「損益分岐点」という概念がある。損益分岐点はビジネスの世界などでよく用いられ、ちょうど利益も損失も生まない点のことをいう。つまり、損益分岐点を超えれば利益が出て、逆に下回っていれば損失が出るということだ。

この考え方は、外貨預金でも有効だ。外貨預金における利益と損失の境目を把握する上で、知っておいて損はない知識だからだ。それでは、損益分岐点の考え方を解説していこう。

「損益分岐点」とは何か ?

外貨預金に活かせる「損益分岐点」の考え方を知ろう
(画像=beeboys / stock.adobe.com)

損益分岐点は、得もしないが損もしない、つまり利益がゼロとなる=売上と費用が一致する点・水準のことを指す。例えばビジネスにおいては、利益を出すために必要な売上高を知り、目標を立てたり、コストダウンの目標を立てたりする際などに、損益分岐点の分析が活用される。

損益分岐点は、ビジネスと同様に、利益を出すことを主な目的とする投資にも応用できる概念だ。ここからは、外貨投資 (外貨預金) で損益分岐点を活用するための方法を考えていく。

外貨預金の損益分岐点はどのように算出する ?

ビジネスにおける損益分岐点は、売上高と費用の数字をもとに算出される。一方、外貨預金における“売上高”を考えたとき、為替レートや金利、手数料などの数字は無視できないだろう。それぞれを考慮して、損益分岐点の考え方を整理してみよう。

為替レートと損益分岐点

まずは為替レートの数字だけを使い、外貨預金の損益分岐点について考えてみる。

例えば1ドル=100円のときに円をドルに換え、外貨預金をしたとしよう。この場合、1ドル=100円より円安になれば評価益が、1ドル=100円より円高になれば評価損が発生する。つまり、為替レートの損益分岐点は、1ドルを入手するためにかかった費用100円と為替レートが一致する「1ドル=100円」ということになる。

[図表] 損益分岐点

1ドル=100円のときに100万円をドルに換えると、1万ドルになる。為替レートが1ドル=110円へと傾くと、その1万ドルの価値は110万円となり、10万円の評価益が発生する。逆に1ドル=90円へと円安になると1万ドルの価値は90万円となり、 10万円の評価損が発生する (ここでは便宜的に為替手数料などは考慮しない) 。

金利を加味するケース

続いて、為替レートと金利 (1年あたりの利率) を加味する場合を考えてみよう。分かりやすいように「金利が1%」の場合を想定してみる。

1ドル=100円のときに100万円をドルに換えると、1万ドルになる。税金を考慮しない場合、その1万ドルは金利がつくと1年後に1万100ドルになる (ここでは便宜的に為替手数料などは考慮しない) 。そのとき、為替レートがいくらなら、得も損もしない状況 (=損益分岐点) となるだろうか。

1万100ドルと取得費用である100万円の価格が一致すればよいため、正解は「1ドル≒99.0099円」となる (100万円÷1万100ドル) 。この為替レートを使って「1万100ドル×99.0099円」と計算すると約100万円となるため、この為替レートが損益分岐点となることがわかるだろう。

[図表] 損益分岐点

1ドル≒99.0099円よりも円安になれば評価益が発生し、逆に円高になれば評価損が発生する。

手数料を加味するケース

外貨預金をする際には通常、「1ドルにつき1円」といった具合で手数料が発生する。この場合、1万ドルを預金する場合は手数料として1万円が必要となる。

例えば、預金手数料が「1ドルにつき1円」かつ為替レートが1ドル=100円のときに1万ドルを預金する場合、実際に必要な日本円は101万円ということになる。手数料がかかる分、1万ドルを外貨預金した時点では1万円の損失が発生していることになるが、この損失が消える為替レートは、いくらになるだろうか。

正解は「1ドル=101円」となる (101万円÷1万ドル) 。このレートのとき、1万ドルは101万円の価値となり、預金時にかかった費用と一致するからだ。

[図表] 損益分岐点

1ドル=101円よりも円安になると、評価益が発生する。例えば1ドル=102円に円安になると、1万ドルの価値は102万円となるため、手数料を加味しても1万円の利益が発生する。逆に1ドル=101円よりも円高だと、手数料を加味すると損失が出ている状況となる。

手数料と金利を加味するケース

前項では手数料のみを加味したが、金利も加味すると、損益分岐点はどう変化するだろうか。ポイントは、為替手数料は最初の両替時にしかかからないが、金利はその外貨を保有し続ける限り発生するという点だ。

1ドル=100円のときに100万円を1万ドルに換え、「為替手数料が1ドルにつき1円」「金利が1%」の条件下の場合を考えてみる。

為替手数料は預金時に1万円発生するため、最初の預金で必要になった資金は101万円となる。そして金利が1%のため、1万ドルは1年後には1万100ドルになる。つまり、101万円=1万100ドルとなるような為替レートを算出すれば、それが1年後の損益分岐点となる。つまり、答えは1ドル=100円だ。

同じ考え方で、2年後の為替レートの損益分岐点を考えてみよう。かかった手数料が1万円という点は変わらないため、最初の預金で必要となった資金は101万円だ。一方、2年後には1万ドルは1万201ドルになっている。つまり、損益分岐点を求めるには、101万円=1万201ドルとなるような為替レートを計算すればよい。計算してみるとわかるが、1ドル=約99円となり、この為替レートが2年後の損益分岐点となる。

1年後の為替レートの損益分岐点:1ドル=100円
2年後の為替レートの損益分岐点:1ドル=約99円

実際の損益分岐点の算出の仕方はもう少し複雑

為替レート・金利・手数料の数字を使い、外貨預金の損益分岐点について解説してきたが、実際の損益分岐点の算出の仕方はもう少し複雑になる。

為替レートが異なるタイミングで何回かに分けて外貨預金をすると、損も得もしない為替レートの算出が複雑になる。そのほか手数料に関しては、この記事では預け入れる場合の手数料を考慮して説明したが、実際には引き出しの際の手数料のことも考えなければならない。

しかし、外貨預金に関する基本的な損益分岐点の考え方については、理解していただけたはずだ。

利益が発生する目安を知っておく重要性

外貨預金では「出口戦略」を考えておくことは非常に重要だ。損益分岐点についての知識を持っておくと、為替レートがいくらのタイミングで外貨預金を引き出せば利益が発生するのか、大体の目安を把握しておくことができる。

すでに外貨預金をしている人も、これから始める人も、損益分岐点を意識しながら外貨預金で資産運用をするようにしたいところだ。

(提供:大和ネクスト銀行


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