損害保険の不正請求をはじめとする一連の不祥事で、中古車買い取り・販売大手のビッグモーター(東京都港区)が窮地に追い込まれている。非上場ながら、同社によると年間売上高約7000億円の国内最大手として中古車買取・販売業界に君臨している。山口県岩国市の零細中古車販売業者でスタートした同社がナンバーワンとなるきっかけは、M&Aだった。
ハナテンのTOBでトップ企業へ
ビッグモーターの創業は1976年。同市の郊外商業集積地である南岩国町で個人経営の「兼重オートセンター」が前身となる。1980年には現社名の「ビッグモーター」に改称。主に山口県内で店舗網を拡大した。最初のM&Aはローカル中古車販売業者のエム・エー・シー(後のビッグ四国、2013年ビッグモーターに吸収合併)。同社を完全子会社化し、瀬戸内対岸の四国進出を果たした。
その後は自前で店舗網を全国に拡大したが、2005年4月に東証2部上場のハナテンに出資、2015年12月にはTOB(株式公開買い付け)で完全子会社した。ビッグモーターは当時すでに約70%のハナテン株を保有しており、発表当日の終値415円に約30%のプレミアムをつけた540円で募集、成立した。買付総額は約50億円だった。
これを受けてハナテン直営店で先行していた「ビッグモーター」へのブランド転換がフランチャイズ店舗でも加速し、2016年3月には全店舗で完了する。その結果、大市場である関西地区で展示販売営業所18カ所、車買取専門店41店舗を手に入れることができた。M&Aにより、ビッグモーターは強固な営業基盤を固めることができたのだ。
一時は「ガリバー」買収も射程に
その後、ビッグモーターは大型買収を実行していない。だが、それに向けたと見られる動きはあった。ターゲットと目されたのは、Gulliver(ガリバー)を全国展開する中古車の買取・販売大手のIDOM<7599>だ。ビッグモーターは2018年11月8日、IDOM株の保有比率が5%を超えた(5.23%)との大量保有報告書を提出した。
その後も3度にわたって同社株を買い増し、同16日には持ち株比率が9.21%まで膨らんだ。報告書によれば「純投資」が目的だったが、同業のライバル会社に対しては明らかに不自然だった。ハナテンの買収で業容が急拡大した経験から、IDOMをTOBで買収して中古自動車買取・販売事業で2位以下を大きく引き離す巨大企業への転身を狙った可能性も十分にある。
もし、そのままIDOM株を持ち続けていたとしたら、子会社化に必要な過半数の株式を取得するには現時点で約325億円かかる。30%のプレミアムをつけたとしても、約420億円の資金があればTOBが可能だ。2022年9月期の純利益が184億円だったビッグモーターならば、十分に実行可能な金額だろう。
しかし、不祥事発覚に伴う企業イメージ低下や業績悪化で、TOBによる事業拡大は不可能になった。もっとも、ビッグモーターは同12月14日以降にIDOM株を放出しており、現在の持ち株比率は5.33%まで下がっている。なぜ、同社株を短期間のうちに放出したのか、理由は不明だ。