETFなどに投資できる。
つみたてNISA:長期積立投資を前提とした、成人向けのNISA。対象商品は投資信託(ETFを含む)。
ジュニアNISA:国内の未成年を対象にした制度。制度の仕組みは一般NISAと似ている(※)。
ここからは成人向けの「一般NISA」と「つみたてNISA」に分けて、制度の仕組みや特徴を見ていきましょう。
(※)ジュニアNISAの投資可能期間は2023年末で終了。
一般NISAの仕組み
一般NISAは、株式や投資信託、ETFなどの運用益が非課税になる制度です。対象商品が多く、「通常の売買」と「積立投資」の両方が行えるので、さまざまな投資スタイルに活用できます。
一般NISAの概要 | |
---|---|
対象商品 | 上場株式、投資信託、ETF、REITなど |
非課税対象 | 配当金、分配金、譲渡益 |
非課税期間 | 最長5年間 |
非課税投資枠 | 年間120万円 |
購入方法 | 通常の購入、積立投資 |
投資可能期間 | 2023年末まで (※2024年からは新NISAに移行) |
非課税期間はつみたてNISAと比べると短めですが、一般NISAでは毎年120万円の非課税投資枠が設けられます。年間120万円分の範囲内であれば、全ての配当金や分配金、譲渡金が非課税になるため、運用次第では大きな節税効果を狙えるでしょう。
つみたてNISAの仕組み
つみたてNISAは、主に少額からの長期積立や分散投資をサポートする制度です。一般NISAに比べると年間の非課税投資枠は少ないですが、最長で20年間の運用ができるため、800万円(40万円×20年間)までの取引が非課税になります。
つみたてNISAの概要 | |
---|---|
対象商品 | 長期積立や分散投資に適した投資信託 |
非課税対象 | 分配金、譲渡益 |
非課税期間 | 最長20年間 |
非課税投資枠 | 年間40万円 |
買付方法 | 積立投資のみ |
投資可能期間 | 2042年まで |
つみたてNISAの対象商品は、金融庁から認可を受けた一部の投資信託のみです。投資信託(ETFを含む)以外の金融商品(株式やREITなど)は対象外なので、金融機関が取り扱うファンドから運用するものを選ぶ必要があります。
なお、NISAは同時期に複数のNISAを併用ができないため、投資信託以外に投資したい方は一般NISAへの利用を検討しましょう。
NISAで投資信託を買ってはいけないといわれる理由
NISAについて調べた結果、「投資信託を買ってはいけない」といった情報を目にする方も多いでしょう。なぜ投資信託への投資は望ましくないとされているのでしょうか。
ここからは、一般NISAに絞って、投資信託を買ってはいけないとされる理由を解説します。
理由1.株式よりもリターンが小さくなりやすい
投資信託は複数の資産に分散投資しているため、個別の資産(株式など)と比べるとリターンが小さくなりやすくなっています。その代わりに、損失のリスクを抑えることが期待できるというメリットがあります。
実際にはファンドによって異なりますが、複数の地域に投資することで自然災害や紛争などが起こってもリスクを分散することが期待でき、特定の資産(株式や債券など)の価値が大幅に下落した場合であっても相対的に損失を抑えやすくなります。
投資信託のリターンとリスクの関係を理解した上で、
理由2.損益通算ができない
課税口座(一般口座・特定口座)とは違い、NISAでは節税につながる損益通算ができません。損益通算とは、複数の金融商品や証券口座の損益を合計することで、その年の利益と損失を相殺できる制度です。
<損益通算のシミュレーション>
【ケース1】
1年間のうちにA口座で300万円の利益、B口座で200万円の損失が出た場合
300万円-200万円=100万円(課税対象の利益)
【ケース2】
1年間のうちに投資信託で100万円の利益、株式で200万円の損失が出た場合
100万円-200万円=0円(※計算結果がマイナスになるため)
なお、NISA口座で損益通算ができないのは、株式やETF、REITなども同様です。NISAでは全ての金融商品が損益通算の対象外なので、この点だけを理由に投資信託を避ける必要はないでしょう。
理由3.繰越控除が適用されない
繰越控除とは、その年の利益から控除しきれなかった損失分を翌年以降に繰り越せる制度です。課税口座では損失を最長3年間まで繰り越せますが、NISAは繰越控除の対象外となります。
<繰越控除のシミュレーション>
【ケース1】
2020年に投資信託で50万円の利益、株式投資で80万円の損失が出た場合
80万円-50万円=30万円(※最長で2023年まで繰り越せる)
【ケース2】
2020年に30万円の損失、2021年に50万円の利益が出た場合
50万円-30万円=20万円(2021年の課税対象)
上記の繰越控除も、対象となる口座は損益通算と同じです。つまり、NISAでは全商品に適用されないため、繰越控除を理由に投資信託を諦める必要はありません。
理由4.非課税投資枠を超えると課税口座での扱いになる
一般NISAでは投資額が年間120万円を超えると、原則として課税口座での扱いになります。利益に対して20.315%の税金が課されるため、非課税投資枠を超えた分は節税効果がなくなります。
ただし、この点についても全商品が対象であり、投資信託に限った話ではありません。また、多くの金融機関では非課税投資枠を超える取引ができない仕組みになっています。
結論:一般NISAでも投資信託は投資の選択肢に入る
ここまでをまとめると、一般NISAでも投資信託は選択肢に入ります。損益通算や繰越控除ができない点、非課税投資枠を超えると課税される点は全商品に共通しているため、投資信託だけが劣っているわけではありません。
したがって、「NISAで投資信託を買ってはいけない」という情報を見ても鵜呑みにはせず、自分自身で運用方針を考えることが大切です。どのような商品にもメリットやデメリットがあるので、投資資金を踏まえて目的に合った金融商品を選びましょう。
一般NISAで投資できる金融商品のメリットとデメリットを以下にまとめたので、
NISAの主な商品 | メリット | デメリット |
---|---|---|
投資信託 | ・運用をプロに任せられる ・少額から始められる ・分散投資が比較的容易になる ・自動積立ができる |
・保有コストがかかる ・短期トレードには不向き ・リアルタイムでの取引ができない |
株式 | ・配当金や株主優待を狙える ・リアルタイムの価格で取引できる |
・分散先を自身で選ぶ必要がある ・倒産すると価値がゼロになる ・個別銘柄の情報収集が必要 |
ETF | ・少額から始められる ・分散投資が比較的容易になる ・リアルタイムの価格で取引できる |
・保有コストがかかる ・分配金が自動で再投資されない ・自動積立の対象外であることが多い |
REIT | ・不動産に間接的に投資できる ・物件管理の手間がかからない ・分散投資が比較的容易になる |
・自然災害リスクがある ・分配金が自動で再投資されない ・投資法人の倒産リスクがある |
他の金融商品に比べると、投資信託は長期積立や分散投資に向いている商品です。分配金が再投資されるファンドでは複利効果(※)が生じるので、長期運用によって収益を増やすことが期待できます。
相場によっては譲渡益も狙えるので、NISA口座でも選択肢の一つとして考えましょう。
(※)リターンを再投資に回すことで、利益が利益を生み出す仕組みをつくること。
一般NISAで投資信託を買ってはいけない?よくある失敗例
一般NISAでは投資信託も選択肢ですが、何も考えずに購入すると失敗を招くことがあります。運用を成功させるには、投資信託に潜むリスクもきちんと理解し、慎重にプランを考えることが大切です。
そのヒントとして、ここからは投資信託でよくある失敗例を紹介します。
失敗例1.手数料で利益がなくなってしまう
株式とは違い、投資信託の運用では保有コストが発生します。中でも運用管理費用にあたる信託報酬は、信託財産から毎日差し引かれるため、年率が高すぎるファンドを選ぶと本来得られるはずの利益が削られてしまう場合もあります。
上記はあくまで目安ですが、インデックスファンドや国内資産に投資をするファンドは、全体的に信託報酬が安い傾向にあります。一方で、アクティブファンドや外国資産型のファンドは保有コストがかさみますが、その代わりに相対的にリターンを狙えるものが中心です。
そのため、信託報酬などのコストに対して見合ったリターンが期待できるかを見極めて、投資信託を選び必要があります。
失敗例2.リスクが高いファンドのみを購入する
安定した資産運用を目指している場合は、投資先のリスクを抑える必要があります。リターンを狙うことも重要ですが、金融商品のリスクとリターンは基本的に比例するため、ハイリスクな商品のみでの資産運用は望ましくありません。
リスクを抑えたい場合は、以下のようにリスクをコントロールする方法を考えましょう。
<投資信託でリスクをコントロールする方法(例)>
・為替リスクを抑えたい場合は「為替ヘッジあり」のファンドを選ぶ
・株式に投資するものと、債券に投資するものを組み合わせる
・バランス型の投資信託を選ぶ
・特定の業種に偏ったファンドのみに投資しない
金融商品の選び方は、あくまで投資の目的によって変わるため、その点を意識しながら運用方法を考えてください。
失敗例3.過去のリターンを重視してファンドを選んでしまう
投資する金融商品を選ぶときに、過去のリターンは重要な判断材料になります。ただし、過去のデータはあくまで実績なので、今後も同じリターンを得られるとは限りません。
<投資信託の過去のリターン>
基準価額:取引価格のベースになる投資信託の金額のこと。
分配金実績:決算ごとに支払われる分配金の額。
分配金利回り:投資金額に対する分配金の割合を表したもの(※)。
トータルリターン:利益から手数料などを差し引いた、対象期間全体の損益。
上記の情報だけで投資先を選ぶと、そのファンドの基準価額が急落したときに対応できなくなる恐れがあります。もちろん過去のリターンの確認は欠かせませんが、投資先は運用方針や資産構成比などの情報も加味した上で選びましょう。
(※)証券会社などが独自で算出している数値のこと。
失敗例4.限度額いっぱいで一括投資を行う
一般NISAには年間120万円の非課税投資枠があるため、気になるファンドへの一括投資を考えている方もいます。一括投資は積立投資と比べて短期のリターンを狙いやすいですが、その反面で以下のようなデメリットもあります。
<一括投資のデメリット>
・損失幅(リスク)が大きくなりやすい
・高値づかみのリスクが高まる
・他の投資商品を購入する余力がなくなる
これらのデメリットを理解した上で、一括投資を検討しましょう。
一般NISA運用法
一般NISAの特徴を考えた場合、どのような運用法が向いているのでしょうか。さまざまな選択肢がありますが、以下では最初に考えたい2つのプランを紹介します。
一般NISAで配当金を狙って株式を購入する
毎年安定したリターンを目指している方は、配当利回りが高い株式への投資を考えてみましょう。国内株にも配当金が多い銘柄はいくつかあり、例えば東証プライムの平均配当利回りは約2.5%とされています(※2022年12月のデータ)。
投資額 | 1年間に得られる配当金 |
---|---|
20万円 | 5,000円 |
40万円 | 10,000円 |
60万円 | 15,000円 |
80万円 | 20,000円 |
100万円 | 25,000円 |
120万円 | 30,000円 |
また、株式投資では譲渡益や配当金に加えて、割引券などの株主優待も受け取れます。優待制度を実施する国内企業は4割弱ですが、日常生活に役立つ優待品を選べば、投資や資産運用に回す資金を増やせるでしょう。
<株主優待の例>
・自社製品
・サービスの利用割引券
・カタログギフト
・おこめ券や図書券などの金券
・飲食料品や日用品
株主優待は日本ならではの制度であり、ほとんどの外国株にはありません。なお、業績不振や経営方針の変更で廃止される可能性や、株価が下落して損失が出る可能性があるので注意する必要があります。
一般NISAで中長期の譲渡益を狙う
一般NISAは1年間の非課税投資枠が多いため、譲渡益を狙うのも向いています。中長期の保有を前提にすれば、値上がり益は多くの金融商品で狙えます。評価額が増えるとどれくらいの譲渡益を期待できるのか、簡単なシミュレーションをしてみましょう。
<資産価値が1.5~2.0倍になったときの譲渡益>
投資額 | 評価額が1.5倍になったとき | 評価額が2倍になったとき |
---|---|---|
20万円 | 30万円 | 40万円 |
40万円 | 60万円 | 80万円 |
60万円 | 90万円 | 120万円 |
80万円 | 120万円 | 160万円 |
100万円 | 150万円 | 200万円 |
120万円 | 180万円 | 240万円 |
(※売買手数料などのコストは考慮しない。)
一般NISAでは全ての運用益が非課税となるため、値上がり益がどれだけ増えても税金の負担はありません。株式の配当金や株主優待、投資信託の分配金などを同時に受け取った場合も同様です。
一般NISAで短期の取引を繰り返すと、年間の非課税投資枠をすぐに使い切ってしまいます。デイトレードに適した制度ではないため、基本的には中長期の保有を意識しましょう。また、一般NISAの非課税期間は5年間のため、この期間を意識して投資先を選ぶ必要があります。
2024年からNISAが変わる?新NISAで意識したいポイント
ここまで解説した一般NISAは2023年までの制度であり、2024年からは「新NISA」が始まります。新NISAの概要は以前から公開されていましたが、2023年度の税制改正によって方針が変更されたため、改めて内容を確認しておきましょう。
新NISAの概要 | ||
---|---|---|
投資枠の種類 | つみたて投資枠 | 成長投資枠 |
対象者 | 18歳以上の成人 | |
口座開設期間 | 無期限 | |
非課税期間 | 無期限 | |
非課税投資枠 | 120万円 | 240万円 |
非課税保有限度額 | 1,800万円 (※成長投資型との合計) |
1,200万円 |
対象商品 | つみたてNISAと同様 | 上場株式や投資信託など |
(※2022年12月時点での方針)
2023年末まで運用するNISA口座から、新NISAに商品を移管させることはできません。つまり、2024年からは現行制度か新制度を選ぶ形となるため、一般NISAとの違いはきちんと押さえておく必要があります。
<新NISAの特徴(現行制度との違い)>
・口座開設期間や非課税期間が恒久化されている
・つみたて投資枠と成長投資枠の併用ができる
・年間360万円までの投資が非課税になる
・非課税保有限度額(非課税になる保有資産の上限額)がある
・高レバレッジ型や毎月分配型、信託期間20年未満の投資信託が除外される
簡単にまとめると、新NISAは一般NISAとつみたてNISAを組み合わせた仕組みになっています。両制度を併用できる形になるため、つみたて投資枠では投資信託を積み立て、成長投資枠では株式を購入するような運用もできます。
なお、制度開始までに仕組みが見直される可能性もあるので、新NISAの利用を考えている方は最新情報をチェックしておきましょう。
目的に適した投資なら、一般NISAでも投資信託は有効
一般NISAにおける投資信託の運用は、必ず失敗するわけではありません。投資の目的や方法によっては、投資信託を選ぶことで一定のリターンが期待できる場合もあります。手数料やリスクが高いファンドがあるため、各商品の特徴を理解した上で投資を検討しましょう。
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。
(提供:Wealth Road)