本記事は、勝浦 雅彦氏の著書『ひと言でまとめる技術』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

Two man talking and discussing. communication and talking concept. 3d rendering,conceptual image.
(画像=Jane / stock.adobe.com)

「言い訳」を捨てる

問題:スピーチの冒頭で出席者の心をつかむために、あなたならどんなひと言で始めますか? 次の4パターンからひとつ選んでください。
A:本日はたいへん緊張しております。つまらない話かもしれませんが、お聞きください。
B:私は幸せになるには、3つの鍵が必要だと考えています。
C:私の生涯最大の失敗は? と問われたら真っ先に思い出す出来事があります。
D:ある調査によると、人生でいちばん恐ろしいことは死。3番目は飛行機に乗ること。では、2番目はなんでしょう?

私は「スピーチが得意だ」という人に、ほとんど会ったことがありません。話し上手だなあと思う人も、「いやいや、自分なんて」と、自分自身の評価は低かったりします。

どうやら、スピーチが苦手というのは、人間の習性のようなもののようです。

きつおんに悩む英国王と言語聴覚士の深い友情を描いた映画『英国王のスピーチ』を観たときに思ったことです。

クライマックスで、主人公アルバートは国民に向けたラジオ演説を見事な内容でやりきるのですが、ブースには言語聴覚士のライオネルと2人きりになります。

もちろん、それまで積み重ねられた2人のトレーニングは意味のあるものなのですが、最終的には「親密な人と2人きりで話したから」うまくいったのではないか、というのが私の仮説です。

つまり、「気心の知れた人たちの前では、みんなスピーチが上手にできる」はずなのです。

ですがビジネスの場では、当然関係性の濃い人も薄い人も、初対面の人なんかもいて余計な緊張が高まります。

そうするとAのように、「緊張している」ことを宣言してなんとかプレッシャーを回避しようとし、なおかつ「つまらない話ですが……」と続けてしまうシーンをよく目にします。

じつは、これは逆効果です。

正式な場で「緊張している」ことが許されるのは、学生までか、結婚式の花嫁の父親くらいでしょう。何より謙遜だとしても、「つまらない話」なら聞きたいと思う人はいないはずです。

その場のノリで話すときほど伝わらない

メジャーなものは、Bの「3ポイントトーク」と呼ばれる、「話す内容を3つにまとめて提示する」切り出しです。

「今日は、私のこれまでの経験から、3つの話をします」

伝説のスピーチと呼ばれるスティーブ・ジョブズのスタンフォード大学での講演でも、冒頭にこれが使われています。

どんな名スピーチでも、「あとどれくらい続くのだろう?」と考えるとストレスがかかるもの。ポイントを提示することで、現在地がわかりやすくなります。

これは、「地図を意識する」のと同じ考えです。

発展型では、「今日、私はたったひとつのことだけお伝えするためにやってまいりました」のように、さらに絞り込んでいくことも可能です。

Cのように、「自分のエピソードや体験から語り始める」というのも、効果的です。聴衆が聞きたいのは、誰かの話ではなく、あなたの話です。

我が身に起こったことならば、暗記する必要もなく堂々と話すことができ、聞き手に強い印象を与えることが可能です。

あるいはDのように、「数字+質問を投げかける」ことで考えさせて引き込んでいくのも、有効な手法です。

質問するだけでもいいのですが、そこに数字が入ると、抽象と具体が絶妙にミックスされ、聞いていて退屈しないのです。

「ある調査によると、人生でいちばん恐ろしいことは死。3番目は飛行機に乗ること。では、2番目はなんでしょう?」

答えは「人前で話をすること」です。

日本人には、スピーチをまるで苦行のように考えている人が多いです。

私自身も、スピーチが得意ではありません。むしろ苦手だと認識しています。

それでも、あまり緊張しないで話せるようになってきたのは、以下の3つのことを心がけるようになったからです。


・考えて、準備して、練習する
・場数を踏むようにする
・「つまらないと思われてもいいや」と開き直る

とくに大事なのは「準備と練習」だと考えています。

「話がうまくておもしろい人」に憧れて、ついその場のノリで話そうとする人がいます。ですが、スポーツにおいて、準備体操もしないで、普段から運動している人と同じことができるわけがありません。

スピーチを上達させるには、まずは「言い訳」を捨てること。

あとは練習あるのみです。

まとめ
言い訳がましく伝えないために、「言い訳」を捨てる。
ひと言でまとめる技術
勝浦 雅彦(かつうら・まさひこ)
コピーライター。法政大学特別講師。宣伝会議講師。
千葉県出身。読売広告社に入社後、営業局を経てクリエーティブ局に配属。その後、電通九州、電通東日本を経て、現在、株式会社電通のコピーライター・クリエーティブディレクターとして活躍中。また、15年以上にわたり、大学や教育講座の講師を務め、広告の枠からはみ出したコミュニケーション技術の講義を数多く行ってきた。クリエイター・オブ・ザ・イヤーメダリスト、ADFEST FILM最高賞、Cannes Lionsなど国内外の受賞歴多数。著書に『つながるための言葉』(光文社)がある。
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