特集「令和IPO企業トップに聞く 〜 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。
都市と地方の分断を解決する
ーーまずはじめに、雨風太陽社の事業の変遷についてお聞かせいただきたいと思います。
株式会社雨風太陽 代表取締役・高橋博之氏(以下、社名・氏名略):2011年に発生した東日本大震災をきっかけに、被災地で浮き彫りになっていた社会課題をビジネスの力で解決しようと、2013年にNPOとして起業しました。その社会課題とは、都市と地方の分断です。この課題を解決するために、食べ物の裏に隠れている地方の生産者を可視化し、都市部を中心とする消費者と直接繋げたいと思い、食べもの付きの情報誌「東北食べる通信」を始めました。大震災をきっかけにボランティアに来る学生やビジネスパーソンが生産者と繋がった際に、生産者の哲学や生き様に共感して、多少その生産者が作る食材がスーパーの値段より高くても購入するということを何度も目の当たりにしました。そこをきっかけに、生産者と消費者をつなげる活動をしております。
設立当時はインパクトのある事業だと思っていたのですが、サブスクリプションの事業だっただけに月に一人の生産者しか紹介できない、つまり年間12人しか紹介できず、思っていたほどのインパクトを与えることができませんでした。これでは都市と地方の分断は解決できないと思い、より大きなインパクトを与えるべくポケットマルシェという事業を考えました。ポケットマルシェとは、生産者自らがスマホを使って値付けやそれに対する説明や背景を加えることで、価値を伝えることができるサービスです。このサービスを実現するためにはアプリの開発が必須であり、そのための資金を集める必要があったため、NPOから株式会社化する決断に至りました。この想いに共感してくださる方から出資を募り、無事にポケットマルシェをローンチし、現在までの7年間で、全国で8000人ほどの生産者を集めるに至るまでスケールすることができました。
また、今後もさらなる社会的インパクトの最大化を狙うべく、昨年IPOを行いました。
ーー最初の課題意識である都市と地方の分断について、もう少し詳しくお聞かせいただけますか。
高橋:日本は戦後、集団就職列車で地方の若者を都市に連れていき、経済復興を成し遂げました。しかし、これにより都市と地方が分断されてしまいました。都市と地方が分断されてしまうと、消費者は生産者の思いや背景を感じ取ることができず、費用対効果、つまりできるだけ安いコストでたくさんのものを得ようという合理的な行動のみに執着してしまいます。そこで、生産者の思いや背景を伝えることでより生産者と消費者を密接に繋げ、食べ物を通じて都市と地方をかきまぜることで、この分断を解消しようと考えました。
ーーその後実際に上場されてみて、どのような変化がありましたか?
高橋:一緒に都市と地方の分断を解消することを目指す仲間が増えたと感じています。例えば、上場をきっかけに、これまで疎遠になっていた地方の漁師から、「株はやったことないけどあなたの活動を応援したいから株主にさせてくれ」と連絡を受けることがありました。このようにお客様ではありますが、当事者である生産者とともに歩んでいくことは必要不可欠であり、これは上場しなければできなかったと感じております。
ーー今後、地方自治体との協力を拡大し、元公務員の採用を強める予定とのことですがそれはどのような理由なのでしょうか?
高橋:自治体は課題だらけであり、産業の空洞化や過疎化など自治体だけでは手に負えない状況にあります。その状況から、民間の力を活用し、社会課題を成長のエンジンにしていくことが求められています。今まで税金を消費して自治体のみで解決を試みていましたが、これからは民間と行政が協力して地域社会にインパクトを出していくことが必要であり、私たちはそこを目指しているためです。
食の流通で地域社会を支える
ーーコロナ禍によって貴社サービスの会員数や契約数が急激に増えていると思います。外出ができない状況や自宅で食事する機会が増えていることが要因だと思われますが、今後コロナが収束した際にビジネスに影響があると考えていますか?また、起こり得るリスク要因は何だと思いますか?
高橋:そうですね。ポケットマルシェのようなサービスは時間的な余裕がある人に向けているので、働き方改革が進んでいる現状では利用者が増えています。しかしながら、私たちのビジネスのリスク要因は自然災害です。近年毎年のように大きな自然災害が起きており、産地が全滅する可能性があるため、生産者を全国に広げてリスクを分散する必要があると考えています。
ーー貴社のサービスは食べチョクさんやオイシックスさんと比較されることが多いと思いますが、そういった競合との差別化や強みについて教えてください。
高橋:まず、目指しているビジョンが違うと思います。オイシックスさん、食べチョクさんは食の流通、つまり生産者の売上にフォーカスしていますが、私たちは地方創生の文脈で取り組んでいます。例えば一人の生産者が売り上げを伸ばしても、地域社会全体が衰退すると、学校も病院もなくなり、生活できなくなるわけです。私たちは食の流通を通じて生産者の売り上げ向上を狙うだけでなく、地方創生の文脈で農村漁村に関わる人を増やすことで地域社会を支えることを目指しています。
また、私たちの最大の特徴は、生産者とユーザーである消費者の間に入らないことです。ポケットマルシェでは、生産者とユーザー間の問題は直接彼らに解決してもらっております。非公開のDMで直接生産者と消費者が連絡を取り合うことができ、双方向のやり取りを通じて強固な関係が生まれ、リピートして継続して購入することに繋がっています。このような点から、「都市と地方をかきまぜる」という私たちの理念に近づいていくという意味でも、差別化できていると思います。
ーー今後、どのようにユーザー数を拡大していく予定ですか?地方創生や社会課題に取り組む意識の高いユーザーは御社のサービスを利用していると思いますが、より一般のユーザーに広げていくためにはどのような戦略を考えていますか?
高橋:私は、楽しさが重要だと考えています。これまでの食品流通は安さや便利さに重点が置かれていました。消費者は食の楽しみである食材の旬を感じたり、生産者の人柄を含めた日常のストーリーを楽しんだりすることなく、ソーシャルゲームやその他食以外の娯楽に多くの時間を費やしている状態です。そのため私たちは、単純に合理化された食品流通から、楽しみのある「食」を訴求していくことが今後のポイントだと考えています。
今後の重要テーマ
ーー上場時のインタビューで黒字化を目指すという発言がありましたが、事業的にもファイナンス的にもプラスに持っていくために、今後重点的に取り組んでいくことを教えていただけますか?
高橋:大きく3つの観点で事業に取り組んでいきます。1つ目がポケットマルシェをはじめとする食品系の事業です。ポケットマルシェ以外にも、フルーツの定期便やチーズの定期便などのサブスクリプションサービスを展開していきます。
2つ目は旅行系のサービスで、一昨年からおやこ地方留学というプロジェクトを開始しました。全国にある8100人の生産者さんのアセットを、食品だけではなく旅行や体験によってマネタイズしていくことを目指しています。地域が広がるにつれて事業は拡大していくため、今後も開催地域を広げていきたいと考えています。
最後に3つ目は、自治体との連携です。日本には1700強の自治体がありますが、私たちの生産者がいるところは85%をカバーしています。しかし、これまでの取引がある自治体はまだ10%程度なので、ここは人員を強化し、営業活動を行って伸ばしていきたいと考えています。
ーーなるほど。コロナ禍に働き方改革が進んだことで、御社のビジネスが持続的に成長できる環境が整っていると思われますが、今後の持続的な成長について投資家やステークホルダーにどのように伝えていく予定ですか?
高橋:これは非常に重要なポイントだと思っています。NPOを始めた時から、会社がどこに向かうかを伝えることが重要だと感じていました。今後もIRを含め、多くのファンや株主を増やしていくことが重要だと思っており、そのために今後もこれまで続けてきた地方の証券会社の支店回りを継続し、若い営業マンに僕たちのビジョンを伝え続けようと思っております。今は珍しいと言われますが、投資家に向けて私たちの声を代弁してくれる証券マンにはより私たちのことを理解してほしいため、この活動は大事にしていきたいと思います。
雨風太陽からZUU onlineのユーザーへ⼀⾔
ーーZUU onlineのユーザーに向けて、雨風太陽社の注目すべき点についてお話いただけますか。
高橋:多くの方が地方出身もしくは、親戚が地方にルーツを持っていると思います。しかし、今現在地方の地域社会は存続が難しい状況にあります。私は、都会の豊かな消費社会を根底で支えているのは、地方で生産されるものだと思っています。それが東京の食の魅力にも繋がっているので、地方の地域社会が持続可能であることは非常に重要です。
私たちの会社が成長すれば、地域社会も持続可能になり、都市での豊かな消費社会も続けられると思います。そういった意味でも、ぜひ注目していただきたいです。
もう一つ大切なことは、経済性と社会性の両立です。世界的に見ても、短期的な利益追求が行き過ぎた結果、企業が社会の前提である安定した環境の前提が揺れていると感じています。
綺麗事と思われるかもしれませんが、誰かが先駆けなければならないと思っています。私たちが証明できれば、次に続く企業も出てくるでしょう。そういった企業が増えれば、日本社会も持続可能になるはずです。そこに共感していただける方には、ぜひ応援していただきたいと思います。
- 氏名
- 高橋 博之(たかはし ひろゆき)
- 社名
- 株式会社雨風太陽
- 役職
- 代表取締役