本記事は、勝浦 雅彦氏の著書『ひと言でまとめる技術』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

Beautiful couple talking over blackboard background with speech bubble
(画像=Drobot Dean / stock.adobe.com)

「共感」と「実感」と「快感」で伝える ─ 三感法

あるあるを見つけ出し、武器にする。

私は趣味でお笑いネタを研究しているのですが、あるとき、ピン芸人のネタのほとんどが「あるあるネタ」になっていることに気づきました。あるあるネタとは、ひたすら「あるある!」と共感できそうな状況やシーンを重ねていく手法です。

〈あるあるネタ例〉

  • ケータイの画面が小さく割れると気になるが、大きく割れると気にならなくなる。
  • 母親の、電話に出るときの声の違いに戸惑う。
  • マラソンでの「一緒に走ろう」は、たいてい裏切られる。

こういった「わかるわかる」を繰り返して、だんだんシュールにしたりしながら自分の世界に引き込んでいくわけです。

なぜピン芸人はあるあるネタが多くなるのかというと、漫才が2人のかけ合いでネタを膨らませていくのに対し、ピン芸は1人で舞台に立ち、審査員や観客との擬似的な「対話」によって成り立つ芸だからだと考えます。

日常生活でも、短時間で相手との距離を近づけるための近道のひとつは、お互いの共通項を発見し、共感し合うことです。まさに「あるある」です。

まず何か言葉を発する前に、「この人と私の共感ポイント=2人をつなぐもの」を探しましょう。それをどう伝えれば、「実感し合えるか=お互いの利益になるか」までを考えるのです。

たとえば、私はあるプロジェクトでお客様に初めて会ったときに、そのお客様がとあるブランドの服を着ていることに気づきました。

そこで「そちらの服は◯◯の限定モデルですね! 私も欲しかったんですよ」と言いました。これは「お互いの共感ポイント」です。相手は悪い気はしません。さらに、「◯◯って、この夏、新しいデザイナーのラインナップが出るみたいですよ。ご存じでしたか? 表参道にショップもできるみたいです」と続けます。これは「自分と相手の実感できる利益」です。

共感(私とあなたをつなぐもの)

実感(私とあなたの利益になるもの)

快感(脳は短い言葉でわかり合えると喜ぶようにできている)

こうやって「共感」と「実感」を連続で受けると、「この人は自分にとってプラスのことを与えてくれた」と、「快感」を感じるようになります。

これは脳科学的にも実証されているそうです。

大事なのは、お互いが気持ちよくわかり合えるためには何を伝えるべきかを考え続けることです。

「強烈な提示」+「なぜそうなったのか」+「結論」で伝える ─ スパイシーサンド法

物語は事件から始めて3層構造に!

「物語は事件から始めろ」という言葉をご存じでしょうか?

これは私が学生のころ、シナリオについて学んでいるときに出合った言葉です。

初心者が物語を書く場合、つい設定や主人公の生い立ちなどの「こまごまとした説明」から入ってしまいます。そうすると物語のリズムが狂い、ときに言い訳から物語が始まっているような印象を与えるという、いわば戒めの言葉です。

読者を物語に引き込むためには、最初に事件を起こし、その後に補足で設定を伝えるべきと教わったわけです。

そしてこの手法は、すべての「伝え方」にも応用できます。

たとえば、スピーチのうまい人には共通の特徴があります。

すべての印象的なスピーチは、
「強烈な提示」+「なぜそうなったのか?」+「結論」

という3層構造でできているケースが多いのです。

これを私は、「スパイシーサンド法」と名づけました。

記号化すると、「!+?+。」となります。

これは、あるNPOの方の講演で聞いた話を抜粋したものです。

5年前、私は中毒患者でした。
中毒、といっても、仕事中毒です。管理職だった私は、家庭を顧みずに働きました。
当然、会話もほとんどありません。
付き合いと称して飲み歩き、根拠のない自信のもと、健康診断にも行っていませんでした。そしてある日、私は倒れてしまったのです。
病院のベッドで考えました。私はいったい何に取り憑かれていたのだろう? 人生においていちばん大切なものはなんなのだろう? と。
それが、健康と幸福度をさまざまな側面から可視化して向上させていくNPO法人の立ち上げのきっかけになったのです。
(中略)
いまでは、かつての私のような「中毒患者」の方は働き方改革でだいぶ減りましたが、それでもサインが出ている方はひと目でわかります。
医者であれば治療すればその仕事は終わりますが、人生の幸福を考えることに終わりはありません。
私たちは「あなたの人生のかかりつけ医」でありたいと考えています。

中毒患者、という「強烈な提示」があり、「仕事中毒」に陥った自分がNPOを立ち上げるきっかけになったことがスムーズに伝わります。そして結論では、自分たちは医者ではないが、「人生のかかりつけ医になることができる」と、冒頭の「患者」から立場を逆転させることで、提示を回収してスピーチを終わらせています。

「!(キック)+ ?(なぜ)+ 。(結論)」の法則を活用し、伝えたいことを組み立ててください。

ひと言でまとめる技術
勝浦 雅彦(かつうら・まさひこ)
コピーライター。法政大学特別講師。宣伝会議講師。
千葉県出身。読売広告社に入社後、営業局を経てクリエーティブ局に配属。その後、電通九州、電通東日本を経て、現在、株式会社電通のコピーライター・クリエーティブディレクターとして活躍中。また、15年以上にわたり、大学や教育講座の講師を務め、広告の枠からはみ出したコミュニケーション技術の講義を数多く行ってきた。クリエイター・オブ・ザ・イヤーメダリスト、ADFEST FILM最高賞、Cannes Lionsなど国内外の受賞歴多数。著書に『つながるための言葉』(光文社)がある。
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)