2023年のTOB(株式公開買い付け)件数が10日、50件(届け出ベース)を超えた。50件到達までのペースは前年とほほ同じ。ところが、公開買付代理人の座をめぐるレースでは“異変”が起きている。一躍、ダークホースと目されるのがSBI証券。すでに前年比倍増の7件で起用され、上位陣を脅かす存在に急浮上している。

SMBC日興、3年連続の年間首位に照準

公開買付代理人はTOBへの応募を受け付ける窓口証券会社を指す。買収者(公開買付者)に代わって、買収対象企業の株式の保管・返還や買付代金の支払いなどの事務を担う。TOBに応募する株主は代理人の証券会社に口座を開設し、株式を移管する手続きが必要となる。

10月10日、イオンが食品スーパーのいなげやを、国内投資ファンドの日本企業成長投資(東京都千代田区)が眼鏡店「メガネスーパー」を展開するビジョナリーホールディングスを対象に、それぞれTOBを開始する届け出を関東財務局に提出した。前者ではみずほ証券、後者では野村証券が代理人を務める。

これらの2件が加わり、2023年のTOB件数は51件となった。50件到達は2022年より7日早いが、ペースがさほど変わったわけではない。

51件のTOBについて代理人の証券会社別に集計(一覧表参照)したところ、トップは10件のSMBC日興証券。2位の野村証券が8件で追う。残る2カ月半の展開次第だが、SMBC日興証券は3年連続の年間首位の座を視野にとらえている。

2023年のTOB戦線で最大のハイライトとなったのは9月にTOBが成立した東芝の非公開化案件。応募額が1兆5729億円に達したが、代理人として仕切ったのはSMBC日興証券だった。

M&A Online

(画像=3年連続の年間トップをうかがうSMBC日興証券(東京・丸の内)、「M&A Online」より引用)

SBI証券、大和と三菱UFJを抑え3位に

既成の大手証券勢を相手に健闘が著しいのがネット証券最大手のSBI証券だ。代理人の件数はここまで7件で、みずほ証券と並ぶ3位。大和証券の6件、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の5件を抑える。

SBI証券は2020年1件、2021年4件、2022年3件で、それ以前の2010年代はトータル6件に過ぎなかった。既成の大手証券の後塵を拝してきたが、2023年は着実に件数を積み上げ、一気にダークホースに躍り出た形だ。

SBI証券が手がける7件のTOBのうち、最も規模が大きかったのが店頭マーケティング支援のインパクトホールディングスがMBO(経営陣による買収)で株式を非公開化する案件で、応募額は約217億円だった。また、2021年にSBIホールディングスが子会社化した新生銀行(現SBI新生銀行)をめぐっては今年5月に、非公開化に向けて2度目のTOBが行われたが、系列証券として再び代理人を務めた。

ネット証券では今年、auカブコム証券が4件、マネックス証券が1件のTOBに関与しているが、いずれもサブの「復代理人」にとどまる。