この記事は2023年6月15日に「第一生命経済研究所」で公開された「骨太方針2023のポイント(少子化対策編)」を一部編集し、転載したものです。


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(画像=Andrii Yalanskyi/stock.adobe.com)

目次

  1. 少子化対策プランが決定、骨太方針に記載へ
  2. 歳出先行で実施へ、財源の多くは未定
  3. 既存の政策も含めた「政策の全体像の見える化」で将来の経済不安軽減を

少子化対策プランが決定、骨太方針に記載へ

政府のこども未来戦略会議は13日に「こども未来戦略方針」を決定した。政府が拡充する少子化・子育て政策の内容をまとめたものである。先般示された骨太方針の原案では少子化対策の欄はブランクになっているが、閣議決定時にはこの「こども未来戦略方針」の内容が記載されることになる見込みである。

政策の内容をまとめたものが資料1だ。中心となるのは子育て世帯への現金給付である児童手当の拡充だ。従来設けられていた所得制限を撤廃することで所得階層を問わずに支給を行うほか、従来中学生までだった支給期間を高校生まで延長する。第三子以降の支給額を高校生まで一律3万円/月とし、第三子以降のインセンティブを強化する。また、保険適用外となる正常分娩出産について健康保険の適用とすることを検討するほか、貸与型奨学金の減額返還の基準や給付型奨学金の所得要件を緩和し、低中所得者の高等教育にかかる負担を緩和する。住宅支援について、公営住宅の子育て優先入居の仕組みを整える。

育児休業の充実を図り、産後の28日間については従前給与の8割(現行50~67%)の支給を行い、育児休業中の社会保険料免除と合わせて、従前給与の10割が維持できるようにする。また、育児中のテレワーク導入を事業主に努力義務化するほか、雇用保険の拡大を通じて育児休業などの対象者を広げることを目指す。

政策の内容は多岐にわたるが、一つの特徴は児童手当の所得制限撤廃や奨学金の収入要件の緩和などにみられるように、高収入になると手当や給付が削減される制度の是正を図ったことにある。第三子インセンティブの拡大などにみられるように、多子世帯の優遇を念頭に置いた政策も目立つ。

第一生命経済研究所
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歳出先行で実施へ、財源の多くは未定

政府はこれらの加速化プランに関連する追加の歳出総額を3兆円台半ば/年と想定している。これらの財源の考え方について資料2の通り「こども未来戦略方針」に記載している。ポイントは、①基本は歳出改革などで捻出、②増税は行わない、③社保料に上乗せする支援金制度を設けるが、実質的に追加負担を生じさせないことを目指す、④不足分についてつなぎとして「こども特例公債」を発行、⑤高校生の児童手当拡充に対応して扶養控除との関係を整理、とした点である。

増税は行わないとしつつも、支援金制度は医療・介護の社会保険料への上乗せが念頭に置かれている。社会保険料の上乗せに当たっては、同等の規模の歳出改革を行い社会保険料の上昇を抑制することで「実質的に追加負担を生じさせない」ことを目指す。支援金制度の詳細については年末に結論を出す、とした。また、児童手当の高校生までの延長にあたって、扶養控除との関係をどう考えるか整理する、とした。過去には子ども手当の導入に合わせて扶養控除の縮小・廃止が行われた(2010年度)経緯があるが、今回も児童手当の拡大に合わせた縮小・廃止が念頭に置かれている。また、財源の不足する間はこども特例公債の発行をするものとし、歳出先行での予算拡充を認める形としている。

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既存の政策も含めた「政策の全体像の見える化」で将来の経済不安軽減を

今回の施策は主に子育て世帯の経済的不安の緩和を念頭に置いた内容となっている。資料3は厚生労働省の国民生活基礎調査を用いて、児童のいる世帯数が世帯総数に占める割合を所得階級別にみている。直近2020年の値が所得階級300万円未満、300~600万円未満で明確に低下しており、低中所得者が子どもを持つ選択を取らなくなっている傾向がうかがえる。子どもを持つことは所得の高い人による「ぜいたく」なものだという認識が広がっている可能性がある。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

経済的不安が子どもを持つことに対する制約になっている、という認識は筆者も正しいと考えている。一方で、「こども未来戦略方針」にも記載されているように、年齢が低いうちは子どもを持たない理由として経済的な理由を挙げる割合が高い一方で、年齢が高くなると身体的な理由を挙げる人が多くなる。年齢を重ねる中で収入や貯蓄が増え、経済的不安の影響は若い時よりも徐々に和らいでいくケースも多いのだろう。ただ、経済的不安が和らいだときには身体的な制約で子どもを持てなくなる人が増える。過度な経済不安を和らげ、より若い時期に結婚・出産の選択を取りやすくすることは少子化対策の上では重要な視点である。

若い時期の経済的不安を緩和するための一つの手段はシンプルに若者の所得を増やすこと、将来の所得増加期待を高めることである。この点は骨太方針内にも掲げられた「構造的賃上げ」の成否がカギになる。足元の若年層の労働需給が特にひっ迫する中で、初任給をより大きく引き上げる企業もみられるようになっている。こうした流れを続けることが肝要だろう。

また、お金の不安は手元のお金が増えるだけで解消するわけではない。必要なのは将来お金が足りなくなって困窮する、といった事態に陥らない、という「安心」だ。子どもを持てば教育費をはじめ想定よりも費用が掛かる様々なリスク(不確実性)がある。子どもが大きくならないと最終的な子育て費用は定まらないのであり、その点でいくら手元の給付を拡大しても経済的不安が完全に解消することはない。老後の年金不安も同根であり、「いつまで生きるかわからない」というリスクがある中では、いくら自分でお金を貯めても老後の経済不安はなくならない(そのリスクを和らげるのが終身支給の公的年金である)。経済的不安の根源は不確実性にあるのであり、それを和らげるものは将来そうしたリスクに直面した時に支援が受けられるという「セーフティネット」とそれに関する「情報」である。

子育て政策は国・都道府県・市町村、奨学金についてはJASSO(日本学生支援機構)が担うなど多岐にわたっており、どういった支援が受けられるのか政策の全体像が見えづらい。利用者視点で政策全体を見える化することが重要だろう。新規施策のみでなく既存の政策も含めた支援の全体像をわかりやすく情報提供することが、経済的不安を和らげることにつながっていくのではないか。この視点は子育て政策に限らず、あらゆる政策の効果を高める点で重要だと考える。

第一生命経済研究所 経済調査部 主任エコノミスト 星野 卓也