本記事は、山岡俊樹氏の著書『絞り込み思考』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

制約の手がかりとなる体験と知識
絞り込み思考は誰でもできる思考法ですが、絶対に必要なものがあります。
それは、制約の手がかりとなる体験や知識です。
昔、テレビで腕利きのデパートのバイヤーを紹介していました。
マフラーの特別展を開催するために、各メーカーが製品を提案するのですが、このバイヤーは瞬時に良否を見極め、これはOK、これはダメと判断していました。そして実際の展示会でこのバイヤーが選択したマフラーは即完売になったのです。
長年の経験とそこから得た知識から、適切な判断ができたのでしょう。
また、以前、大手メーカーの製品デザイナーと話をしたことがあります。
あるインターフェース(情報技術)の問題点の解決のために4人でディスカッションし、検討をしたそうなのですが、4時間かかって、やっと解決することができたと聞きました。
しかし、人間工学の知識があれば、1人で5分もあれば済む内容でした。
このように、知識があるということは、アイデアの発想や思考に役立ちます。
知識などあまりなくても、何人かでブレインストーミングなどを行えば、いいアイデアが生まれるなどとよく言われますが、果たして本当にそうでしょうか?
同じ職場の同僚や身近な人であれば、価値観やモノの見方も似通っている場合が多いので、同じような意見しか出てきません。
もちろん、考えるときに他人に相談やヒアリングなどをしてもいいですが、最終的には自分で徹底的に考えなくてはいけません。
その際に必要となるのが、体験と知識なのです。
とはいえ、この世のすべてを体験したり、すべての知識を身につけたりするのは難しいでしょう。
体験と知識とは何か
新しいアイデアは、体験と知識の組み合わせから、あるいは体験、知識のそれぞれから生まれます。それらの結びつきや展開を考えるのが思考です。
体験は記憶され、知識となりますが、体験・知識という枠組みでまとめています。
ここでは、体験・知識を、次の5つの領域に分類しました。
①社会・経済・文化
②時間
③空間
④人間
⑤製品・システム
この5領域の体験・知識の枠組みは、先に紹介した色相環に相当します。
無限にある色を色相環という形でまとめたように、無限にある体験・知識を5つの領域に分類してまとめたものです。

これを、 「体験・知識環」と命名しました。
ただ、色彩と異なり、私たちの世界を覆っている情報は時間とともに変わるので、この体験・知識環は、常にチェックし更新する必要があります。
時代の流れとともに新しい用語や考え方が出てくるので、そのときはこの体験・知識環に追加して自分のデータ集(データベース)をつくるといいでしょう。
また、使われなくなった用語は削除してもかまいません。難しくはないので、ぜひ作成してみてください。皆さんにとって、世界に1つしかない体験・知識環になるでしょう。


神奈川県横浜市出身。1971年、千葉大学工学部工業意匠学科卒。同年、東京芝浦電気(現東芝)に入社。1991年、千葉大学自然科学研究科博士課程修了。1995年以降、東芝デザインセンター担当部長他、東芝情報・通信システム研究所ヒューマンインタフェース技術研究センター研究主幹を兼務。1998年、和歌山大学システム工学部デザイン情報学科教授、2014年、京都女子大学家政学部生活造形学科教授。デザインと応用人間工学を中核にしたデザイン人間工学を提唱し、新しいモノ・コト・システムづくりを提案。
著書に、『Human Factors and Ergonomics in Consumer Product Design:Methods and Techniques』(分担執筆/CRC Press, USA)、『デザイン人間工学』(共立出版)、『デザイン人間工学の基本』(編著/武蔵野美術大学出版局)、『デザイン3.0の教科書』(海文堂出版)、『サービスデザインでビジネスを作る』(技報堂出版)、『サービスデザインの発想法』(編著/オーム社)など多数。 株式会社オージス総研のサイトにて行動観察コラムを執筆中
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