1.2023年第3四半期のTOB総評

今年第3四半期のTOB(株式公開買い付け)は件数、金額ともに第3四半期としては2年連続の増加となった。年間累計件数では47件と前年通年の59件まであと12件に迫り、2年ぶりに増加に転じる可能性も出てきた。一方、年間累計取引金額は第3四半期で追い上げて2兆6593億円と昨年通年実績を上回り、3年ぶりの増加が確定している。国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP、東京都千代田区)陣営による東芝のTOBが総額を押し上げた。

TOBの不成立は1件で国内投資ファンドのJ‐STAR(東京都千代田区)による焼津水産化学工業<2812>のTOBが該当。これにより今年の不成立はすでに2件となり、1件だった昨年を上回って2年ぶりの増加が確定した。

第3四半期の件数・金額・プレミアム比較
期間 2021 3Q 2022 3Q   2023 3Q
件数           7     15            19
金額(単位:百万円) 200,158 607,095 2,177,616
買収プレミアム平均   40.31%   32.77%     45.34%

2.TOBの推移

第1、第2四半期と2四半期連続で前年同期割れとなっていたが、第3四半期で前年同期比4件増の19件と増加に転じた。第3四半期としては2011年第3四半期の20件に次ぐ高い実績となっている。日本銀行が7月以降に長期金利の上限緩和を容認したことから、TOB資金調達が難しくなりTOBの足を引っ張る懸念もあったが、第3四半期はその影響は出ていないようだ

3.2022年第3四半期の注目案件

第3四半期で最も買付総額が高かったのは、JIP陣営による東芝に対するTOBの1兆5729億円。JIP陣営は東芝の非上場化を目的にTOBを実施。非上場化は経営再建の足かせとされる物言う株主(アクティビスト)を排除することが目的だった。買収資金については国内企業17社の出資や主力銀行による融資などで充当する。

東芝は不正会計問題や米原子力事業の巨額損失などで経営危機に直面し、2017年3月に最終赤字が1兆円に膨らみ、債務超過に陥った。債務超過の解消に向けて2017年末に増資で約6000億円を調達したが、この増資引き受けをきっかけに海外勢を中心とする物言う株主が影響力を増し、経営への介入を招いた経緯がある。

東芝の東証プライム市場への上場は廃止されるが、非上場化で経営の安定を取り戻し、企業価値を高めたうえで再上場を目指す。

次に高かったのは、伊藤忠商事<8001>が子会社の伊藤忠テクノソリューションズ(CTC) <4739>を非公開化するために実施したTOBで2469億円。エンジニアリソースの確保やデジタルバリューチェーンの拡充による事業領域の拡大、グローバル事業展開の高度化といったシナジー効果を狙う。

CTCは1972年4月に設立。情報機器販売やITインフラ構築、法人向け情報システムのコンサルティング、設計、開発、維持保守、運用アウトソーシング、データセンタ事業などを幅広く手がける大手システムインテグレーター(SI)。東証プライム市場に上場していた。

第3四半期で唯一の不成立となった、J‐STARによる焼津水産化学工業のTOB。同社の非公開化が狙いで、焼津水産もTOBに賛同していた。しかし、買付期間中に旧村上ファンド系の南青山不動産などが焼津水産株を大量に買い増していることが判明し、株価が買付価格の1137円を上回る1300円前後まで上昇。買付期間を1カ月延長したものの、応募株数が下限に達しなかったため不成立に終わった。

焼津水産は1959年に静岡県焼津市で設立し、市内のかつお節工場で廃棄される頭や内臓、骨などの副産物を有効利用した飼肥料向けフィッシュソリュブルや肝油の製造に着手。その後、天然調味料や乾燥食品などの製造に事業を広げている。1988年に株式を店頭登録、名証2部上場を経て、2001年に東証1部に上場(2022年4月に東証スタンダード市場に移行)した。