20代や30代に比べると、50代の場合はNISAの運用期間が短くなります。定年退職が目前に迫っているので、将来の老後資金を減らさないことも意識しつつ投資をすることが必要です。実際に50代は、どのような点に注意して投資したらいいのでしょうか。
NISAについておさらいしておこう

まず、NISAの概要についておさらいしておきましょう。
NISA(少額投資非課税制度)とは、「NISA口座を利用して購入した株式や投資信託から得られる利益が非課税になる」という制度です。
NISAは「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の2つの非課税枠が設けられており、合計で1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで)の非課税枠があります。なお、2つの非課税枠は併用が可能です。
つみたて投資枠と成長投資枠の特徴を表にまとめると、以下のようになります。
NISA | ||
つみたて投資枠 | 成長投資枠 | |
口座開設期間 | 恒久 | |
非課税保有期間 | 無期限 | |
年間非課税投資枠 | 120万円 | 240万円 |
非課税保有限度額(生涯) | 1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで) | |
投資対象商品 | 長期の積立や分散投資に適した一定の投資信託 | 一定の上場株式・投資信託など |
買付方法 | ・つみたて投資のみ | ・一括投資 ・つみたて投資 |
つみたて投資枠
つみたて投資枠とは、金融庁が選定した投資信託などへの積立投資に対する非課税枠です。少額から積み立てできるので、投資初心者でも安心して利用できます。年間投資枠の上限は、120万円です。売却した枠は、翌年以降に再利用できます。
成長投資枠
成長投資枠とは、個別株や投資信託などへの一括投資に対する非課税枠です。ただし、一括投資だけでなく積立投資も行えます。年間投資枠の上限は240万円で、金額の大きい投資向きです。つみたて投資枠と同様に売却した枠は、翌年以降に再利用できます。
NISAで非課税となる2つの利益
「NISAで買付した金融商品から得られた利益は非課税」と述べました。投資で得られる利益について再確認しておきましょう。投資で得る利益には、「インカムゲイン」と「キャピタルゲイン」の2つがあります。
インカムゲインとは、株式の配当金や投資信託の収益分配金のように、資産の保有で得られる利益です。
一方、キャピタルゲインとは資産の売却で得られる売却益を指します。金融商品の売却価格が取得価格よりも高い場合に得られるのが、キャピタルゲインです。
NISAでは、インカムゲインとキャピタルゲインの両方とも非課税になります。
50代がNISAを利用する際の注意点

ここからは、NISAをきっかけに50代から投資を始める人に向けて、投資の注意点について3つに分けて解説します。
注意点1.50代は老後に向けた投資を心がける
50代がNISAの利用も含めて投資を始める場合、以下の3つを心がけましょう。
【1】老後も投資を続けることを意識する
【2】増やすことよりも減らさないことも意識する
【3】毎年安定したリターンが期待できる投資を行う
まず【1】は、老後になったら徐々に投資中の資産を取り崩していくことになりますが、資産を少しでも増やせれば、今後の生活の足しになります。そのため、60代70代になっても投資することを前提にNISAを活用しましょう。
次に【2】は、投資で資産を増やすことばかりに意識が向いてしまい、リスクを考慮しないで投資をしてしまうことを避けることを心がけてください。あらゆる投資にはリスクがつくものなので、たとえローリスクといわれるものでさえ、きちんとリスクを把握しておきましょう。
最後に【3】は、毎年必ずリターンが出るとは限りませんが、できるだけ安定した利益を出せていることが大切です。小さな利益でも毎年あれば、利益を再投資に回すことで投資元本を増やせるので、長期的にリターンを増やせる可能性が高まります。
毎年安定したリターンが期待できる投資を行うためには、インカムゲインを重視することが必要です。どれだけのインカムゲインを得られるのかは、「配当性向」という指標を確認すればわかります。
配当性向とは、「その企業が当期純利益に対してどれぐらいの割合で配当金を出しているのか」を示す指標です。このほか、「株主資本に対してどれぐらいの割合で配当金を出しているのか」を示す株主資本配当率(DOE)という指標もあります。
注意点2.資産の大半を投資に回すと損失が大きくなりやすい
持っているお金を全額まとめて投資をすると、大きなリターンが期待できる一方で、同じ程度の損失を抱えるリスクもあります。投資先の価格が10%下落しただけでも、以下の金額を失うことになります。
投資金額 | 価格が10%下落時の損失額 |
---|---|
100万円 | 10万円 |
500万円 | 50万円 |
1,000万円 | 100万円 |
2,000万円 | 200万円 |
3,000万円 | 300万円 |
上記の投資金額が生活費や急な出費に対応するための資金を除いた余剰資金であれば問題ありません。また、余剰資金であっても数百万円単位の損失は老後の生活費や精神的にもダメージを与えてしまうため、NISAで年間360万円を投資できるからといって、投資枠をフルに使うのは避けましょう。
注意点3.お金が必要なライフイベントを確認する
老後を迎えてから必要になるお金は、日々の生活費だけではありません。50代であっても、今後のライフイベントを見据えて現金を残しておく必要があります。
<50代以降のライフイベント>
・マイホームの購入
・自宅のリフォーム
・両親などの介護
・孫の出産祝い など
子どもがいる場合は、上記に加えて高校・大学への進学費用や、結婚をしたときのお祝い金なども必要になることがあります。将来のライフイベントを想定して、投資に回す金額を計算して正確に把握しておきましょう。
50代でNISAを活用する場合のポートフォリオ例
ここからは、50代向けにNISAのポートフォリオ例を、リスクを軸に「高い・中ぐらい・低い」に分類して紹介します。このリスクの分類については今回紹介する3つのポートフォリオ例で比べた場合の一般的な評価であるため、相場や経済状況などによってリスクの程度が変動します。
例1.全世界の株式に投資する(リスク高め)
50代は20代と比べると、大きな損失を出した場合、老後までに毎月の貯金などで補填できない可能性があります。その損失のリスクを抑えるために、全世界の株式に分散投資できる金融商品として、全世界株式に投資できる投資信託が活用できます。
<ポートフォリオ例>
全世界株式に投資している投資信託:100%
合計100%
全世界株式のベンチマークとして使われることが多い指数「MSCI ACWI」は、約50ヵ国の株式で構成されています。ただし、ポートフォリオの中身が特定のアセット(株式など)に集中していると、比較的大きいリターンを期待できるかもしれませんが、同程度のリスクも抱えることも把握しておきましょう。
また、上記のポートフォリオ例はリスクが高めであるため、大きな損失をできるだけ避けたい場合は以下2つのポートフォリオ例を参考にしましょう。
例2.全世界株式+債券でバランスを取る(リスク中ぐらい)
損失のリスクを抑えたい場合は、全世界株式と債券の投資信託を組み合わせるのが一つの選択肢になります。一般的に、債券は株式より相対的にリスクが低いとされるため、リスクを分散させるのに役立ちます。
<ポートフォリオ例>
全世界株式に投資している投資信託:50%
債券を中心に投資している投資信託:50%
合計100%
上記のように組み合わせると、全世界株式に集中投資をした場合と比べてリスクを抑えやすくなります。
例3.バランス型の投資信託を活用して安定運用を目指す(リスク低め)
バランス型の投資信託とは、株式や債券、不動産などのアセットに分散投資をしているファンドのことです。ファンドによっても異なりますが、一般的にミドルリスク・ミドルリターンといわれる不動産と、ローリスク・ローリターンといわれる債券を組み合わせることで、株式中心のファンドと比べてリスクを抑える効果が期待できます。
<ポートフォリオ例>
バランス型の投資信託:50%(※)
全世界株式に投資している投資信託:50%
合計100%
上記のポートフォリオは例2と比べるとバランス型ファンドを含んでいるため、一定の分散効果があり、相対的にリスクを抑えられると考えられます。
(※)株式・不動産・債券を3等分で投資をしているファンドを想定。
50代からのNISAは投資のリスクを抑えて活用しよう
50代からNISAを始める場合、10年程度は余剰資金の全額を運用できたとしても、定年退職後は老後の生活費として徐々に取り崩しながらの運用になります。大きな損失を出すと生活に悪影響を及ぼす可能性があるので、損失のリスクを抑えることが大切です。
そのため、特定の国や資産に集中投資している投資信託よりも、世界中の株式や債券などに分散投資をすることで損失の可能性を抑える効果が期待できます。いきなり数百万円単位から投資を始めると、相場によっては大きな損失を抱えることもあるので、最初は数十万円以下から始めて、うまく利益が出てから投資金額を増やしていくことも検討しましょう。
※本記事はNISAに関わる基礎知識を解説することを目的としており、NISAの活用を推奨するものではありません。
(提供:Wealth Road)