CAFE規制とは結局何のこと?諸外国と国内メーカーの現状
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ガソリン車の消滅につながるもといわれるCAFE規制。その概要と国内メーカーの現状、各国の規制状況などを知れば、自動車業界に今何が起こっているのか、また、これからどう変化していくのかが理解できます。

目次

  1. CAFE規制とは?
  2. CAFE規制に対する国内メーカーの現状
  3. 2022年3月に国土交通省が「自動車の燃費ランキング」を公開
  4. CAFE規制にまつわる各国の状況
  5. CAFE規制は自動車業界の動向を左右する問題

CAFE規制とは?

CAFE規制とは、自動車の燃費性能(特に排出する二酸化炭素の量)に関する規制ルールです。違反時には数十億円にも及ぶ罰金を受ける可能性があります。

CAFEの読み方は、コーヒーを楽しむお店と同じ「カフェ」、より正確に表現するなら「キャフェイ(フェイにアクセント)」です。

CAFE規制の内容は複雑ですが、以下の4点を知ることで全体像を把握できます。

  • 「CAFE方式(企業別平均燃費基準)」による自動車の燃費性能ルール
  • エネルギー生成過程の二酸化炭素も考慮される
  • BEV、HEV、PHEV、FCEV……EVの種類も大切
  • 日本ではすでに施行済みだが2030年度が重要な年に

「CAFE方式(企業別平均燃費基準)」による自動車の燃費性能ルール

CAFE規制のCAFEは、「Corporate Average Fuel Efficiency:企業別平均燃費基準」と呼ばれる計算方式を指しています。これは、車種ごとに燃費性能を取り締まるのではなく、メーカーが販売した車全体を通じて数値を算出して判定することを意味します。

すなわちCAFE規制では、燃費性能に優れたEV(電気自動車)を多数販売しつつ、燃費は悪いものの走り心地を重視した車も少数販売するなど、メーカーが自らバランスを取ることが可能です。もとはアメリカや欧州で採用されていた方式ですが、現在は日本でも使用されています。

CAFE規制には世界的な統一ルールがあるわけではありません。あくまでCAFE方式を採用した車の燃費性能や二酸化炭素排出量の規制ルールであり、例えば日本のCAFE規制とアメリカのCAFE規制では詳細が異なります。

エネルギーの生成過程の二酸化炭素も考慮される

日本のCAFE規制においては、単に車両走行時の燃費効率を見るのではなく、元となるエネルギーの生成過程における二酸化炭素排出量も考慮されます。これは、EVやPHEV(プラグインハイブリッド車)のような電気も使って走る車がガソリン車と比べて不平等に有利となることを防ぐためです。

ポイントとなるのは、自国が主に採用している発電方式も評価に強く影響する点です。例えば、水力発電の盛んなノルウェーと火力発電を多用する日本では、同じ電力で同じだけ走行できるEVを開発しても、日本の方が30倍以上二酸化炭素を排出していると評価される恐れがあります。

専門用語では、車両走行時の燃費効率は「Tank-to-Wheel」、エネルギー生成過程は「Well-to-Tank」、生成から走行までを通じては「Well-to-Wheel」と呼ばれます。

「Well-to-Wheel」は日本が最初に導入しましたが、海外でも類似した考えは浸透中です。欧州では2023年、中国では2025年までに「ライフサイクル排出量(車の製造から廃棄までに出る二酸化炭素)」の導入可能性を探るとされています。

BEV、HEV、PHEV、FCEV……EVの種類も大切

ひと口にEV(電気自動車)といっても、実はその方式はさまざまです。経済産業省資源エネルギー庁によれば、一般的に以下の4種類に分類されます。

BEV(Battery Electric Vehicle):バッテリー(蓄電池)を搭載し、そこから得た電気を動力源にして走行する。これまで「電気自動車(EV)」と呼ばれていたものは一般的にこれを指す。バッテリー内の電気は充電スタンドや自宅に設置したコンセントなどから充電する

HEV(Hybrid Electric Vehicle):ハイブリッド電気自動車。2つの動力源を持つ「ハイブリッドカー(HV)」のうち、バッテリーから得られる電気とガソリン(もしくはディーゼル)で走るもの。車内部のガソリンエンジンが発電機を動かすことで電気を得る

PHEV/PHV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle/Plug-in Hybrid Vehicle):プラグイン・ハイブリッド(電気)自動車。電気とガソリンで走るHEVに、外部から充電できるBEVの特性を組み合わせたもの

FCEV/FCV(Fuel Cell Electric Vehicle/Fuel Cell Vehicle):(水素)燃料電池自動車。水素と酸素の化学反応によって電気を発生させる「燃料電池」を搭載しており、その電気で走行するもの。水素はステーションで補給する
(出典:経済産業省資源エネルギー庁「「電気自動車(EV)」だけじゃない?「xEV」で自動車の新時代を考える」より引用)

4種類すべてを指して「xEV(電動車)」とも呼ばれます。上記のうち、外部から電気の補充を行うBEVとPHEVは、前述の発電方式の影響で現在の日本では環境性能を十分には評価されません。

CAFE規制の達成には、自動車メーカーがEVの開発を進めるだけでなく、国内の電力発電における二酸化炭素排出量も削減していくことが必要です。そのため、CAFE規制はカーボンニュートラルなどの環境保護の話題と想像以上に密接な関係にあります。

日本でもすでに運用中だが2030年度が重要な年に

CAFE規制は国内でもすでに実施されています。現在の日本では、2020年3月に経済産業省と国土交通省により公布された「乗用車の2030年度燃費基準」のことを指します。

この基準では、2030年度の燃費基準推定値として、CAFE方式で「25.4(キロメートル/リットル)」を達成するよう定められました。この数字は2016年度の実績値である「19.2(キロメートル/リットル)」から3割以上引き上げられたものです。

また、EVとPHEVが算定対象に追加され、前述のWell-to-Wheelが導入されるなど、世界を代表する自動車大国としてふさわしい内容が定められています。

CAFE規制に対する国内メーカーの現状

では、厳しいCAFE規制に対して国内メーカーはどのような状況に置かれているのでしょうか。

トヨタ:もっとも対応の進む国内最大手メーカー

CAFE規制への対策がもっとも進んでいるのがトヨタです。ハイブリッド車の代名詞ともいうべき人気車「プリウス」に加え、新時代のFCEV「ミライ」も提供するなど、すでに実用レベルのエコ技術を所有しています。さらにトヨタは、このような技術(特許)を2030年までに無償開放すると表明しています。

2023年2月には、次期社長となる佐藤恒治氏により、2025年をめどにアメリカでの本格的なEV生産に乗り出すことも明らかとなりました。すでに4億6,000万ドル規模もの投資を進めており、今後の動向が注目されます。

スバル:トヨタとの密接な協業が強み

トヨタとの提携により厳しいCAFE規制を乗り切ろうとしているのがスバルです。2018年にスバル初のPHEV「クロストレック ハイブリッド」を発表し、2021年にはグローバルEV「ソルテラ」を公開するなど、密接な協業から勝機を生み出そうとしています。

また、2022年5月には群馬県にEV生産用の工場を建設する方針も明らかとなりました。2027年以降の稼働を目標に2,500億円を投資するとしています。

スズキ:トヨタとの連携でインドからの市場攻略を狙う

スバルと同じくトヨタとの提携関係にあるのがスズキです。スズキは軽自動車の製造に強みを持つメーカーで、「ジムニー」や「アルト」といった名前を思い浮かべる人も多いでしょう

マイルドハイブリッド搭載車であるアルトは、後述する2021年の自動車燃費ランキングで1位に輝くなど、燃費の良さで知られています。一方、ブランドを代表する人気車であるジムニーは燃費の悪さが車ファンの間でたびたび話題となっており、ブランドトータルではCAFE規制に関して苦戦中です。

そんなスズキでは、2022年よりインドのトヨタ・キルロスカ・モーターにて自社の新型SUVを製造しています。新型車にはスズキの「マイルドハイブリッド」とトヨタの「ストロングハイブリッド」が搭載されており、両社の強みを生かした形で国外市場を視野に入れた展開を推進中です。

マツダ:EVへの巨額投資の成否がカギに

広島に本社を置き多くの市民から愛されるメーカー、マツダ。同社はもともと「EVにすれば何でも解決する」という風潮に否定的(発電に関する二酸化炭素排出量も考慮すべきというWell-to-Wheelの考え)で、CAFE規制により厳しい立場に置かれていました。

そこで2022年、2030年までのEV開発・生産にまつわる各種資金として1兆5,000億円もの投資を行うと表明しました。今後の取り組みを加速させることができるか要注目です。

日産: 2030年度までに15種類のEV車を提供予定

CAFE規制の話題を越え、今後数年が企業として大きな転機となりそうなのが日産です。かつて日産は、バブル崩壊後の1990年代に2兆円ともいわれる有利子負債を抱え倒産の危機にありました。この時、フランスの自動車メーカー「ルノー」と資本提携を行い、ルノーの副社長(当時)であったカルロス・ゴーン氏をCOO(最高執行責任者)に迎えて経営危機を乗り切っています。

しかし、この資本提携は事実上、日産がルノーの傘下に入る形でした。ルノーが日産の株式を43%も保有する一方、日産はルノーの株式を15%しか持っていません。経営改善後も対等でない関係が続き、日産側は不満を募らせていました。

2023年2月、日産とルノーは、ルノーが日産の株式を15%まで手放し、対等な関係として提携し直すことで正式合意しました。見直しの背景には、移り変わりの激しいEV市場においてより密接かつスピード感のある協業が必要なこともあります。日産は2030年度までに15種類のEV車を提供するとしており、これからの動きが注目されています。

2022年3月に国土交通省が「自動車の燃費ランキング」を公開

国内メーカーのCAFE規制に対する現状を知る上でもう一つ参考となるのが、国土交通省の「自動車の燃費ランキング」です。国土交通省では、燃費規制への関心を高める目的で、国内で販売されている自動車のうち特に燃費効率に優れた車種をランキングで公表しています。

2021年末時点における「普通・小型自動車」および「軽自動車」の調査結果は以下の通りです。

【普通・小型自動車部門】
順位 車名 通称名 WLTCモード
燃費値
(km/L)
1 トヨタ ヤリス 36.0
2 トヨタ アクア 35.8
3 トヨタ プリウス 32.1
4 トヨタ ヤリス クロス 30.8
5 トヨタ カローラ スポーツ 30.0
6 ニッサン ノート 29.5
7 ホンダ フィット 29.4
8 トヨタ カローラ 29.0
トヨタ カローラ ツーリング 29.0
10 ホンダ インサイト 28.4

(出典:国土交通省「報道発表資料:自動車の燃費ランキングを公表します!」より引用)

【軽自動車部門】
順位 車名 通称名 WLTCモード
燃費値
(km/L)
1 スズキ アルト 25.8
マツダ キャロル 25.8
3 スズキ アルト ラパン 25.2
スズキ ワゴンR 25.2
マツダ フレア 25.2
6 スズキ ワゴンR スマイル 25.1
7 スバル プレオ プラス 25.0
ダイハツ ミラ イース 25.0
トヨタ ピクシス エポック 25.0
スズキ ハスラー 25.0
マツダ フレア クロスオーバー 25.0

(出典:国土交通省「報道発表資料:自動車の燃費ランキングを公表します!」より引用)

普通車においては、やはりトヨタが圧倒的な結果を残しています。一方、軽自動車部門ではスズキやマツダの名前も多く、今後の展開が注目されます。

CAFE規制にまつわる各国の状況

CAFE規制に関する各国の状況にも目を向けてみましょう。ここでは、世界に大きな影響力を持つアメリカ・中国・欧州について紹介します。

アメリカ:政権に左右されるも規制強化へ

世界で最初に「CAFE規制」を導入したのがアメリカです。アメリカでは1970年代のオイルショックをきっかけに自動車の燃費規制が進められ、1975年には世界初となるCAFE規制「エネルギー政策・保存法(Energy Policy and Conservation Act)」が策定されました。

この法律では、1ガロンあたりの燃費効率が基準に満たない場合(当時は27.5マイル/ガロン)、その数値に応じた罰金を支払うよう定められています。この基準値の設定には政権の意向が大きく影響します。例えば、2012年にオバマ政権が「46.7マイル/ガロン」と厳格な水準を定めたものの、2020年にはトランプ政権が「40.4マイル/ガロン」に緩和しました。

さらにその後、バイデン政権はオバマ政権を超える厳格な基準「49.1マイル/ガロン(2026年製の車が対象)」を打ち出しました。政権交代が起こらない限り、アメリカはこのまま規制強化を続けていくと予想されます。

中国:自動車メーカー向けに2種類の規制を実施

中国では2019年より、自動車の販売に関して2種類の規制を実施しています。一つは「CAFC(Corporate Average Fuel Consumption)規制」と呼ばれるもので、日本語では「企業平均燃費規制」と訳されます。単語は異なりますが、事実上のCAFE規制です。メーカー別の平均燃費効率を元に基準値に到達したかどうかが判断されます。

もう一つは、「NEV規制(新エネ車規制)」です。こちらはBEV・PHEV・FCVと3種類の電気自動車を「New Energy Vehicle:NEV」と名付け、自動車メーカーに対して全販売台数の一定以上がNEV車となるよう求めています。

中国の規制の特徴は、燃費効率と販売割合の2側面から次世代の自動車開発を求めていることです。両取り組みを合わせ、「デュアルクレジット規制」や「ダブルクレジット規制」などと呼ばれています。

欧州:2035年にはガソリン車やハイブリッド車が販売禁止に?高額な罰金も

世界でもっとも規制が厳しいといわれているのが欧州(EU)です。欧州では燃費性能ではなく「走行1キロメートルあたりの二酸化炭素排出量(グラム)」を対象にCAFE規制を実施しており、現在の基準は「95グラム/1キロメートル」です。

この数値に違反すると、違反1グラムにつき95ユーロもの罰金(1台あたり)が科されます。実際、世界でも有名なドイツの自動車メーカー、フォルクスワーゲン(Volkswagen)は、基準に0.5グラム届かず、1億ユーロ(約130億円)以上の罰金が科させられるとして話題となりました。

さらに、2022年10月にはEU理事会と欧州議会により「2035年までにすべての新車の二酸化炭素排出量をゼロにする(ゼロエミッション化する)」と決定されています。すなわちガソリン車やHEVは近い将来、実質的に販売できなくなる見込みです。

CAFE規制は自動車業界の動向を左右する問題

この記事では、CAFE規制の概要と国内メーカーの現状、諸外国の状況について紹介しました。

CAFE規制は自動車の燃費性能や二酸化炭素排出量についてのルールで、車種ではなくメーカー別に計算される点が特徴です。違反時には高額な罰金が科せられることもあります。

欧州ではガソリン車やHEV車を排除する試みが進むなど、これからの数年は自動車業界にとって大きな転機となるでしょう。また、アメリカのように政権によって規制の厳格さが左右される地域もあるため、常に最新の動向をキャッチアップしていく姿勢が求められます。