M&Aに頼らず、アジアで独自展開
ひと言でいえば、距離を保ってきたのが実情だ。1993年の東証上場以降に手がけたM&Aは5件ほど。社運を賭けるような大型案件も見当たらない。
そうした中、現時点で同社唯一の海外案件が2006年、フランスの医療・介護用ベッドメーカー、コロナメディカルの買収。コロナメディカルの販路を活用した欧州展開を目的とし、電動用ベッド向けモーターなどを供給してきた。
だが、10年後の2016年にコロナメディカルの全株式を現地社にただ同然で売却。欧州経済の停滞やフランス国内での競争激化で、コロナメディカルは赤字が常態化し、債務超過に陥っていたことから、見切りをつけたのだ。
パラマウントベッドはこれまで医療・介護用ベッドなどで海外110カ国・地域以上に製品を納入してきた。海外売上高比率は10%強で、金額は108億円(2024年3月期見込み)。全体の8割超をインドネシア、中国などアジアが占め、これに中東、中南米が続く。
海外生産拠点は1995年のインドネシアを手始めに、中国(2004年)、インド(2012年)、ベトナム(2024年度、工場稼働予定)の4カ国に置くが、いずれもM&Aに頼らない形の独自展開を貫く。2012年にはシンガポールにアジア統括会社を設けた。
国内では2006年に介護・福祉用具レンタルのサンネットワーク(現パラマウントケアサービス、東京都墨田区)を買収したのが最初。その後は10年以上、M&Aに縁がなかったが、2018年に病院向けテレビシステム事業のCSアメニティサポート(現パラテクノ、東京都文京区)を、2019年に住宅設備・家具資材製造のサダシゲ特殊合板(広島県福山市)を立て続けに傘下に収めた。
そして今年、5年ぶりにM&Aに取り組む。子会社のパラマウントケアサービスを通じて、SMFLレンタル(東京都千代田区)から福祉用具レンタル卸事業を7月1日付で取得する。取得金額は非公表としている。SMFLは三井住友ファイナンス&リースの傘下企業。
CVCファンドを設立、50億円投資へ
ここ数年、事業会社によるスタートアップ投資が盛り上がりを見せているが、パラマウントベッドHDも極めて前向きだ。2022年10月、SBIインベストメント(東京都港区)と共同で、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ファンドを設立した。
ターゲットは医療、介護、健康の各領域に強みを持つ国内外の有望なスタートアップで、新事業の創造に向けた革新的な技術・サービスを取り込むのが狙いだ。2030年3月期までの7年半で50億円規模の投資を行う予定。スタートからほぼ1年後の2023年8月末時点で投資実績は6件という。
パラマウントベッドは2030年までの長期ビジョン(10年間)で、医療・介護から健康までを広範にカバーする総合ヘルスケアカンパニーの実現を掲げる。その過程では他社連携の拡大はもとより、手付かずだった本格的なM&Aに向き合う場面もありそうだ。
◎パラマウントベッドHDの主な沿革とM&A
年 | 出来事 |
1950 | 木村寝台工業を設立 |
1987 | パラマウントベッドに社名変更 |
〃 | 店頭市場に株式登録 |
1993 | 東証2部上場(96年に東証1部、2022年東証プライム) |
1995 | インドネシアに現地法人を設立 |
2002 | ベッド点検・清掃などのパラテクノ(東京都文京区)を設立 |
2006 | フランスの医療・介護用ベッドメーカー、コルボンホールディングス(後のコロナメディカル)を子会社化 |
2007 | 介護・福祉用具レンタルのサンネットワーク(現パラマウントケアサービス、東京都墨田区)を子会社化 |
2011 | 持ち株会社制に移行 |
2012 | シンガポールにアジア統括会社を設立 |
2016 | フランス子会社のコロナメディカルを現地社に譲渡 |
2018 | パラテクノを通じて、テレビシステム事業のCSアメニティサポートを子会社化(翌年吸収合併) |
2019 | 住宅設備・家具資材製造のサダシゲ特殊合板(広島県福山市)を子会社化 |
2022 | コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ファンドを設立 |
2024 | 7月、福祉用具レンタルのSMFLレンタル(東京都千代田区)を子会社化へ |
文:M&A Online