サステナビリティやESG(環境・社会・ガバナンス)の波に乗り、循環型経済(サーキュラーエコノミー)が拡大しています。本記事では、原材料の不足や環境汚染、サプライチェーンの脆弱性など、現代社会が直面している課題に対するソリューションとなる可能性を秘めた循環型経済の最新動向をレポートします。
循環型経済とは
循環型経済はリサイクルや再利用、修理などを介して可能な限り資源を循環させることにより、新たな価値を創造し、持続可能性を確立するための経済社会モデルです。循環型経済への移行の可能性が高いものして、電子・情報通信機器やバッテリー、車両、包装、プラスチック、繊維、食品などが挙げられます。
製品の寿命を伸ばせると市場に供給する製品の数を減らせるので、廃棄物を削減できます。その結果、温室効果ガス排出の軽減や生物多様性の保護が期待できるほか、雇用創出やイノベーション、市場競争力の強化としても有効である可能性があります。その一方で、需要と供給のバランスに起因する価格変動を抑制し、生活の質の向上や長期的な節約につながるといったメリットを生み出します。
循環型経済の促進を目的とする非営利団体エレン・マッカーサー財団(※)は循環型経済の促進でサプライチェーンや雇用が強化されることにより、欧州だけで年間1兆8,000億ユーロ(約307兆8,000億円)の経済成長につながると試算しています。
各国の循環型経済への取り組み
循環型経済は持続可能な社会の実現に欠かせないアプローチとして、過去10年間で世界的な広がりを見せています。ここでは、サステナビリティへの取り組みが発展している欧州の取り組みを見てみましょう。
欧州連合(EU)は2050年までに循環型経済へ移行することを目標に掲げ、「循環型経済行動計画」を打ち出しています。これは、エコデザイン規制(※1)や廃棄物の管理などを含むもので、実現に向けた様々な規制改革が進んでいます。
最近ではその取り組みの一環として、計画的陳腐化(※2)に関する新たな措置が採択されました。これにより、企業には保証期間切れの製品を修理すること、消費者には法廷保証期間内であれば修理を依頼することが義務付けられます。
その一方で、修理期間中の代替品、修理が不可能な場合は再生品(※3)を提供する案が検討されています。この他にも、廃棄物や生産プロセスから生じる危険な化学物質を削減することを目的とする残留性有機汚染物質(※4)に関する規制改革や、EU圏における炭素除去活動が正確に測定され、炭素が可能な限り長期間保存されることを保証するための炭素除去承認制度の導入などが進められています。
(※1)エネルギー効率の観点から大型家電製品などの仕様を設定する規制。
(※2)企業が買い替え需要を生み出すために、意図的にモデルチェンジなどを行うこと。
(※3)購入後に返品された製品を検査・再製造したもの。
(※4)難分解性・高蓄積性・長距離移動性・有害性を有する物質のこと。
循環型経済市場・投資動向
循環型経済市場は、投資家の注目が急速に高まっている領域でもあります。
ドイツ連邦環境省とコンサルティング会社ローランド・ベルガーの共同調査によると、世界の循環型経済市場は2020年に1,480億ユーロ(約25兆3,080億円)に達しました。一方、ドイツ銀行は2021年の調査結果に基づき、2030年までに市場規模が最大78%拡大すると予想しています。
イノベーションの原動力であるスタートアップへの投資も活発化しており、2022年には総額54億ドル(約8,478億円)を記録しました。
循環型経済関連の資金調達・投資の増加は産業や資産クラスを問わず広範囲に見られ、たとえば、2019~2021年の期間に公募ファンド(※)を通じて運用された純資産総額は28倍に、循環型経済に焦点を当てた社債・国債の年間発行額は5倍に増加しました。
(※)不特定多数の50人以上の投資家に募集をかける投資信託のこと。
大量生産・大量消費・大量廃棄からの転換が重要
「循環型経済への移行は社会に新たな機会と利益をもたらす」と期待が高まっている反面、「実際には資源の循環率が低下している」というデータもあり、高所得国を中心とする大量生産・大量消費・大量廃棄という消費パターンからの転換が求められています。
「より少ない資源でより多くのものを生み出す」というシンプルでサステイナブルな循環型経済は、今後、投資対象としてもさらなる成長が期待できる領域です。Wealth Roadでは、今後も循環型経済やサステナビリティ市場に関する動向をレポートします。
※為替レート:1ドル=157円、1ユーロ=171円
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。
(提供:Wealth Road)