ビッグモーター(東京都多摩市)に金融庁から「最後通牒」が突きつけられた。11月末で同社の損害保険代理店登録を取り消したのだ。金融庁発足以来、初となる最も重い行政処分だ。同社は12月から自動車損害保険を販売できなくなり、今後3年間は代理店の再登録もできなくなる。いよいよ追い詰められたビッグモーター。その買収に大きな影響を与えるのは間違いない。

基本合意書締結は買収交渉の「終盤」

現在、同社の買収交渉を進めているのは、伊藤忠商事と同社子会社でエネルギー商社の伊藤忠エネクス、企業再生ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズ(東京都千代田区)の3社連合で、11月17日には基本合意書を取り交わした。

基本合意書は企業の売り手と買い手の当事者間で契約締結の意思があることを取り交わす契約書。基本合意後は、買い手が売り手に対して他の買収希望会社との交渉を禁じる独占交渉権を認める内容となっている。基本合意書と言うと「スタートライン」のイメージもあるが、M&Aのディール(交渉)では終盤に当たる。

基本合意書の締結以降に残っているのはデューデリジェンス(買収監査)と、その結果を受けた最終条件の調整を経て最終契約書を締結するだけだ。ストライクの荒井邦彦社長は「多額の損害賠償請求を求められるような違法行為が隠れていたなどの不測の事態が見つからない限り、基本合意書を交わしたM&A交渉が破談になるケースはほとんどない」と指摘する。

M&A Online

(画像=一般的なM&Aの流れ(ストライク提供)、「M&A Online」より引用)

報道によると、伊藤忠側は兼重宏行前社長ら創業家の影響を排除することを条件とし、創業家側も同意していることから、すでに金額を含めて買収の中身は固まっている可能性が極めて高い。残るはデューデリジェンスの結果を受けた買収金額の微調整となる。

経営危機に直面しているビッグモーターとしては、伊藤忠から最終的に提示された金額に不満があったとしても、交渉を中止する余裕はない。伊藤忠側の「言い値」が通ることになるだろう。業績悪化に歯止めがかからず、基本合意書を破棄して一から買収相手を探しているうちに経営破綻するおそれがあるからだ。

では、買い手の伊藤忠は自動車保険代理店登録の取消処分を受けて、買収交渉を打ち切るのか?おそらく、そうはならない。伊藤忠はビッグモーターの持つ土地や店舗網、整備工場群、中古車在庫などの資産を確認した上で、自社の損にならない買収価格を提示しているはず。今回の取消処分も基本合意書締結以前に確実視されており、伊藤忠にとっては「想定内」だろう。