本記事は、松岡保昌氏の著書『こうして社員は、やる気を失っていく』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

創造性を求められる時代、緊張感は逆効果

創造性を求められる時代、緊張感は逆効果
(画像=xjrshimada/stock.adobe.com)

「心理的安全性」の確保が大前提

個人のやる気を引き出し、組織として最大のパフォーマンスを導き出す。
そのために知っておくべきキーワードは、
「心理的安全性」「ブラックボックス化」「ブレーンストーミング」です。

「心理的安全性」は組織の永続性にすら影響する

変化が激しい時代に、最先端の仕事を「創造」していくには、自分ひとりだけの知識や経験では太刀打ちできなくなっています。

他人を巻き込み、他者の経験や知恵をも自分のものとして活かすには、自由に意見を言い合える環境づくりが不可欠です。つまり、職場における「心理的安全性」の確保が重要になります。

「心理的安全性」については、組織の永続性にも大きく影響する重要なものなので、ここで再度違う角度から見ていきます。

人事評価が、一度でも失敗すると二度とチャンスを与えられない減点主義の評価基準。縄張り意識が強く情報共有に不十分で、さらに足を引っ張り合うような組織。このように何をするにも緊張感を持たないといけないような職場では、人は安心して他者と関わることができません。

「こんなことを言ったら、バカにされるのではないか」
「質問されて変な回答をしたら、仕事ができないヤツと思われるのではないか」
「下手なことをしゃべるよりは、黙って言われたことだけやっておこう」

などなど、仕事の話を積極的にしなくなったり、前向きな思考をストップさせるような環境では、人のやる気は下がり、組織は硬直し、企業は衰退していきます。

さらに、「心理的安全性」が確保されていないばかりか、自分の居場所の危険すら感じ出すと、人は仕事を抱え込み、他の人が簡単に仕事を代われないような状況をつくり出し、仕事が「ブラックボックス化」してしまう弊害も生み出すことがあります。

仕事のブラックボックス化は、その人がいないと業務が止まってしまうリスクが発生し、マネジメントも困難になります。

実際にある企業で、上司が代わった際に、その上司の新しい方針についていけず、その違和感から職場での発言量も減っていった社員が「このままでは評価が下がってしまうのではないか。下手したらクビになるのではないか」という恐怖から、自分の仕事をブラックボックス化してしまいました。

自分だけにしかわからない仕事があれば、クビにはできないだろうと考えたのです。つまり、ブラックボックス化することで自分の居場所を確保しようとしたわけです。

それに気づいた上司は、何度も何度も面談を繰り返し、掲げる方針の意図とともに、きちんと評価していること、クビにするつもりはないこと、そして、この職場で、その人の仕事があることを伝え続けました。そうしてやっと信頼関係を築くことができ、その社員は、しだいに仕事をオープンにし出しました。それ以降は、職場で情報の共有が図れるようになったとのことです。

人は、安全で安心な環境を確保できることを実感しない限り、ブラックボックス化のような物理的な方法で自分の立場を確保しようとするのです。

「ブレーンストーミング」が上手な組織は、「心理的安全性」が確保されている

新しい発想を生み出すうえで、「ブレーンストーミング(ブレスト)」は非常に有効な手段となります。一方で、「ブレストをしても良い意見が出ない」「もともと活発に意見を出し合う社風ではないので、うちでは無理」などの声もよく聞きます。しかし、それはブレストのやり方に問題があるケースが少なくありません。

「とにかくなんでもアイデアがあったら自由に言って」「もっと何かない?」などと、漠然と意見を強要していませんか?誰かの発言に対して「それはちょっと、このテーマとはズレているんじゃない」など、その場で批判や評価をしていませんか?

ブレストは、その名のとおり、参加者全員の脳の中を嵐のようにかき混ぜて、大量のアイデアを嵐のように出し合うのが目的です。そのため、重要になるのは「批判しない」「自由に発言する」「質より量を重視する」「アイデアの結合、連想、便乗をする」という4原則です。

思いついたことを、それぞれが自由に発言し、その発言に刺激を受けて思いついたことをどんどん口にしていく。時には脱線しているようでも、バカみたいだと思うようなことでも、他者を批判することなく、その場に出して嵐を巻き起こしていくのがブレストです。つまり、その場は「何を言っても大丈夫」という「心理的安全性」が確保されているのが絶対条件です。

とくに、参加者に自分の地位や立場、所属部署などの意識が強いと、ブレストがうまくいかない原因になることもあります。

「それは、○○課としての意見」のように、地位や立場の意識が、発言する側にも、聞く側にも少しでもあると、アイデアの連鎖は生まれにくくなります。「こんなことを言ったら、上司からバカなヤツだという評価を受けるのではないか」。そんな杞憂を生み出し、発言にブレーキをかけることもあり得ます。

日頃、「うちの職場ではブレストは無理」と思っているとしたら、そもそも大前提となる「心理的安全性」が欠けていないかどうかを振り返ってみてください。

こうして社員は、やる気を失っていく
松岡保昌(まつおか・やすまさ)
株式会社モチベーションジャパン代表取締役社長。人の気持ちや心の動きを重視し、心理面からアプローチする経営コンサルタント。1963年生まれ。1986年同志社大学経済学部卒業後、リクルートに入社。『就職ジャーナル』『works』の編集や組織人事コンサルタントとして活躍後、2000年にファーストリテイリングにて、執行役員人事総務部長として当時の急成長を人事戦略面から支える。
その後、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長として逆風下での広報・宣伝の在り方を見直し新たな企業ブランドづくりに取り組む。2004年にソフトバンクに移り、ブランド戦略室長としてCIを実施。福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役として球団の立ち上げを行う。また、AFPBB News編集長として、インターネットでの新しいニュースコミュニティサイトを立ち上げる。
現在は、経営、人事、マーケティングのコンサルティング企業である株式会社モチベーションジャパンを創業。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士、キャリアカウンセリング協会認定スーパーバイザーとして、個人のキャリア支援や企業内キャリアコンサルタントの普及にも力を入れている。著書『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』(日本実業出版社)。

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