iDeCoと新NISAは、いずれも個人の資産形成をサポートする制度です。どちらも取引した金融商品の運用益が非課税になりますが、50歳からの資産形成ではどっちの制度を選ぶとよいのでしょうか。

本記事では、さまざまな観点からiDeCoと新NISAを比較しました。制度の選び方に加えて、iDeCoと新NISAを併用する方法についても解説します。

50歳は老後資金が目的ならiDeCo、投資の幅を広げたいなら新NISAを優先

iDeCoでアクティブ・ファンドを購入するのはあり?なし?
(画像=Nishihama/stock.adobe.com)

50歳からの資産形成では、iDeCoと新NISAのどっちも選択肢として考えられます。目的に合わせて制度を選ぶことが重要であり、たとえば老後資金を重視している場合はiDeCo、投資の幅を広げたいなら新NISAを優先してみるとよいでしょう。

以下の表は、iDeCoと新NISAの主な違いをまとめたものです。

主な違いiDeCo新NISA
運用期間75歳まで無期限
積立や投資の手法掛金から積立投資積立投資とスポット取引
年間の投資限度額自営業者:81万6,000円
会社員:27万6,000円
公務員:14万4,000円
専業主婦:27万6,000円
つみたて投資枠:120万円
成長投資枠:240万円
併用:360万円
生涯の投資限度額3,672万円(掛金)1,800万円(再利用可能)
対象商品投資信託、保険商品、預貯金など
(一つの金融機関で35商品が上限)
上場株式、投資信託、ETFなど
(つみたて投資枠だけで282本が対象商品)
税制優遇拠出時:全額が所得控除
運用時:運用益が非課税
給付時:各種控除を適用
金融商品から生じた運用益が非課税になる
払出し制限原則60歳から受給制限なし
手数料加入時:2,829円
運用時:月171円~
給付時:1回あたり440円
開設時・運用時の手数料はなし
(※上記は2024年3月時点の情報)

いずれも金融商品から生じた運用益が非課税になる制度で、細かく見るとさまざまな違いがあります。それぞれの特徴を理解した上で、ご自身に合った制度を選んでみてください。

50歳が初めての資産運用で選ぶのはiDeCoと新NISAのどっち?

50歳から資産運用を始める場合、iDeCoと新NISAのどっちがよいかは目的によって変わります。資産状況や目標金額によっては、両制度を併用する選択肢も考えられるでしょう。

以下ではiDeCoと新NISAの特徴を踏まえて、制度選びの判断基準や考え方をご紹介します。

老後資金だけが目的であればiDeCoを優先

毎月の掛金で金融商品を運用できるiDeCoは、老後資産の形成に特化した年金制度です。原則60歳までは資産を引き出せませんが、拠出時・運用時・給付時のそれぞれに税制優遇の仕組みがあるため、資産形成と節税を両立できます。

また、保険商品や預貯金など、元本確保型の金融商品を購入できる点もiDeCoの特徴です。資産が減るリスクを取りたくない人は、元本確保型のみで運用するような選択肢もあるでしょう。

掛金の拠出は65歳まで、金融商品の運用は75歳までですが、老後資金のみを目的にしている場合は大きな問題にならないと考えられます。

資産運用や金融商品の幅を広げたいなら新NISA

iDeCoに比べると、新NISAは対象商品の種類が多いため、資産運用や金融商品の幅を広げやすい特徴があります。

新NISAの対象商品には投資信託の他、国内株式や外国株式、ETFなども含まれます。金融機関によって取扱商品は異なりますが、投資信託だけで比較をしても新NISAのほうが選択肢を増やせます。積立投資だけではなく、購入するタイミングや価格、数量を指定できるスポット取引にも対応しています。

どっちも重視したいならiDeCoと新NISAを併用

老後資金と投資の幅を広げるのをどっちも重視したい場合は、50歳からiDeCoと新NISAを併用する選択肢もあるでしょう。両制度を併用すると、それぞれの利点を活かしながら資産形成を図れます。

投資限度額まで金融商品を購入する場合は、家計に十分な余裕が必要です。また、複数の制度を活用していると、資金や保有している金融商品の管理が複雑になるため、投資に慣れていないうちは混乱するかもしれません。

iDeCoと新NISAを併用する場合は、両制度の仕組みを理解した上で、それぞれの利点を活かせる資産運用の計画を立てることが大切です。

50歳はiDeCoと新NISAのどっちがよいのか?両制度の違い

50歳からの資産形成では、主に資産運用の目的や期間を意識することが重要です。たとえば、定年退職までに老後資金を準備したい場合は、10年~15年という期間を意識して制度を選ぶ必要があるでしょう。

ここからは50歳の人が「どっちがよいのか」を判断できるように、iDeCoと新NISAの違いを分かりやすく解説します。

【1】運用期間

iDeCoは2022年4月から制度が拡充され、受給開始可能年齢が75歳まで引き上げられました。受給開始は60歳~75歳の範囲で選ぶことができ、最長では75歳まで金融商品を運用できます。ただし、掛金の拠出は65歳までであり、70歳以上になると年金での受けとりができなくなります。

一方で、新NISAには運用期間の制限がありません。従来の一般NISAでは最長5年間でしたが、2024年1月に始まった新NISAでは非課税保有期間が無期限化されました。

【2】積立や投資の手法

iDeCoは毎月の拠出額をあらかじめ設定し、積みたてた掛金で金融商品を運用する制度です。運用する商品と配分比率を設定しておくと、掛金から自動的に金融商品が購入されるため、積立投資と同様の効果が期待できます。なお、口座開設先に加入者掛金額変更届を提出すると、毎月の拠出額を1,000円単位で変更したり、掛金を年単位で拠出したりすることも可能です。

一方で、新NISAは積みたてたい金融商品や投資手法に合わせて、以下の投資枠から選べる仕組みになっています。

<つみたて投資枠>
一部の投資信託を積立投資で購入できる。
<成長投資枠>
上場株式や投資信託などを、スポット取引または積立投資で購入できる。

スポット取引とは、ご自身で金融商品を購入するタイミングや金額、数量を指定する方法です。成長投資枠はスポット取引に対応しているため、相場状況を見ながら細かい取引を繰り返すような手法も選べます。

【3】年間の投資限度額

iDeCoには年間の投資限度額はありませんが、毎月の掛金には上限が設けられています。拠出限度額は職業や勤め先によって異なり、最大では年81万6,000円(月6万8,000円)まで拠出できます。

<iDeCoの掛金上限額>

国民年金の加入者種別職業年間の掛金上限額
第1号被保険者
任意加入被保険者
自営業者など81万6,000円
第2号被保険者会社員企業年金なし:27万6,000円
DBに加入:14万4,000円
企業型DCのみに加入:24万円
公務員14万4,000円
第3号被保険者専業主婦、専業主夫27万6,000円

一方、新NISAにも年間の非課税投資枠(投資限度額)が設けられており、つみたて投資枠では年間120万円まで、成長投資枠では年間240万円までの投資が可能です。なお、新NISAは投資枠の併用が認められているため、最大では年間360万円の金融商品を購入できます。

【4】生涯の投資限度額

iDeCoには生涯の投資限度額はありませんが、掛金については生涯で拠出できる金額が決まっています。自営業者や会社員ではどれくらいが限度額になるのか、実際に計算をしてみましょう。

<生涯の拠出限度額の計算式>
(拠出できる最大の年齢-加入できる年齢)×掛金上限額=生涯の拠出限度額

<自営業者の場合>
(65歳-20歳)×81万6,000円=3,672万円

<会社員(企業年金なし)の場合>
(65歳-20歳)×27万6,000円=1,242万円

一方で、新NISAには非課税保有限度額(総枠)があり、1,800万円(※うち成長投資枠は1,200万円まで)を超える金融商品は非課税での運用ができません。ただし、金融商品を売却した分は再利用が可能であるため、売買を繰り返すとさまざまな金融商品を取引できます。再利用できる総枠は売却時の価格ではなく、購入時の取得価格で計算されるので注意しましょう。

【5】対象商品

iDeCoの対象商品は、投資信託や保険商品、預貯金などが中心です。「元本変動型」と「元本確保型」の2種類に分かれており、目的や資産状況に合わせて金融商品を選べる仕組みになっています。複数の金融商品を運用することもできますが、各金融機関の商品数は35が上限です。

一方で、新NISAの対象商品は投資枠によって異なります。

<つみたて投資枠>
長期積立・分散投資に適した一部の投資信託やETF
<成長投資枠>
上場株式や投資信託、ETFなど

全体で見ると新NISAのほうが商品数は多く、2024年2月29日時点ではつみたて投資枠だけで282本の金融商品が対象です。ただし、実際の取扱商品は金融機関によって異なります。

【6】税制優遇

iDeCoは金融商品から生じた運用益が非課税になるのに加えて、拠出時や給付時にも税制優遇を受けられます。

<iDeCoの税制優遇>
拠出時:掛金の全額が所得控除の対象になる(小規模企業共済等掛金控除)
運用時:金融商品から生じた運用益が全て非課税になる
給付時:年金には公的年金等控除、一時金には退職所得控除が適用される

一方で、新NISAも運用益が非課税になる制度ですが、それ以外の税制優遇はありません。入金時・出金時に所得控除が適用されることはないため、節税効果はiDeCoのほうが高い傾向にあります。ただし、金融商品の運用状況によっては、新NISAのほうが高い節税効果を期待できる場合もあります。

【7】払出し制限

iDeCoで積みたてた資産は、原則60歳になるまでは引き出せません。また、60歳の時点で加入期間が10年に満たない場合は、以下のように受給開始年齢が引き延ばされます。

加入期間iDeCoの受給開始年齢
1ヵ月~2年未満65歳
2年~4年未満64歳
4年~6年未満63歳
6年~8年未満62歳
8年~10年未満61歳

なお、以下の条件に全て該当する人は、国民年金基金連合会や個人型記録関連運営管理機関に請求をすると脱退一時金を受けとれます。

<iDecoの脱退一時金を受けとる条件>
・60歳未満である
・企業型DCに加入していない
・iDeCoの加入条件を満たしていない
・海外に居住していない
・iDeCoの障害給付金を受けとる権利がない
・確定拠出年金の拠出期間が5年以下である
・確定拠出年金の個人別管理資産額が25万円以下である
・確定拠出年金の資格喪失日から2年を経過していない
(※上記の確定拠出年金には企業型DCも含まれる)

一方で、新NISAには払出し制限がありません。ただし、金融商品がそのまま現金になることはないため、資産を引き出すには保有商品を売却する必要があります。

【8】手数料

iDeCoの加入時には、国民年金基金連合会に2,829円の手数料を支払う必要があります。また、口座を運用している期間や、年金・一時金の給付を受ける際にも、以下の手数料がかかります。

手数料がかかるタイミング支払い先金額
口座の運用中
(運営管理手数料)
国民年金基金連合会月105円
信託銀行月66円
金融機関金融機関によって異なる
給付時信託銀行1回あたり440円

金融機関に支払う運営管理手数料は無料の場合もありますが、国民年金基金連合会や信託銀行の手数料は継続してかかります。仮に20歳から60歳まで運用することを想定して、運営管理手数料がどれくらいかかるのかを計算してみましょう。

<手数料の総額の計算>
運営管理手数料の月額×12ヵ月×運用年数=手数料の総額
(105円+66円)×12ヵ月×40年=8万2,080円
(※金融機関に支払う運営管理手数料は、0円として計算)

一方で、新NISAでは口座の維持・開設に手数料がかかることはありません。ただし、取引する金融商品によっては、購入時手数料や信託報酬などのコストが発生します。

iDeCoが向いている人(50歳の場合)

iDeCoと新NISAの違いを踏まえると、どのような人が各制度に向いているでしょうか。まずは、iDeCoが向いている人の特徴からご紹介します。

退職までの税金を減らしたい

iDeCoの掛金は全額が所得控除の対象になるため、拠出額に応じて毎年の税金を減らせます。

中でも所得税は、課税所得金額の区分によって税率が決まる仕組みです。所得控除によって区分が下がれば、控除前よりも低い税率が適用されるため、大きな節税効果を期待できるかもしれません。iDeCoには払出し制限があるため、無計画に掛金を増やすと家計が圧迫されてしまいます。日々の生活に支障が出ないように、無理のない範囲で掛金を設定しましょう。

積み立たた資産を年金形式で受けとりたい

新NISAとは違い、iDeCoでは積みたてた資産を年金形式で受けとれます。

一時金での給付と受給総額は同じですが、老後生活では安定した収入のほうが助かる場合もあるでしょう。また、しばらくはiDeCoの年金で生活を送り、公的年金の受給を繰り下げるような選択肢もあります。一時金と年金の併用もできるので、将来のライフプランに合った受けとり方を考えてみてください。

元本確保型の金融商品で運用したい

資産を減らさずに安定して運用したい人にも、iDeCoは向いている可能性があります。

新NISAとは違い、iDeCoの対象商品には元本確保型も含まれます。元本確保型とは、利率が低く設定されている代わりに、元本割れのリスクが低い商品の総称です。元本確保型は全体的に値動きが少ないため、運用状況をこまめに確認できない人にも向いているかもしれません。

新NISAが向いている人(50歳の場合)

iDeCoに比べると、新NISAは資産運用の幅を広げやすく、積みたてた資金の自由度も高い制度です。具体的にどのような人に向いているのか、以下では一例をご紹介します。

1年間で100万円以上を投資に回したい

新NISAでは2つの投資枠を併用すると、年間で最大360万円の金融商品を購入できます。つみたて投資枠だけでも年間120万円の非課税投資枠を使えるため、投資資金を増やしたい人は新NISAを優先してみるとよいでしょう。一方で、iDeCoに投資限度額はありませんが、掛金については年間14万4,000円~81万6,000円が上限になります。

金融商品や銘柄の選択肢を増やしたい

iDeCoとは違い、新NISAの取扱商品には上限数がありません。金融機関によっては、投資信託だけで1,000本以上を取り扱っているため、新NISAを選ぶと金融商品や銘柄の選択肢を増やせます。

新NISAの対象商品には、他にも国内外の株式やETF、REITなどが含まれます。さまざまな金融商品から選べるので、分散投資をしたい人にも向いている可能性があります。

資産を引き出す可能性がある

60歳までに資産を引き出す可能性がある場合は、新NISAから検討してみましょう。

マイホームや自動車の購入など、まとまった資金が必要になるライフイベントはいくつかあります。安定した生活を送る上では、病気やけがによる入院、身内の冠婚葬祭など、急な支出も想定しなければなりません。

新NISAには払出し制限がないため、保有商品を売却すればさまざまな支出に対応できます。iDeCoにも脱退一時金はありますが、前述の条件を全て満たす必要があるため、急な支出への対応は難しいでしょう。

50歳がiDeCoと併用するなら新NISAの投資枠はどっち?

新NISAの投資枠は併用できますが、資金が限られている場合はどちらを優先すればよいでしょうか。

iDeCoと併用する場合は、成長投資枠を選ぶと資産運用の選択肢が広がります。新NISAのつみたて投資枠とiDeCoは、いずれも積立投資を前提にした制度です。積立金額を変えることはできますが、購入のタイミングを細かく指定することはできません。

一方で、成長投資枠はスポット取引に対応しているため、iDeCoと組み合わせるとさまざまな投資手法を選べます。たとえば、基本的にはiDeCoで元本確保型の金融商品を運用して、相場状況によってはスポット取引で売買益を期待するような手法があるでしょう。

ただし、iDeCoとつみたて投資枠の対象商品は異なるため、これらの制度を組み合わせる方法も一つの選択肢です。各制度の対象商品や取引方法を確認した上で、ご自身に合った組み合わせ方を考えてみてください。

資産状況や目標金額に合った制度を選ぼう

50歳から始めることを想定すると、iDeCoと新NISAはどっちかが優れているわけではありません。いずれの制度にもメリット・デメリットがあるため、人によって向いている制度は変わります。本記事でご紹介した「向いている人」についても、あくまでひとつの目安でしかありません。資産状況や目標金額を踏まえて、ご自身の目的を達成しやすい制度を選びましょう。

※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。

(提供:Wealth Road