本記事は、勝浦 雅彦氏の著書『ひと言でまとめる技術』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。
ひと言でまとめる前に、まずは自分を知り、相手を知る
- 問題:コミュニケーション能力とはなんでしょう?
- ・人前でうまく話せること
・分け隔てなく人付き合いができること
・人にやたらと気に入られること
近ごろは、人付き合いが上手だったり人前でうまくしゃべれたりする人のことを「コミュ力お化け」などと呼び、もてはやす傾向にあります。
では、コミュニケーション能力とはいったいなんなのでしょうか?
多弁、雄弁であること?
はたまた、相手にうまく気に入られること?
それとも、とにかく話し方がうまい人のことでしょうか。
私は、どれも違うと思います。
私が考えるコミュニケーション能力とは、「相手とわかり合い、相手を受け入れる力」です。
人間は、お互いにわかり合うのがとても難しい生き物です。他人にがんばって何かを伝えたところで、本当に伝わったかどうかは確かめようがありません。なぜなら、自分はその人本人ではないからです。
だから、わかり合うことを前提としつつ、自らが他者を受け入れること、そういう自分になることが大切なのです。
「コミュニケーション能力=受け入れる力」なのです。
これから「伝えたいことをひと言でまとめる」ことを学んでいく過程でも、「伝えることは受け入れること」であることを忘れないでいてください。
ひと言でまとめるための「8つのプロセス」を知る
ここでは「ひと言でまとめる」ためのプロセスを、8つに分けてお伝えします。
- 勇気(言う気)を持つ
- 自分を知る
- 伝えたい相手を知る
- 目的地を明確化する
- 「コア」を探す
- ばっさり捨てる
- 相手がどう動いたかを観察する
- 人間関係を発展させる
これらのプロセスを経ることで、誰でも「ひと言でまとめる」ことができるようになります。
便宜上、多くの方法論を提示していますが、情報が多すぎると思考がショートしてしまう危険があります。それを避けるために、とりあえずひととおりざっと見てみて、理解しやすいものから選んで実践してもらえればと思います。
それでは、ひとつずつ見ていきましょう。
勇気(言う気)を持つ
子供のころ、こんな苦い経験をした記憶はありませんか?
私は小学校から中学校のころまで片思いをしていた女の子に、告白をしてフラれたことがあります。そのときなんと伝えたのかは、まったく覚えていません。片思いの期間が長すぎたため、言いたいことが膨らみすぎて、意を決して電話で告白をした際には支離滅裂なことしか言えなかったことだけは覚えています。
でも、後悔などあろうはずがありません。なぜなら、「言えなかった〝思い〟は残る」のです。その思いは行き場を失い、心のうちをさまよって、消えることはありません。だから、言葉にしようとした自分を褒めてあげるべきなのです。
あらゆる物事を伝えるためにいちばん大切なのは、「伝える勇気を持つ」ことです。
あなたは、おそらく人間関係の悩みやコミュニケーション上の問題を解決するために、静かに向上心を燃やしている方だと思います。
「もっとうまく相手に伝えられたら」
「もっと上手に提案ができれば、価値を示せるのに」
多くの人は、心のなかでそう思っていてもなかなか行動できません。
人間の行動に対する学術調査で、「100人中、25人が行動し、5人が継続し、70人は思っても何も行動しない」というデータがあります。とするなら、この本を買ってアクションを起こしたあなたは、すでに25%のなかに入っているということです。
つまり、言う気は、勇気です。
勇気の出し方のコツをひとつお伝えします。
「もうこの人とは二度と話せないかもしれない」と思うことです。
大げさに聞こえるかもしれませんが、学生時代と違って、社会人になると多くの人と「気づいたときには、もう会うことがない」状態に陥ります。
もちろん、デジタルツールの発達で、誰かと連絡を取ることはとてもスムーズになりました。ですが、ある知人はスマホをなくしたことで、数百人レベルの人と「二度と連絡が取れない」状況に陥りました。
アメリカで起きた9・11同時多発テロで息子を亡くした母親の、『最後だとわかっていたなら』という詩は、まさに「伝えるべきことを伝えられるうちに伝えないと、二度と会えない運命が待っていることがある」と教えてくれます。
いま、何かを伝えたい相手がいるなら、勇気を出して伝えましょう。
自分を知る
言葉で何かを伝えるには、まず「自分は何者か?」ということを、自分なりに理解するのが大切です。
古代ギリシアの哲学者ソクラテスは、〝汝自身を知れ〟と説きました。「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」という孫子の言葉や、「まず、自己を知れとでも申しますか、自分というものを知らなければいけない。われわれ日本人は、日本を知らなくてはいけない、日本人を知らなくてはならないと、そんな感じがするのです」という松下幸之助の言葉も、自分を客観視して見つめることの重要性を説いています。
しかしそもそも、「自己を知るための努力をする」ことが、日本人はとても苦手です。
まず「ひと言でまとめたいと願う自分とは何者なのか?」ということを考えてみてください。
私が推奨するのは、以下の方法です。
自己分析トレーニング
① 自己分析:ノートを使って、自分の趣味嗜好、哲学、正義など、ひたすら思い浮かんだことを書いていく。
② 自己の確立:ウィキペディアの形式で自分史を作り、「自分の肩書とはなんなのか」を決める。
③ 自分と他人の関係:心理分析モデルの「ジョハリの窓」を他人と共同で行い、いろいろな視点から自分を見つめる。
全部やるのが大変でしたら、①だけでもやってみてください。
自分というものを自分でよくわかっていないまま言葉を相手に伝えようとする行為は、土台がしっかりしていないものの上に建物を建てる、まさに砂上の楼閣だと私は考えています。
千葉県出身。読売広告社に入社後、営業局を経てクリエーティブ局に配属。その後、電通九州、電通東日本を経て、現在、株式会社電通のコピーライター・クリエーティブディレクターとして活躍中。また、15年以上にわたり、大学や教育講座の講師を務め、広告の枠からはみ出したコミュニケーション技術の講義を数多く行ってきた。クリエイター・オブ・ザ・イヤーメダリスト、ADFEST FILM最高賞、Cannes Lionsなど国内外の受賞歴多数。著書に『つながるための言葉』(光文社)がある。