本記事は、勝浦 雅彦氏の著書『ひと言でまとめる技術』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。
「捨てる技術」を身につけて伝え方をアップデートする
- 問題:ビジネスの目標達成のためにはどちらが大事でしょう?
- 1. 何をするか決める
2. 何をしないか決める
答えは2の「何をしないか決める」です。
ご存じの方もいるかもしれませんが、スティーブ・ジョブズが言い残したと言われている言葉です。
では、なぜ何をしないか決めることが大事なのでしょうか?
あなたはto doリストをつくってはみたものの、優先順位をつけられないまま時が過ぎ、気づけば一日が終わってしまったという経験はないでしょうか?
どう考えても一日ではできないことなのに、つい詰め込んでやろうとしてしまう。夏休みの宿題と同じです。
人間は何かをしようとするとき、「いまの状況に何を足していくか?」から入りがちです。そのほうがプラスの行動に思えるし、「やっている感」が得られるからです。
ですが、この考え方で選択肢を増やしていくと、たいてい混乱します。
人間には、持っている時間にも行動のエネルギーにも、限りがあるからです。
するべきでないことは、視界から消してしまいましょう。
それによって、本当にやらなければならないことに注力できるようになります。
営業職だったころ、創業して間もないとあるベンチャー企業から電話がかかってきたことがありました。「新聞広告を出稿したいが、設立したばかりで実績がないので相談したい」といった内容でした。
先輩とともにさっそくその企業に向かったところ、プリント1枚の会社案内を見せられました。その事業目的の欄には「通信」「建設」「金融」「リサイクルショップ」「英会話教室」……挙げ句の果てには「占い」「パワーストーンの販売」といった項目までが書かれていました。
帰り道に先輩が、「あの会社は、おそらく飛ぶ(潰れる)ぞ。取引は見送ったほうがいい」とつぶやきました。1年後、その会社は影も形もなくなっていました。
「あれもこれもできます」というのではなく、「弊社は◯◯のプロです」と言ってもらうほうが信用できると思った瞬間でした。
「捨てる」と「残す」を見極める
私は企業から預かった膨大な経営戦略、商品開発、市場調査などの資料を徹底的に読み込み、その99.99%を捨て、ほんの数行のメッセージに凝縮する仕事をしています。
クライアントは自社や商品に思い入れがありますから、「あれも言いたい。これも入れたい。その情報にも触れないとほかの部署が怒る」といった事情を抱えています。
私はその際、いったん事情をのみ込みつつ、「多くを言おうとするとひとつも伝わらなくなります」と、利用者の代弁者となって正論を伝えます。
まずは勇気を持って、「捨てる」ことからあなたの仕事を変えていきましょう。
この章では、ひと言でまとめるためのシンプルな技術を、「捨てるもの」「残すもの」という視点から問題形式でお伝えします。
- 問題:上司から「プロジェクトの進捗状況はどうなってる?」と聞かれました。あなたならA・Bどちらで返答しますか?
- A:先方とうまくやれていると思います。問題はないはずです。
B:すぐ確認します。最新の状況を把握していないので。
「解釈」を捨てる
たとえば、あなたの目の前で雨がシトシト降っていたとしましょう。
このとき、「雨が降っている」は実際に起こっていることであり、誰も異論を挟めません。誰にも動かせない事象を「事実」と呼びます。
しかし、そんな日に友人に「今日はどんな天気?」と聞かれて、あなたが「いやー、悪い天気だよ」と答えたとしたらどうでしょう?
「雨が降っていること」に対しての感想は人それぞれです。
もちろん、雨が降ることに対してマイナスの感情を持つ人も多いでしょうが、「お気に入りの雨傘を使える!」「これで今年は農作物が凶作にならなくて済むかも」という人も一定数いるわけです。
つまり、事実をどう捉えたかが「解釈」であり、あなたは自分の思い込みで「雨=悪い天気」と考えているにすぎません。
事実はひとつですが、解釈は無数に存在するのです。
いまや小学生も真似をしていると聞く、ひろゆきさんの「それってあなたの感想ですよね」という論破ワード。これは、「それってあなたの解釈ですよね(客観的な事実に基づいていませんよね)」と相手に指摘しているわけです。
問題の正解は、「B」です。
Aがなぜいけないのかというと「プロジェクトの進捗」という明確な事実についての質問をされているのに対して、「うまくいっているはず」という思い込みの解釈で答えているからです。
「人の時間を奪わないために、ひと言でまとめる」ことが大切で、言葉にするスピードを上げることはトレーニングできるとお伝えしてきました。
しかし、即答しようとするあまり「思い込みの解釈」でその場をしのごうとするのは逆効果です。
Bの答えのように、「わからないことは、わからない」で答えればいいのです。
適当な解釈は相手の信頼を失います。
こういったやりとりを教訓にできる人は、「今度聞かれたらこう答えよう」「ちゃんと想定問答を用意しておこう」と、前向きに成長できる人だと思います。
ちなみに「解釈」自体は、決して悪いことばかりではありません。
事実が決まりきっていない状況や、新しいアイデアを考えるときなどは発想の幅が必要になりますから、「自由に解釈する」ことが価値を持つ場合もあります。
それがビジネスとしてかたちになっていく過程で、「事実に基づいた評価」を受けていきます。
だからこそ、「思い込みの解釈」と「事実」をしっかり分けて考えることが大切なのです。
- まとめ
- 仕事をスムーズに進めるために、「解釈」を捨てる。
千葉県出身。読売広告社に入社後、営業局を経てクリエーティブ局に配属。その後、電通九州、電通東日本を経て、現在、株式会社電通のコピーライター・クリエーティブディレクターとして活躍中。また、15年以上にわたり、大学や教育講座の講師を務め、広告の枠からはみ出したコミュニケーション技術の講義を数多く行ってきた。クリエイター・オブ・ザ・イヤーメダリスト、ADFEST FILM最高賞、Cannes Lionsなど国内外の受賞歴多数。著書に『つながるための言葉』(光文社)がある。