現在、日本の不動産投資信託(J-REIT)は安定した収益を求める投資家にとって魅力的な選択肢となっています。しかし、J-REITが今後どうなっていくのか予測できず、投資を躊躇っている方も少なくないと思います。そこで本コラムでは、J-REITの仕組みや今後の展望について詳しく解説します。
※本記事の情報は2024年7月下旬時点のものです。
そもそもREITとは?J-REIT(日本のリート)の仕組み
REIT(Real Estate Investment Trust)は複数の投資家から集めた資金を基に不動産を購入・運用し、賃貸収入や売買益を投資家に分配する投資信託の一種です。アメリカで誕生したREITですが、日本ではJ-REIT(Japan REIT)と呼ばれ、東京証券取引所に上場しています。
投資家は不動産を保有している不動産投資法人に対して投資を行います。投資法人が不動産を運用し、そこで得られた収益(賃貸・売買による収益など)を配当金として受け取るという仕組みです。
REITの対象となる不動産の種類は、以下の通りです。
- マンション
- ホテル
- 商業施設
- オフィスビル
- 物流施設
- 医療・介護施設
マンションをはじめとする住居は都市部などエリアによって需要が安定しており、REITを通じてリスクを抑えて運用することができます。また、ホテルは観光地で安定した需要がありますが、景気や自然災害などの様々な要因によって客室稼働率や客室単価が変動するため注意が必要です。
商業施設は地域の商業活動を支え、施設の特性により収益性が異なります。オフィスビルは一等地で企業需要が見込め、定期的な収入が期待できます。その他、ECの成長による物流施設や高齢化による医療・介護施設も投資対象として注目されています。
J-REITの市場動向(2024年4月から6月)
大和アセットマネジメント株式会社の資料によると、2024年4月から6月にかけてのJ-REIT市場は下落傾向を示しました。東証REIT指数(配当込み)は3.0%の下落となり、同期間に1.7%上昇した日本株式(TOPIX配当込み)とは対照的な動きを見せました。
この下落の主な要因としては、長期金利の上昇や需給の悪化が挙げられます。5月中旬以降は日銀が国債買い入れを減額したことにより長期金利が1%を超えて上昇し、その影響を受けてJ-REITは下落しました。海外主要株式指数からJ-REITの銘柄が複数除外されたこと、さらに公募増資の発表などの需給の悪化も下落の一因となりました。
セクター別のパフォーマンスを見ると、全てのセクターで下落が見られましたが、その中で物流施設と住宅セクターは相対的に堅調な推移となりました。物流施設セクターは指数イベントへの期待から、住宅セクターは良好な決算内容と内部成長の見通しから、比較的良好なパフォーマンスを示しました。一方、オフィスセクターは軟調な推移となりました。
出典:大和アセットマネジメント株式会社「ダイワJ-REITオープン(毎月分配型)J-REIT市場2024年4-6月の振り返りと今後の見通し」
J-REITの今後の展望
同じく大和アセットマネジメント株式会社の資料によると、J-REITの業績は全体的に改善傾向にあり、特にオフィス、住宅、ホテルセクターでの改善が顕著です。住宅セクターでは、東京都への人口流入の加速や賃上げによる賃料負担力の上昇が背景となり、高稼働率と賃料増額の加速が見られます。特に、都心のシングルタイプの物件は回復が顕著です。ホテルセクターにおいては、インバウンド需要と国内のリベンジ消費が続いており、宿泊単価はコロナ前の水準を超過し、更なる上昇が期待できます。今後は料飲部門の回復も期待されています。
オフィスセクターでは、都心5区の空室率が2023年夏以降改善し続けており、平均賃料も底打ちしています。高稼働を背景に、今後は賃料を追求する方針が見られます。物流施設セクターについては、eコマースの進展により需要が拡大しているものの、大量供給により新規供給物件は空室率が上昇しています。しかし、REITが保有する既存の物流施設は高稼働が維持される見込みです。
今後のJ-REIT市場は、金融政策の不透明感や金利上昇懸念が上値を抑える要因となる可能性がありますが、長期金利の上昇が限定的であることを確認しつつ、緩やかな上昇が期待されています。
なお、上記の展望は2024年7月公表の資料を基にまとめたものです。市場は常に変化しているため、必ずご自身で最新情報をチェックするようにしてください。
出典:大和アセットマネジメント株式会社「ダイワJ-REITオープン(毎月分配型)J-REIT市場2024年4-6月の振り返りと今後の見通し」
J-REITを選ぶ際に重要な情報とは?
J-REITを選ぶ際には、さまざまな要素を考慮することが重要です。投資家は、各J-REITの特性や運用状況を詳細に分析し、自身の投資目的やリスク許容度に合った銘柄を選択する必要があります。以下に、J-REITを選ぶ際に特に重要な情報をいくつか解説します。
- 運用方針
- 投資対象の不動産タイプ
- 分配金利回り
- 財務状況
- スポンサー企業
運用方針
J-REIT各社は、投資する不動産の種類や重点を置く地域など、運用方針を定めて公表しています。たとえば、都心部のオフィスビルに特化するのか、それとも地方の商業施設にも投資するのかといった点が明確に示されます。運用方針を理解することで、そのJ-REITがどのような戦略で収益を上げようとしているのか把握できます。
投資対象の不動産タイプ
J-REITが投資する不動産のタイプは、そのリスクと収益性に大きく影響します。オフィスは景気変動の影響を受けやすいものの、大型物件で安定した収入が期待できます。一方、住宅は景気変動の影響が比較的小さく、安定した需要があります。このように投資対象とする不動産タイプを理解することで、J-REITの特性やリスク・リターンの傾向を把握することができます。
分配金利回り
分配金利回りもJ-REITを選ぶ際の重要な指標となります。しかし、単に高い利回りを追求するだけでなく、その分配金の安定性や持続可能性も考慮する必要があります。たとえば、J-REIT各社が公表している過去数年間の分配金の推移を確認することが重要です。安定的に分配金を維持しているJ-REITは、将来的にも安定した分配金を期待できる可能性が高いです。
財務状況
J-REITの財務状況は、安定性と成長性を評価する上で欠かせません。特に注目すべきは、LTV(Loan to Value)、借入金の平均金利、借入金の返済期限の分散状況などです。これらの指標を知ることで、J-REITの財務の健全性や金利上昇時のリスク耐性などを判断することができます。
LTV(Loan to Value)
J-REITが保有する不動産の評価額に対する借入金の割合を示す指標です。LTVが低いほど財務的な安全性が高いと言えます。一般的に40%以下が健全とされますが、市場環境や個別のJ-REITの戦略によって適切な水準は異なります。
スポンサー企業
J-REITの安定性と成長性を判断するうえで、スポンサー企業がいるかどうかは判断材料の一つになります。スポンサー企業からのサポートが強力であれば、J-REITの競争力が高まり、安定した成長をもたらすことが考えられます。業界での地位や実績、J-REITへのサポート内容を事前に確認しましょう。
REITと実物不動産投資はどちらが良いのか?
ここではREITと実物不動産投資はどちらが良いのかを判断するため、評価基準を複数設け、〇△×で評価しました。この表をもとに、ご自身の状況や目的に合わせて、どちらがより適した投資方法なのかご判断ください。
評価基準 | REIT | 実物不動産投資 |
---|---|---|
リターン | △安定はしているがハイリターンは見込めない | △物件の価値増大や高い賃貸収入を目指せるが、必ずしも大きなリターンがあるわけではない |
利回り | 〇安定している | △空室発生等で変動する |
投資額 | 〇少額から可能 | ×多額の資金が必要 |
レバレッジ | △可能だが制限あり(保証金の3.3倍まで) | 〇可能であり、高いレバレッジ効果が期待できる |
管理の手間 | 〇なし | △管理会社に委託できるが一定の手間は生じる場合がある |
税制面 | ×配当控除がない | 〇控除が適用される |
なお、〇△×の基準は以下の通りであり、本コラム独自に評価したものです。
〇:その評価基準において明確な利点があり、投資家にとって有利な特徴を持っている場合。
△:その評価基準において利点と欠点が混在している、あるいは状況によって変わる可能性がある場合。
×:その評価基準において明確な欠点があり、投資家にとって不利な特徴を持っている場合。
続いて、それぞれの評価基準に対してのREITと実物不動産の詳しい解説をします。
リターンについて
REITのリターンは安定していますが、ハイリターンを目指すのは難しいです。一方、実物不動産投資は物件の価値上昇や高額な賃貸収入を通じて、REITよりも高いリターンを目指すことができます。REITは安定性を重視する投資家に向いていますが、それよりも大きな利益を求める投資家には実物不動産投資がより適しているでしょう。ただし、実物不動産投資も基本的にはミドルリスク・ミドルリターンであり、必ずしも大きなリターンを得られるとは限りません。
利回りについて
REITの利回りは比較的安定しており、予測しやすいのが特長です。一方、実物不動産投資の利回りは、空室の発生や予期せぬ設備故障の発生などによって変動する可能性があります。安定した収入を求める投資家にはREITが、変動リスクを取りつつ一定の利回りを狙う投資家には実物不動産投資が向いています。
投資額について
REITは少額から投資可能で、初心者や小規模投資家にも手が届きやすいです。一方、実物不動産投資を行うにはまとまった資金が必要なので、資金力のある投資家向けです。投資資金が限られている場合はREITが、ローンを利用するなどしてまとまった資金を確保できる場合は実物不動産投資が選択肢となるでしょう。
レバレッジについて
REITでもレバレッジは可能ですが、保証金の3.3倍までという制限があります。実物不動産投資では、より高いレバレッジ効果が期待でき、資金効率を大幅に高められる可能性があります。リスクを抑えたい投資家にはREITが、一定のリターンを求めてリスクを取れる投資家には実物不動産投資が適しています。
管理の手間について
REITは投資家自身が物件管理を行う必要がなく、手間がかかりません。実物不動産投資は物件の運用・維持管理を投資家自身が行う必要があり、時間と労力を要します。管理会社に委託することが一般的ですが、管理委託費用が発生します。不動産管理の知識や経験がない、または時間的余裕がない投資家にはREITが、不動産管理に積極的に関わりたい投資家には実物不動産投資が向いているでしょう。
税制面について
REITは配当控除が適用されないため、税制面でのメリットは限定的です。一方、実物不動産投資では、賃料収入から減価償却費や支払利息などの運用経費を控除できるため、節税効果が期待できます。税制面での優遇を重視する投資家には実物不動産投資が、税制にこだわらず運用の簡便性を求める投資家にはREITが適していると言えるでしょう。
(提供:manabu不動産投資 )
- 【オススメ記事】
- 「FPの私ならここを見る」 プロが語る不動産投資とは?
- 不動産投資の種類はいくつある?代表的な投資方法を紹介
- 少額から始められる不動産投資4選
- 不動産投資は30代から始めるべき?メリットや注意点について解説
- 初めて不動産投資をする際に気をつけることとは?
- コラムに関する注意事項 -
本コラムは一般的な情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘することを目的とするものではありません。
当社が信頼できると判断した情報源から入手した情報に基づきますが、その正確性や確実性を保証するものではありません。
外部執筆者の方に本コラムを執筆いただいていますが、その内容は執筆者本人の見解等に基づくものであり、当社の見解等を示すものではありません。
本コラムの記載内容は、予告なしに変更されることがあります。