藤井株式会社
(画像=藤井株式会社)
藤井 幹晴(ふじい みきはる)――代表取締役
1958年奈良県橿原市に生まれる。 同志社大学卒業後より家業の藤井株式会社に入社 1982年にドイツのカールマイヤー社で半年の研修を受ける。 帰国後、商品開発を担当し営業活動も兼務する。 業態を委託加工から最終製品にして納めるOEMの製造に変化させ、その後1999年代表取締役に就任。
1921年に奈良県橿原市にて、タオル製造業として創業。現在は経編を主体に、石川県中能登町にも工場をかまえ、寝具や各種繊維製品の開発・製造を行う。原料の糸作りから、染色、加工、縫製まで自社開発に注力し、特許や実用新案を多数取得し、大手メーカーのヒット商品を手掛けています。
また、最近では吸水力と使いやすさに特化した高機能なタオルを開発し販売をしております。

目次

  1. 創業からこれまでの事業変遷と貴社の強み
  2. 承継の経緯と当時の心意気
  3. これまでぶつかってきた課題や変革秘話
  4. 今後の事業展開や新規投資領域
  5. メディアユーザーへ一言

創業からこれまでの事業変遷と貴社の強み

ーー創業からの歴史についてお聞かせください。

藤井株式会社 代表取締役社長・藤井 幹晴氏(以下、社名・氏名略) 藤井株式会社は、私の祖父が1921年に創業しました。当初は奈良でタオルの製造を行い、その後織物業へと事業を広げていきました。当時は委託加工という形で、依頼を受けて生地を作るというのが中心の業態でした。

ーー委託加工から、現在の形に至るまでどのように変わっていったのでしょうか?

藤井 当時は、生地を作ってそのままお客様に渡すという形が主流でしたが、私はこれではいずれ限界が来ると感じていました。そのため、自分たちで二次加工を行い、製品化して販売する業態に少しずつ移行していきました。さらに、原料作りから製品化まで一貫して手掛ける体制を整えることで、新しい価値を提供できるようになりました。

ーーそのような転換を進める中で、どのような課題やきっかけがあったのでしょうか?

藤井 私が会社に入った当時は、国内市場も順調で、受注を受けて製造するだけでも成り立っていました。ただ、それだけでは将来が危ういと感じていました。自社で生み出す価値が見えづらく、差別化も難しかったです。特に中国などの海外製品が台頭してきた時期には、「このままでは市場を失ってしまう」という危機感がありました。そうした背景から、商品や製造プロセスに付加価値をつける必要性を痛感しましたね。

ーー具体的にはどのような取り組みをされたのですか?

藤井 まず、工場や工場との連携を強化しました。たとえば、私たちが作った生地を別の工場でさらに加工し、新しい表情や質感を加える取り組みです。また、地域に縛られるのではなく、全国各地の優れた加工技術を持つ企業と協力することで、他にはない独自の商品を作り上げてきました。

ーー地域に縛られない取り組みというのは、独自のビジネスモデルですね。

藤井 従来の「産地モデル」とは違い、私たちは自由にパートナーを選ぶことで、新しい可能性を探りました。加工が得意な企業と連携し、素材や製造工程に自社の強みを生かしつつ、全国の技術を掛け合わせて商品化しています。この方法なら、より多くの視点や知識を取り入れながら、他社との差別化が図れると考えています。

承継の経緯と当時の心意気

—— 事業を承継される際のご苦労についてお伺いしたいのですが、どのようなことがありましたか?

藤井 我々のような同族企業では、身内との調整がありました。しかし、若い頃は怖いもの知らずでどんどん前に進めましたね。大切なのは、めげずに新しいことを考え続けることですね。

—— 後継者についてはどうお考えですか?

藤井 まだ何も決まっていません。まずは会社をもっと魅力的にしたいと考えています。この5年から10年で、自分たちの活動を外にアピールしようとしています。昔は特許や知財について考えなかったのですが、今はそれが自分たちの価値になると考えて、毎年いくつかの特許を取得しています。これは、自分たちの存在を示すためのものです。

—— それは興味深いですね。具体的にはどのような新しいものを作りたいと考えているのですか?

藤井 たとえば、タオルを考えてみましょう。タオルは日常的に使う商品で、水を処理することが第一義です。しかし、今の市場ではデザインやブランドが重視されています。私たちは、タオルの本質的な機能に立ち返り、水を早く吸収し、ベタつかず、使いやすいものを目指しています。そのために、素材や加工方法を自分たちで考え、サンプルを作成し、データを集めて改善しています。

—— タオルの市場は競争が激しいですが、機能に特化することで新しい市場を開拓しようとしているのですね。

藤井 タオルのような繊維製品は競争が激しいですが、本当に使いやすいものを作ることで、小さいながらもブルーオーシャンを見つけられると思っています。自分たちで開発した価値を提供し、モニターの意見を聞きながら販売を進めています。

これまでぶつかってきた課題や変革秘話

—— これまでの経験の中で特に印象に残っている課題についてお聞かせいただけますか。

藤井 最近のことですが、接触冷感という製品が話題になっていますね。私たちの会社が、その製品を一定の量で量産し販売することを始めたんです。最初に手がけたのは私たちでした。

—— それは興味深いですね。具体的にはどのような課題があったのでしょうか。

藤井 私たちのスタンスとしては、触って冷たいだけでなく、蒸れ感を抑えることなども重視していました。しかし、流通業者は冷たく感じることだけを重視するようになってしまい、Q-maxという冷たさを表す指数が高ければ良いという話になってしまいました。私たちが本当に提供したかったのは、最初はひんやりしているけれども、長く使っても快適さを保てる商品でした。しかし、市場はただ冷たいことを求める方向に流れてしまいました。

—— それは大変な状況ですね。どう対処されたのですか。

藤井 私たちはその流れに乗ることをやめました。安易に冷たさだけで売れると思った部分もありましたが、それだけでは本質を見失ってしまいます。私たちは消費者にとって本当に良いものを提供し続けることが重要だと考え、開発からドロップアウトしました。

—— 消費者にとっての価値を重視されているのですね。

藤井 そうです。私たちが開発している商品は、使ってみて何が良いのかを考え、新しい価値を伝えることが重要です。それにより、関わる人たちが安定した商売を続けていけると考えています。消費者にとっても安さは魅力かもしれませんが、私たちは実用品を作っているので、長く使えて満足できるものを提供したいと思っています。

今後の事業展開や新規投資領域

—— 今後の事業展開や新規の投資領域について、お聞かせいただけますか。

藤井 そうですね、今後の5年、10年を見据えて、もっと新しい視点から新しい市場を作りたいというのが一つの目標です。それと、今の日本だけで売っていていいのかという疑問もあります。そこで、海外にもリサーチをかけ、我々が持っている技術や商品開発を評価していただける場所を探していこうと考えています。

—— 具体的にどのようなところに投資したいとお考えですか。

藤井 設備よりも知恵に投資したいですね。若い頃に尊敬する方が「会社の力は売上で、知恵が利益だ」とおっしゃっていたことが印象に残っています。限られた市場で製品を展開しているので、売上を大きく伸ばすよりも知恵を蓄えて収益を上げ、働いている社員や関わっている人々に還元したいと思っています。

メディアユーザーへ一言

—— 100年企業の社長として、メディアユーザーの皆さんに何か伝えたいメッセージはありますか?

藤井 会社を長く続けるためには、どれだけ会社の尖ったところを作れるかが重要だと思います。市場に対してぶっちぎりで強い、アピールできる部分をみんなで作ることが大切です。

—— 競争の中で生き残るためには、誰も考えつかないようなアイデアを育てることが必要ですね。

藤井 そうですね。それと、視点を広く持つことも大事です。例えば、10円玉をみんな丸いと言いますが、横から見たら一になる。見る角度によって物の見え方は変わるので、いろんな角度から物を見れるようにならないといけません。

—— 柔軟な視点を持つことが重要なんですね。非常に貴重なお話ですね。ありがとうございました。

氏名
藤井 幹晴(ふじい みきはる)
社名
藤井株式会社
役職
代表取締役

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