この記事は2022年2月9日に「第一生命経済研究所」で公開された「改めて人口減少加速の危機」を一部編集し、転載したものです。
2020年以降の自然減
今さら危機などという必要もないが、日本は人口減少の危機に貧している。出生数は2022暦年77.2万人にまで減りそうだ。これは、出生数の2022年1~9月の累計前年比▲4.9%に、2021年実績81.2万人を掛けると求められる。この数字を念頭に、加藤勝信厚労大臣も、同様の推計を基にして、77万人前後と述べている。
2022年の出生数から、同様にして求められた死亡者数155.1万人を差し引くと、2022年の自然減は▲77.9万人という計算になる。コロナ禍が始まって、自然減は2020年▲53.2万人、2021年▲62.8万人と拡大してきた。2022年はそれがさらに▲77.9万人に拡大する格好だ。減少率は▲0.62%になる。3年間の累計では約▲200万人に近づくことになる(▲193.9万人)。これは、1、2つの都道府県の人口が消滅したのと同じインパクトである。
総人口減少も加速
総人口の推移を調べてみよう。2012~2019年までの人口推移にトレンド線を引いて、2020年1月から2023年1月までの人口推移と比べてみた(図表1)。すると、コロナ禍でどのくらい人口が下振れているかがよくわかる。2019年までは前年比で平均▲0.1%だったのが、2020~2022年は平均▲0.4%まで広がっている。
筆者は、常々、人口対策は少子化対策だけでは不十分だと考えている。なぜならば、総人口の増減は、自然増減+社会増減で決まるからだ。社会増減とは、外国人の流入を意味する。コロナ禍では、2021年に外国人居住者は▲14.1万人も減少した。2022年1~7月は、入国者数の制限を3月以降に順次広げていったこともあり、+22.0万人も増えている。日本から外国人の入国が途絶えると、自然減を穴埋めできなくなる。
増加する外国人居住者の多くは、日本に就労機会を求めてくる若年労働者である。コロナ禍では、一時そうした労働力の流入が停止した。そのため、2021年は自然減▲61.8万人に対して、社会減▲14.1万人が加わり、年間▲75.9万人も総人口が減ることになった。
過去10年間で、外国人居住者(=総人口-日本人)の推移をみると、コロナ前までは一定ペースで増えてきたが、2020年以降は280万人前後で頭打ちになった(図表2)。2022年10月以降は入国者数の上限がなくなったので、一転して増加し始めている。2022年の自然減は▲77.9万人まで拡大する見込みだから、さらに外国人の就労に間口が広がらなくては総人口の減少を穴埋めできなくなる。
「安い日本」という弱点
外国人が日本に働きに戻ってくるかどうかには心配な点がある。円安で、外国人からみて外貨換算した給与水準が低下しているからだ。
外国人雇用に詳しい人の話を聞くと、欧米人は日本に興味を持って来日するが、アジア人は給与水準をより重視すると話してくれた。だから、アジア人は、日本に来て働こうとする魅力が低下している可能性は高い。
日本では賃上げの機運が高まっているが、円ベースで外国人の報酬を上げなくてはいけないという話はあまり聞かない。一部の大手企業をみると、大胆な賃上げを表明した会社には、新卒採用で外国人を多く採用してきたところはある。そうした会社は円安で相対的な待遇が低下している状況を改善しなくてはいけないと考えたのだろう。それでも、そうした企業は少数派である。
公式な統計で、外国人労働者の報酬がどのくらいかを調べてみた。2021年の厚生労働省「賃金構造基本統計調査」では、月収26.25万円の待遇であった。総平均の月収33.48万円よりも著しく低い。これは外国人労働者の平均年齢が32.7歳と若いことも関係している。そこで報酬を時給換算して、同年齢(30~34歳)の総平均と比べることにしてみた。外国人労働者の時給は1時間当たり1,670円である。総平均の同年齢では2,101万円である。外国人労働者の報酬は、約2割ほど日本人よりも低い。つまり、低賃金労働の需要を外国人労働者が満たしている可能性が高いと理解できる。円安によって、日本の円が▲15%くらい価値を低下させていると考えると、2023年以降の外国人の流入はどうしても鈍くなるだろう。すると、従来は外国人労働者が担っていた仕事では人手不足が深刻化する。
少子化対策をどう考えるか?
岸田首相は、目先、少子化対策に力を注ぐだろう。しかし、その成果はすぐには奏功しない。総人口の減少には歯止めがかからないということだ。ならば、外国人居住者をもっと増やすために、何らかの政策的な配慮を行うことが望ましい。日本人との報酬格差を埋めるとか、不公正な労働環境を是正すると言った対応である。賃上げは、日本人に対する処遇改善という意味だけではなく、人口減少対策としての意味も出てくるはずだ。
筆者は、岸田首相が目指すような少子化対策も併せて必要だと考える。短期的には少子化対策の効果が人口減少に歯止めをかけられなくても、それは中長期的には必要だからだ。と言った上で、岸田首相の目指すものにはいくらか異論がある。出産を増やす前に、結婚を増やさなくては少子化対策の効果は乏しい。婚姻数は、2020年に前年比▲12.2%と激減し、2021年同▲4.6%、2022年1~9月累計で同▲0.3%となっている。婚姻数がこれだけ激減していては、いくら給付金を散布しても、著しい成果は期待しにくい。筆者は、婚姻数を増やすためには、自治体などの地道な活動を抜きには実現できないとみている。自治体としては、地元の人同士が結婚してそこに定住してくれることを期待するだろう。
もう1つの論点は、若年者の所得制約が、子供を持ちたくても持てない事情としてある。ならば、大企業はもっと初任給を大幅に引き上げて、間接的に結婚・出産を支援すればよい。すでに大手銀行では21~22万円だった初任給を大幅に積み増すことを表明している。こうした動きが、広範になれば、若者の所得制約が大きく改善するだろう。