この記事は2023年4月27日に「テレ東プラス」で公開された「素敵な生活が実現!~新たな時代のモノの売り方:読んで分かる「カンブリア宮殿」」を一部編集し、転載したものです。
目次
「家事をしたくなる道具」が集結~暮らしを素敵に支えるサイト
滋賀・草津市の梶原敦子さんの自宅には、「家事も料理も嫌いだった」と言う彼女を変えた道具の数々がある。
例えばスウェーデンで愛されるイリス・ハントバーク社が作る「テーブルブラシセット」(1万560円)。「使いやすいし、かけてもかわいい」と言う。シンプルな「グラス」(473円)はイタリアの老舗ガラスメーカー・ボデガの逸品。安定感があるデザインで、さまざまな用途に使えるが、耐熱ガラスなので梶原さんは子どもと一緒にプリン作りに使う。
そんな思わず使いたくなる道具がキッチンにはいくつもある。料理が楽しくなったというウッドぺッカー「いちょうの木のまな板」(1万6,500円)は、「『トントン』という音が心地よく優しくて、だんだん料理のやる気が出てきて、洗い物も楽しいです」(梶原さん)。素敵な道具を買い集める中で梶原さんの暮らしぶりも変わっていったという。
▽「だんだん料理のやる気が出てきて、洗い物も楽しいです」と語る梶原さん
これらの商品を買ったのは「北欧、暮らしの道具店」というECサイト。今、その人気が急拡大中だ。「北欧、暮らしの道具店」のアプリダウンロード数はわずか3年で260万件(2023年1月末時点)を突破した。
その魅力はどんな生活にもマッチするシンプルで使いやすい商品の数々。
例えば簡単においしいコーヒーが淹れられるロクサン「コーヒードリッパーセット」(5,280円)。ステンレス製の特殊なフィルターにより面倒なペーパーフィルターが不要。コーヒーをそのままカップに注ぐことができ、シンプルなのに便利だ。
刃物の町、岐阜・関市の工房・志津刃物製作所で女性のアイデアによって作られた「菜切型包丁ゆり」(9,900円)は軽くて持ちやすく、どんな食材も切りやすい。
北欧から取り寄せた本格的な食器を豊富に取り扱うのはもちろん、国内外から選りすぐった日常使いの商品も膨大に掲載されている。
ファンは今や全国に。長崎・東彼杵郡の大塚さつきさんの室内には「北欧、暮らしの道具店」で買った道具が至るところにある。最も気にいっているのは取っ手がついたスカンジナビスク・ヘムスロイド「オードブルトレイ」(4,840円)。全ての工程を手作業でつくるスウェーデンの木工メーカーの作品だ。大塚さんは「佐藤店長が考えて選んでくれたものだから、良いものだという信頼感があります」と言う。
▽スカンジナビスク・ヘムスロイド「オードブルトレイ」
素敵な道具から映画製作まで~兄妹で経営する急拡大サイト
「北欧、暮らしの道具店」の本拠地、クラシコムの本社があるのは東京・国立市。社長・青木耕平と店長・佐藤友子の兄妹で経営する。
創業から17年。今では海外から買い付けるだけでなく、自社商品も数多く手がけている。特にアパレル事業はこの5年間で8.5倍も売り上げを伸ばしたという。
「北欧雑貨が好きでサイトに来てくれた方々のお手伝いができそうなものを見つけて、少しずつ増やしていったら、結果的にいろいろな商品が揃った」(青木)
「これがあったら生活が便利になるけど『見た目が好きではない』とか、他の店では売れていると聞いていても『本当に好き』と思えなかったら取り扱わない。本当に納得いくものしか売っていないと思います」(佐藤)
▽「北欧、暮らしの道具店」驚いたのがサイトでの取り上げ方
兵庫・西宮市にある雑貨やアパレルを扱う小さなセレクトショップ「パーマネントエイジ」。この店のオリジナル商品である牛革のバッグに「北欧、暮らしの道具店」が目をつけ、サイトで取り上げられた。バッグはサイトに載せるや完売。バッグを生み出した林多佳子さんの予想を超える反響だった。
「おかげさまで反響は大きいです。一緒にお仕事をさせていただいてありがたい。熱量がすばらしいと思います」(林さん)
驚いたのがサイトでの取り上げ方だ。
「情報にびっくりしました。どういう経緯でバッグが生まれたかなど、全て網羅されている。他社のサイトと比べてもすごいと思います」(「パーマネントエイジ」・蓑田尚久さん)
商品を徹底的に深掘りし、その魅力を伝えるのが「北欧、暮らしの道具店」なのだ。
客をつかんで離さない秘密はサイトに掲載されているコンテンツにある。「北欧、暮らしの道具店」のサイトには、商品からライフスタイルまでさまざまな読み物が掲載されている。さらにユーチューブのチャンネルには膨大な数のオリジナル動画も。チャンネル登録者数は50万人を超え、中には100万回再生されている動画もある。ものを買うだけでなく、コンテンツを楽しむ場としても親しまれているのだ。
例えば東京・品川区の化粧品メーカー「ディセンシア」の社内で行われていたのは、女性トップ、山口裕絵社長の密着動画の撮影。自宅まで追いかけてそのライフスタイルを取材していた。
さらにオリジナルストーリーの映画製作にまで乗り出している『青葉家のテーブル』は2021年に劇場公開しただけでなく、Amazonプライムビデオなどでも配信されている。
北欧暮らしの道具店はさまざまなコンテンツを駆使し、その世界観を豊かにすることで熱いファンを作り出しているのだ。
▽『青葉家のテーブル』その世界観を豊かにすることで熱いファンを作り出している
「取りつかれたように買い付けを」~どん底兄妹の大逆転劇
社長の青木には毎週のように訪れる場所がある。店長であり取締役でもある妹・佐藤の仕事場。始まったのはクラシコムの経営会議だ。
2006年に創業したクラシコム。青木が始めたのは不動産関連のウェブサービスだった。佐藤は兄の手伝いに来ていたが、1年経っても全く結果はでなかった。
「家族にも出資してもらいお金つぎ込んだのに何も起きていない。すでに子どももいて30代半ばでしたから、当時を思い出すと食事も喉を通らなかった」(青木)
800万円あった資本金はあっという間に残り100万円に。追い詰められていた兄に妹が提案したのは、以前訪ねたことのある北欧への旅行だった。
「夫とスウェーデンを旅したことがあって、北欧に兄妹でもう1回行ったら、何か見つかるとも思っていませんでしたが、最後の社員旅行みたいな……」(佐藤)
最後の社員旅行へと兄妹2人が向かったのは北欧スウェーデン。そこで妹の佐藤にあるスイッチが入った。
「みなぎる力が出てきて『回るよ』と兄を引き連れて、取りつかれたように買い付けをしたんです」(佐藤)
「価値のあるものを持って帰れば、交通費ぐらい取り返せるかなと」(青木)
2人は地元のアンティークショップを回り、憧れだった北欧食器などをひたすら買い始めた。
▽憧れだった北欧食器などをひたすら買い始める
日本に帰ると「割れて届いたというのが次の挫折です(笑)」(佐藤)。だが、無事だった残り半分の商品をインターネットで販売すると、予想以上に売れた。これが「北欧、暮らしの道具店」の始まりだったのだ。
そんな船出から4年後、サイトの人気を爆発させるきっかけが、育休で仕事を休んでいた佐藤のアイデアだった。サイトに日々、変化を出せないかと、自分が使っている身の回りの商品の写真を撮り、コメントを付け、商品ページに掲載してみたのだ。
「サイトのお店に動きをつけたくて、『佐藤はこんなふうに商品を愛用しています』と勝手に追記し始めたんです。例えばカゴなら、『私はどこで何を入れるために使っています』と」(佐藤)
青木に意見を求めるとあまり乗り気ではなかったが、結果は、佐藤がコメントを載せた商品の購入率が平均で3倍近くも上がった。
「すでにサイトに載っている商品だけど、光の当て方を変えて紹介すると、もっと商品が売れ、結果が出たんです。兄は『おまえ、すごいな』と(笑)」(佐藤)
これをきっかけに、商品にさまざまなコメントをつける読み物や動画コンテンツを作り始めたのだ。
8割が昔からのファン~社員が商品を熱愛する理由
メディア編集グループ・齋藤あゆみの自宅を訪ねた。見せてくれたのは一風変わった蓋のHARIO「炊飯用土鍋」(9,900円)。「北欧、暮らしの道具店」で、自腹で買ったものだという。簡単にご飯が炊ける国内の耐熱ガラスメーカーのもので、火加減の調整がいらない。「ぷくぷくとご飯が炊ける様子が見えるのも気に入ってます」と言う。
▽簡単にご飯が炊ける国内の耐熱ガラスメーカーの「炊飯用土鍋」
ちょうど卵1つ分の卵焼きが作れる小さなサイズのambai「玉子焼フライパン」(5,280円)もお気に入り。鉄製でムラなく火が通り、焦げにくい。
齋藤の家にはついつい買ってしまった商品がたくさんある。社員であるにもかかわらず、「北欧、暮らしの道具店」の熱いファンなのだ。
「『これもいいな』と思うものがたくさんあって、自分自身も信頼して買っていたら、どんどん増えていきました」(齋藤)
クラシコムの社内はそんな社員だらけ。ほとんどの入社理由が「もともとお客さんだったから」「店のファンだったから」。実に社員の8割が、入社以前からサイトのファンだったという。そのひとりは「お客だった頃の自分をイメージして、役に立っていると感じることはある」と言う。
そんな熱い想いを持つ社員たちが徹底的に議論をし、サイトに載せる商品を選んでいる。ファンと社員が一体となったような独自のスタイルこそが「北欧、暮らしの道具店」の強さだ。
企業100社とコラボ~武器は客との信頼関係
「北欧、暮らしの道具店」には大企業も注目している。
この日はサイトに載せる動画制作を行っていた。入念に撮影していたのは、キッチンの一角にある世界的メーカー・ボッシュの製品「ビルトイン食器洗い機ゼオライトシリーズ」だ。メーカーとコラボしてサイトに載せる動画を制作しているのだ。
ファンをガッチリ掴んでいる「北欧、暮らしの道具店」の動画に製品が登場すると、通常の広告以上の売れ行きにつながるという。
ボッシュの広報を担当する「ジープレイス」Bosch事業グループ・川崎千香さんは「ボッシュの製品に目を留めてくださる方が非常に増えました。スタッフの方が勧める製品を素直に『買おうかな』と思える関係性ができている。製品を紹介するならクラシコムさんで、他の選択肢をあまり考えなかったです」と言う。
▽「北欧、暮らしの道具店」の動画に製品が登場すると、通常の広告以上の売れ行きにつながる
そんな企業とのコラボ依頼はすでに100件以上にのぼる。
別の日に担当者が訪ねたのは東京・新宿区の積水ハウス。新たな動画制作のミーティングだ。
「自社のこだわりや強みをお客様に届けたいと思っていますが、なかなか難しい。届きやすいものになるのではないかと思っています」(「積水ハウス」執行役員・足立紀生さん)
ファンとの強い結びつきこそが、「北欧、暮らしの道具店」最大の武器。佐藤の仕事場を訪ねると、いつものように長年のファンとリモートでつなぎ、熱心に意見を聞いていた。
※価格は放送時の金額です。
~村上龍の編集後記~
佐藤さんは夫の出張で行ったスウェーデンで北欧の働き方やライフスタイルに感動し、転機となる。次に兄と北欧へ行き、当時日本でも流行していたビンテージ食器をECで販売するという案を思いつく。
「北欧、暮らしの道具店」の出発点。資本金800万円の会社で、店をスタートしたときに残り180万円に。コンテンツが勝負だったが、当初そんな意識はなかった。
物語にファンがついた。ネットでは、みんな物語を求めているが、偽物はすぐにバレる。リアルな物語を、北欧への感動をベースに作ったから成功した。