本記事は、勝浦 雅彦氏の著書『ひと言でまとめる技術』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

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(画像=vegefox.com / stock.adobe.com)

ひと言でまとめるために必要な「適切な物の考え方」とは?

問題:伝え方がうまい人とは、どのような人のことでしょう?。
1. 多くの言葉を知っている人。
2. ユーモアにあふれた人
3. 表現力豊かな話し方をする人

どれも正解! と言いたいところですが、私はこう考えています。

それは「そのとき、その場所、その相手に対して適切な伝え方ができる人」です。

あなたは、お葬式の席で遊びに行く話をするでしょうか?

結婚式のスピーチで、人間の寿命の短さを語るでしょうか?

恋人と一緒にいるときに、昔の恋人の話を堂々と語るでしょうか?

たとえが極端かもしれませんが、多かれ少なかれ、人はついこのような「相手のことを考えない発言」をしてしまうものです。

たとえばあなたが5社競合のプレゼンに臨むとします。もちろん企画内容やチーム編成は大事ですが、チームリーダーがとくに気にするのは「発表の順番」です。というのも、1社1時間でも5社となると5時間。途中、休憩も入るでしょうから、プレゼンは1日がかりです。受ける側の負担も、それなりに大きくなります。

順番を自由に選べるなら、トップバッターか最後を取りたがります。

これは「一番手なら強い印象付けができる」「ラストなら記憶が新しいまま採点に入ってもらえる」といった理由からです。

逆に、もっとも避けたいのは「お昼休み直後の時間帯」です。いったん緊張が切れ、しかもランチ後で眠たくなる時間帯だからです。

もちろん、不利な時間帯だから必ずしも負けるわけではありません。

ですが、ここでポイントなのは「優秀なチームは、プレゼンの時間帯によって話す内容を変えている」ということです。朝イチとお昼直後とラストでは、当然聞き手の精神状態も違います。

話し始めたときに受け手が「あくびをしている」「退屈そう」「疲れている」といった様子が見受けられれば、優秀なプレゼンターは瞬時に言い方を変えたり、ユーモアを交えたり、内容を思い切って短くしてしまうこともあります。

これらはすべて、「伝えるとは自分の言いたいことを言うこと」ではなく、「その場において、適切な伝え方をすること」という大前提を知っているからです。

このことを理解していないと、飛びつきやすいテクニックに走った挙げ句、「なんかいろいろ言ってるけど、この人の言うことって頭に入ってこないな」といった印象を与えかねません。

その場において適切な伝え方をするためには、その場において適切な物の考え方をすることが大切です。

ここでは、ひと言でまとめるために必要な考え方と方法をお伝えします。

「つまりこれってどういうこと?」と考える ─「つまり」思考法

「つまり」、あなたは何が言いたいの?

あなたは、真面目で意識が高く、向上心があるはず。

しかし同時に、積ん読の書籍や、「あとで読む」にブックマークしたまま放置されている大量の記事にストレスを感じていませんか?

要は、何をどう始めていいかがわからなくなっているのでは、と私は想像します。

そんな迷い多きあなたに贈りたいのは、「つまり」の3文字です。

じつは「ひと言でまとめる」プロセスは、基本的に「つまり」の繰り返しでしかありません。

私も含め、ほとんどのコピーライターはこんな経験をしています。

「勝浦のコピーって、回りくどくてわかりづらいね。つまりどういうこと?」
「つまりこの商品って、◯◯が大事ってことかと……」
「じゃあ、回りくどく△△から始めずに、最初から◯◯って書きなよ」

これは、コピーライターに限らず「考えがまとまらない」「遠慮やそんたくが働く」「他人の反応を気にするあまり、つい核心を避けて伝えようとする」など、誰もが陥る思考の罠なのです。この罠を避けるためには、意識的に「つまり」を問いかけ続けて、伝えたいことの純度を上げていくしかありません。

私が「ほっぺるランド」という保育園のブランド広告をつくったときに書いたコピーがあります。「つまり思考法」で考えると、こんなプロセスです。

  • 子どもって、どんな生き物にも「さん」づけをするよね。
    ↓(つまり)
  • 子どものうちに持っていた「生きとし生けるものへの敬意」を、大人になると忘れがちになってしまう。
    ↓(つまり)
  • 先生が子どもに教えるべきことはいろいろあるけど、いちばんは「命の大切さ」なのでは?

と、「つまり思考法」を実践し、「どんないきものにも、『さん』をつけるきみたち。」というコピーをつくりました。

これは結論である「気づき」から逆算して、このコピーがなぜ必要なのか? を紐解いていきました。

また、お仏壇のコガの広告では、「子どもたちがかけまわる法事は、幸福です。」というコピーを制作しました。「つまり思考法」で考えると、こんなプロセスです。

  • お葬式って悲しい状況ではあるけれど、よくわかっていない子どもたちが駆け回っている姿はなんだかグッと来るな。
    ↓(つまり)
  • それって、「家族の未来がつながった」ことの象徴と言えるんじゃないか。
    ↓(つまり)
  • お葬式の場面にも、幸福は存在するんだ!

こう考えて、最終的に「お葬式」は広告コピーとしては言葉が強いので、「法事」と書き換えました。このように、「つまり」を意識的に使うことで、考えもしなかった響く言葉に出合えます。

何をどう始めていいかわからなくならないためにも、次の「つまり思考法」トレーニングを日常から行うクセをつけてみてください。

つまり思考法トレーニング
①自分の伝えたいことを紙に書く
②それに「つまり(それってどういうこと?)」と問いかける
③出した答えがまだまとまっていないなら、また「つまり」と問いかける

④ひと言になるまで繰り返す

覆い隠された本質を見つけ出すために「つまり」と何度も自分自身に問いかけ続けることが大事なのです。

ひと言でまとめる技術
勝浦 雅彦(かつうら・まさひこ)
コピーライター。法政大学特別講師。宣伝会議講師。
千葉県出身。読売広告社に入社後、営業局を経てクリエーティブ局に配属。その後、電通九州、電通東日本を経て、現在、株式会社電通のコピーライター・クリエーティブディレクターとして活躍中。また、15年以上にわたり、大学や教育講座の講師を務め、広告の枠からはみ出したコミュニケーション技術の講義を数多く行ってきた。クリエイター・オブ・ザ・イヤーメダリスト、ADFEST FILM最高賞、Cannes Lionsなど国内外の受賞歴多数。著書に『つながるための言葉』(光文社)がある。
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