本記事は、山岡俊樹氏の著書『絞り込み思考』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
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絞り込み思考とは何か
突然ですが、質問です。
皆さんは普段カフェを選ぶ際、どのように選んでいますでしょうか。
値段、場所、滞在時間、コーヒーの味などを考慮し、何店かの候補を絞り込んで、最終決定するのではないでしょうか。
では、企画をしたり旅行を計画したりする場合はいかがでしょうか。
数ある情報を照らし合わせながら、気になる情報同士をつなげたり、ある情報を発展させたりしたあとで、最終的にコストやさまざまなことを考えて、案を絞り込んでいくのではないでしょうか。
私たちは、日頃から意思決定までのプロセスにおいて、意識的にしろ、無意識的にしろ、数多くの絞り込みを行っています。
カフェの例で考えてみましょう。
カフェを選ぶ際、解決案(どのカフェに行くか)は無限にあります。
例えば、次のような解決案です。
①コーヒー1杯の値段は400円、場所は現在地から徒歩5分、人は少ないが席が狭い店
②コーヒー1杯の値段は600円、場所は現在地から徒歩10分、いつも人が多い店
③コーヒー1杯の値段は800円、場所は現在地から徒歩5分、人は多いが、席も多く広々としている店
安いコーヒーがいいという目的しかない場合は、①を選ぶのが正解でしょう。
しかし実際には、価格以外にも、目的がある場合が多いです。
例えば、
- カフェには1時間後の打ち合わせまで滞在する
- 仕事をしたいので、ゆっくりできる場所がいい
- 現在地からなるべく移動したくない
などです。
これらを満たすカフェと考えたとき、おのずと答えが導き出されるでしょう。
「そんなの当たり前だ」という声が聞こえてきそうですが、この従来行われている試行錯誤を伴う効率の悪い絞り込みの作業を、より効率的にしたのが「絞り込み思考」です。
この方法さえ身につければ、どんなテーマや問題も、目的に合ったぴったりの答えを導き出すことができます。
色の変化を環状にした「色相環」の誕生も、絞り込み思考とつながります。
赤や青などの有彩色は、組み合わせ(混色)でどんな色でもつくることができますが、無限にある色で組み合わせを行うのは大変です。
そこで、色相(赤や青などの色合い)を環状に配置した20色(または10色)の色相環ができました。
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これは言い方を変えれば、無限にある有彩色を20色の代表色に絞り込んだのです。
新色を検討するには、この20色の色相の明度や彩度、色の組み合わせを変えたりしてみればいいのです。
非常に効率的で、無駄のない方法です。
このように絞り込み思考で考えると、さまざまな作業や思考が無駄なく、ぐんと効率的になります。
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絞り込みは制約に沿って行う
私たちは日頃、意識的に、または無意識的に、さまざまな形で絞り込みを行っているとお話ししました。
では、無限にある情報の中から、どのように絞り込みを行うのでしょうか。
その指針となるのが、「制約」です。
先ほど、カフェを選ぶ際には、次のようなことを考えて絞り込みを行い、解決案を導き出しました。
- カフェには1時間後の打ち合わせまで滞在する
- 仕事をしたいので、ゆっくりできる場所がいい
- 現在地からなるべく移動したくない
これらは、カフェを選ぶ際の「制約」です。
このように、絞り込み思考では、制約に沿って絞り込みを行っていきます。
制約にはいくつかの種類がありますが、そのうちの最もシンプルなものが、目的です。
別の例で考えてみましょう。
東京から大阪に出張する場合、どのような交通手段が考えられるでしょうか。
①自動車
②新幹線
③鈍行電車
④飛行機
⑤夜行バス
⑥船
⑦徒歩や自転車(現実的ではありませんが)
など、さまざまな方法が挙げられます。
このような意思決定の際、私たちは置かれている状況(使える時間、費用、体力など)から「目的」を決め、最終判断をします。
「現実的な方法でできるだけ安く行きたい」というのが目的なら、夜行バスで行き、翌朝到着することも考えるでしょう。疲れますが安い費用で行けるので魅力的です。
当日大切な会議があるので、「大阪に、無難に、確実に着くようにする」というのが目的ならば、新幹線の選択が最終案として絞り込まれるかもしれません。
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住居を購入するときも、目的という制約に沿って、場所や住居形態などが絞り込まれます。
職場が都心にあり、「通勤時間を短くしたい」という目的の場合は、狭くても職場に近いマンションにするでしょうし、「田舎で生活したい」というのが目的ならば、通勤時間はかかりますが、郊外の一戸建てを選ぶと思います。
このように、目的という制約から答えが定まるのです。
自動車を購入する、家を建てる、食事をする、就寝する、会社に就職する、遊ぶなど、私たちのさまざまな行動には、すべて目的があります。
目的は、言い換えれば、「○○をしたいなどの期待・願望」とも言えるでしょう。
制約を具現化したものは、街の中にもたくさんあります。
「公園内で自転車を走らせてはいけません」「ゴミはこのゴミ箱に捨てましょう」などの注意書きも、制約の1つと言えるでしょう。
これらの制約により、多くの人はその公園で自転車に乗りませんし、ゴミをポイ捨てしないという選択をします。
また、ある特定の座り方しかできないイスなども制約によるものです。
その形状により、無意識にですが、私たちは「ある特定の座り方をする」という制約に沿って、そのイスに座るという選択をします。
制約を考えるのは、目的の実現のためです。
公園内で自転車を走らせてはいけないという制約は、安全を確保するという目的のためですし、ある特定の座り方しかできないイスは、ホームが狭い駅にイスを設置するという目的に沿ってつくられたものです。
このように制約は、絞り込みを行ううえで必要不可欠なものなのです。
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神奈川県横浜市出身。1971年、千葉大学工学部工業意匠学科卒。同年、東京芝浦電気(現東芝)に入社。1991年、千葉大学自然科学研究科博士課程修了。1995年以降、東芝デザインセンター担当部長他、東芝情報・通信システム研究所ヒューマンインタフェース技術研究センター研究主幹を兼務。1998年、和歌山大学システム工学部デザイン情報学科教授、2014年、京都女子大学家政学部生活造形学科教授。デザインと応用人間工学を中核にしたデザイン人間工学を提唱し、新しいモノ・コト・システムづくりを提案。
著書に、『Human Factors and Ergonomics in Consumer Product Design:Methods and Techniques』(分担執筆/CRC Press, USA)、『デザイン人間工学』(共立出版)、『デザイン人間工学の基本』(編著/武蔵野美術大学出版局)、『デザイン3.0の教科書』(海文堂出版)、『サービスデザインでビジネスを作る』(技報堂出版)、『サービスデザインの発想法』(編著/オーム社)など多数。 株式会社オージス総研のサイトにて行動観察コラムを執筆中
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