不動産投資で物件を売却して利益が出た場合は、所得税や住民税が増えてしまう。ただし「ふるさと納税」の控除上限額も増えるため、より多くの返礼品を取得できるチャンスでもある。そこで今回は、不動産売却の利益で、ふるさと納税の控除上限額が増える仕組みや利用する際の注意点について解説していく。
不動産売却益でふるさと納税の控除上限額が増える理由
不動産売却益でふるさと納税の控除上限額がアップするのは、所得税や住民税の納税額が増えるからだ。ふるさと納税では、自治体への寄附金額に応じて地域の特産品などの返礼品を受け取れる。原則自己負担額2,000円を除いた全額が所得税や住民税の控除対象となる仕組みだ。
不動産売却の利益でふるさと納税の控除上限額が増えれば寄附できる金額も増えるため、例年より多くの返礼品を受け取ることができる。
不動産の譲渡所得は申告分離課税
所得税の課税方法は「総合課税」と「申告分離課税」の2種類がある。
総合課税
各種所得(給与所得など)を合計して求めた総所得金額に税率を乗じて所得税額を計算する方法だ。不動産投資の家賃収入は「不動産所得」に該当し総合課税の対象となる。申告分離課税
他の所得と切り離して所得税額を計算する方法だ。不動産売却益は「譲渡所得」に該当し、申告分離課税の対象である。給与とは別に税額を計算するため、不動産売却で利益が出た年度は税負担が増える可能性がある。
なお総合課税と申告分離課税のどちらも所得金額に応じて住民税も課税される。
不動産の譲渡所得税の計算方法
ここでは、不動産売却でかかる税金(譲渡所得税)の計算方法を確認していこう。
譲渡所得の計算式
不動産の譲渡所得税は、譲渡所得に一定の税率を乗じて算出する。譲渡所得の計算式は、以下の通りだ。
収入金額
不動産を売却して買主から受け取る金額だ。取得費用
不動産の取得に要した費用のことで、購入代金のほかに登録免許税、登記費用、不動産取得税、印紙税なども含まれる。建物部分は、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額となる。取得費用が分からない場合は、売却価格の5%相当額を取得費用とすることが可能だ。譲渡費用
不動産を売却するために直接かかった費用のことだ。具体的には、売却時の仲介手数料や印紙税などが該当する。修繕費や固定資産税など不動産の維持管理にかかった費用は含まれない。
また一定の要件を満たす場合は、譲渡所得を計算する際に特別控除額を差し引くことが可能だ。
物件の所有期間によって税率は異なる
不動産の譲渡所得税は、物件の所有期間によって税率が異なる。売却した年の1月1日現在の所有期間が5年以内の場合は「短期譲渡所得」、5年超の場合は「長期譲渡所得」となり、税率はそれぞれ以下の通りだ。
・長期譲渡所得:20.315%(所得15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%)
不動産売却は、取引のタイミングによって税率が変わるため十分に注意したい。
譲渡所得税の計算例
不動産売却で譲渡所得が1,200万円生じたケースについて譲渡所得税がいくらかかるかをシミュレーションしてみよう。
【短期譲渡所得の場合】
区分 | 税額 | 計算式 |
所得税 | 360万円 | 1,200万円×30% |
復興特別所得税 | 7万5,600円 | 360万円×2.1% |
住民税 | 108万円 | 1,200万円×9% |
譲渡所得税額 | 475万5,600円 | 360万円+7万5,600円+108万円 |
【長期譲渡所得の場合】
区分 | 税額 | 計算式 |
所得税 | 180万円 | 1,200万円×15% |
復興特別所得税 | 3万7,800円 | 180万円×2.1% |
住民税 | 60万円 | 1,200万円×5% |
譲渡所得税額 | 243万7,800円 | 180万円+3万7,800円+60万円 |
税額合計は、短期譲渡所得の475万5,600円に対し、長期譲渡所得は243万7,800円となった。物件の保有期間が5年を超えるか超えないかで、税額に231万7,800円の差が出る。
ふるさと納税の控除上限額の計算方法
不動産売却で利益が出ると、ふるさと納税の控除上限額はどれくらい変わるのだろうか。ここでは、控除上限額の計算方法や目安、具体例について解説する。
控除上限額の計算式
ふるさと納税の控除上限額の計算式は、以下の通りだ。
住民税所得割額は、住民税の税額決定通知書で確認可能だ。所得税率は、課税所得金額に応じて5~45%の7段階に区分されている。
控除上限額の目安
ふるさと納税の控除上限額は、収入や家族構成によって大きく変わってくる。控除上限額の目安をまとめた。
ふるさと納税を行う本人の給与収入 | ふるさと納税を行う人の家族構成 | |||
独身共働き※1 | 夫婦※2 | 共働き+子1人(高校生)※3 | 共働き+子1人(大学生)※3 | |
300万円 | 2万8,000円 | 1万9,000円 | 1万9,000円 | 1万5,000円 |
400万円 | 4万2,000円 | 3万3,000円 | 3万3,000円 | 2万9,000円 |
500万円 | 6万1,000円 | 4万9,000円 | 4万9,000円 | 4万4,000円 |
600万円 | 7万7,000円 | 6万9,000円 | 6万9,000円 | 6万6,000円 |
700万円 | 10万8,000円 | 8万6,000円 | 8万6,000円 | 8万3,000円 |
800万円 | 12万9,000円 | 12万円 | 12万円 | 11万6,000円 |
900万円 | 15万2,000円 | 14万3,000円 | 14万1,000円 | 13万8,000円 |
1,000万円 | 18万円 | 17万1,000円 | 16万6,000円 | 16万3,000円 |
※1 共働きは本人が配偶者(特別)控除の適用を受けていない場合
※2 夫婦は本人の配偶者に収入がない場合
※3 高校生は「16~18歳の扶養親族」、大学生は「19~22歳の特定扶養親族」を指す
出典:総務省「ふるさと納税ポータルサイト」※この先は外部サイトに遷移します。より株式会社ZUU作成
あくまでも目安であるため、正確な金額を知りたい場合は自治体や税理士などに相談しよう。
譲渡所得の有無で控除上限額はどれくらい変わる?
譲渡所得の有無で、ふるさと納税の控除上限額がどれくらい変わるかを確認してみよう。前提条件は以下の通りだ。
- 譲渡所得500万円
- 物件の所有期間5年超(長期譲渡所得)
- 住民税所得割額(分離課税):25万円(500万円×5%)
- ふるさと納税の控除上限額=(住民税所得割額×20%)÷(90%-所得税率×1.021)+2,000円
総合課税分の所得控除後の所得が700万円の場合、所得税率は23%、住民税所得割額(総合課税)は70万円(700万円×10%)となる。このケースでは、譲渡所得の有無で控除上限額は以下のようになる。
(95万円×20%)÷(90%-23%×1.021)+2,000円=28万7,641円 →28万7,600円
(70万円×20%)÷(90%-23%×1.021)+2,000円=21万2,472円 →21万2,400円
譲渡所得ありは約28万7,600円、譲渡所得なしは約21万2,400円で差額は約7万5,200円となった。
不動産売却でふるさと納税を活用する際の注意点
不動産売却でふるさと納税を活用する場合の主な注意点は、以下の3つだ。
所得税・住民税の節税にはならない
ふるさと納税は、寄附金額の一部が所得税・住民税から控除され、2,000円の自己負担で自治体から返礼品がもらえる制度だ。所得税や住民税から控除を受けられるが納税額が減るわけではない。仮にふるさと納税が1万円なら、2,000円を差引いた8,000円の税金を前払いし、後で支払う税金が8,000円少なくなる仕組みである。実質2,000円で返礼品がもらえるお得な制度ではあるが、節税にはならない点には注意したい。
控除上限額が増えるのは譲渡所得が生じたときに限られる
不動産売却でふるさと納税の控除上限額が増えるのは、譲渡所得(売却益)が生じたときに限られる。売却損の場合は、所得税・住民税がかからないため、控除上限額は増えない。また、不動産の売却の頻度としても多くはないのでこうしたタイミングが訪れるのは稀だろう。
不動産売却益や家賃収入があれば、ふるさと納税の増額を検討しよう
不動産売却益で所得税や住民税が増える場合、ふるさと納税をうまく活用すればより多くの返礼品を受け取ることが可能だ。
なお今回は売却に限定して説明したが、家賃収入によって不動産所得が増えた場合も課税対象所得が増えることになるので、ふるさと納税の控除上限額は増加する。不動産投資に取り組むなら、不動産売却の利益や家賃収入に応じてふるさと納税額を増やすことを検討しよう。
(提供:manabu不動産投資 )
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