新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業。政府からユニコーン100社創出が宣言されたこの状況下において、「現在の成長企業・ベンチャー企業の生き様」は、最大の関心事項と言える。ジャンルを問わず、一社のトップである「社長」は何を思い、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。その経営戦略について、これまでの変遷を踏まえ、様々な角度からメスを入れる。

これまでの事業変遷
—— これまでの事業の変遷についてお伺いしたいと思います。ライズアースを創業し、売却された後、現在の会社を経営されているということで、かなり違う事業を展開されていますね。その辺りについて教えていただけますか?
株式会社VOLTMIND 代表取締役社長・北森 聖士氏(以下、社名・氏名略) まずはライズアースについて少し触れておきますね。私は大学三年生の時にライズアースを設立しました。創業して2年ほどで株式会社DONUTSに売却しましたが、基本的にはインフルエンサー事業、特にライブ配信に注力していました。TikTokやセレッソ大阪のセレッソガールなど、エンタメ業界に約6年間携わりました。その後、1年ほど海外で自由に生活を送りつつ、『バチェロレッテ・ジャパン』シーズン3に参加させていただくこともありました。



—— そこから現在の事業に至るまでの経緯を教えてください。
北森 退任して1ヶ月後に、現在の共同創業者である山本と出会ったことが転機となりました。彼の目指す世界観に共感したんです。彼は高校生の時から「ドラえもんを作る」という夢を追いかけてきた人物で、東京電機大学で半導体を研究していました。彼は日本で初めてマイニング工場を作り、AIの未来を見据えて全てをAI用のインフラに転換しました。
—— 山本さんとの出会いが大きな影響を与えたのですね。AIの開発にどのように関わってきたのですか?
北森 山本がエンジニアと共にAIの研究を進めている中で、最初は私もボランティアとして手伝い始めました。そして、彼らの技術を活用して会社を設立することになり、それが現在のVOLTMINDです。
—— 具体的にはどのような事業を展開しているのでしょうか?
北森 法人設立のきっかけは、SAO税理士法人と協力して税務に特化したAIを開発することでした。現在は、生成AIを活用して多くの企業の受託開発を行っています。また、薬剤師に特化したAIも提供しており、現在1300名ほどの薬剤師さんに活用していただいています。
—— 税務に特化したAIの開発について、どのような困難がありましたか?
北森 税理士法人さんからの情報をもとにAIの出力精度を高める(ハルシネーションを無くす)ことに苦労しました。
—— 生成AIにおける正確性の確保が難しいと聞きますが、その点についてはどうですか?
北森 そうですね。ハルシネーションを減らすことが重要です。現在は、データを用いずに精度を高めるAIを開発中です。具体的には、データ抽出の精度を高めるAIを目指しています。
飛躍的な成長を遂げた秘訣
—— 飛躍的な成長を遂げた秘訣について教えていただけますか。
北森 実は飛躍的な成長を遂げているわけではなく、まだ課題が多いのです。しかし私たちには、他社に負けない独自の強みがあります。強みとしてまず挙げられるのが、サーバーからソフトウェアまで、一気通貫型のシステム開発ができるエンジニア集団が揃っていることです。
自社での一例をご紹介すると『VOLTMIND Chat』というシステムです。VOLTMIND Chatは、自社のサーバーで稼働しているシステムを使いソフトウェアの開発まで行いました。また大手企業様のシステム開発にあたっては、外部への情報漏洩を防ぐ仕組みの構築が必要であるため、エンタープライズ向けAPIを引き、AIサーバーで言語モデルが稼働するようにセキュリティを高めて構築しています。
すべてオンプレミスローカルサーバー上で稼働させており、外部のWebサービスを利用せずに一貫してシステム作成をしています。

また、AIサーバーを自社で保有し開発を加速させていることも大きな強みです。具体的には、生成AIエンジニアのコミュニティと連携し、弊社からGPUを無償提供して開催するハッカソンや、開発時のGPU無償提供などを行っております。
気付けば、連携しているコミュニティ参加者の人数は1万人にもなっており、現在、生成AIを活用したエンジニアを育てるコミュニティの自社運営も開始しています。彼らは知識や技術を持っているのに、動かせるサーバーがないという現状があります。私たちがサーバーを提供することで、彼らは自分たちの技術の検証ができ、私たちは技術を開発してもらうことができます。これにより、コミュニティは大きく広がりました。
—— それは素晴らしいですね。人材紹介の事業も考えていると伺いましたが。
北森 生成エンジニアに特化した人材紹介事業を進めています。エンジニアの能力をAIで判定し、ランク付けを行います。そのランクに応じて転職する際の年収を変えるという仕組みを構築中です。これにより、エンジニアのスキルを見える化し、企業に最適な人材を紹介できるようにします。
AIエージェントによる判定はまだ開発中ですが、可能性は高いと考えています。2030年にはAI人材が12万人不足すると言われていますが、私たちは既に1万人のコミュニティと連携しており、AIを活用できるエンジニアの育成プログラムのリリースも準備しています。これは大きな競合優位性です。今後は、クラウドワークスのようにエンジニアを発注できるプラットフォームも構築していこうと考えています。
経営判断をする上で重要視している点
—— 経営判断をされる際に重要視している点についてお伺いできますでしょうか。
北森 経営判断は非常に難しいテーマですね。これについては、フェーズによって異なると考えています。今の私たちのステージでは、ハードワークが必要だと感じています。私たちのベンチャーでは、できるまで働くという文化があります。これを公にすることが良いのかどうか悩むこともありますが。
—— 今のステージだからこそ、そのような姿勢が求められるのですね。
北森 初めは、筋を通すことが最も重要だと考えていました。例えば、薬剤師さんと一緒に作った会社で、他からの発注が競合になる場合、一言入れて収益構造を一緒に考えることが重要です。社内外問わず、人との付き合いを大事にすることが重要です。
—— 筋を通すことは、どの業界においても重要ですね。他に大事にされていることはありますか。
北森 私の人生理念として、縁ある人を幸せにするために自分の可能性を追求することを掲げています。自分のためにやるのは当たり前ですが、自分だけが得をしてスタッフが得しないのは最悪だと考えています。この理念に沿って、自分の成長や会社の成長を考えて判断しています。
—— その理念を持つに至ったきっかけは何ですか。
北森 21歳の時に会社を作り、短期間で大きな利益を得た経験があります。当時はお金持ちになりたいと思っていましたが、次第に何を目的にすればいいのか分からなくなりました。その時、いろんな研修や人の話を通じて、自分の目標や会社の理念をしっかりと決めることが重要だと気付きました。特に人数が少ない会社では、代表の目的を見つけ、それに基づいて会社を反映させることが一番だと思っております。

今後の事業展開や投資領域
—— 今後の事業展開や投資領域についてお伺いしたいと思います。
北森 すでに少しお話しましたが、今後の事業展開としては、企業様向けの受託開発をさらに広めること、また、AIエージェントを活用した『生成AIエンジニアの人材紹介プラットフォーム』の展開を考えています。特に優秀なエンジニアたちと協力し、サーバーを無料で提供して技術を作ってもらい、それを利用するという形で進めています。
—— 上場も考えているとのことですが、目指す中での大きなファクターは何でしょうか?
北森 上場を目指す上で、人材紹介が大きな要素になると考えています。そのため、サーバーの投資は今後も重要です。すでに自社のサーバーをレンタルしてほしいという企業もあり、大手企業様にも貸し出しを始めています。サーバーの増築も必要だと考えています。
—— サーバー事業の強化について、具体的にはどのように進めていくおつもりですか?
北森 サーバー事業は、他の企業と提携し、共同で強化していくのが正しいと思っています。説明がわかりにくかったかもしれませんが、サーバーをオフバランスで流動化することも考えています。
—— 御社のキャッシュフローにも影響がありそうですね。そういった企業との提携で、どのようなシナジーを期待していますか?
北森 事業シナジーを生むことができる企業と組むことで、より大きな成果を期待しています。シードVCを一社入れることも考えています。
—— 北森さん個人として、投資してみたい企業のイメージはありますか?
北森 昔はエンジェル投資を考えたこともありましたが、今は自分の会社に全力投球して、投資回収後に考えていきたいと思っています。
—— 今は自分のビジネスに全力を注ぐのが大切ですね。
北森 共同創業者とともに、まずは会社に投資した資金を回収し、次のステップを考えています。彼も過去に会社を売却した経験がありますので、一緒にやっていくのは心強いです。
メディアユーザーへ一言
—— 最後に、メディアユーザーに向けて一言いただけますか?
北森 私たちは、生成AIエンジニアを抱えて開発からサーバー運営まで一貫して行う、非常にめずらしい会社です。自社のサーバーを使用することで、AWSやGCP、Azureといった他社サービスを利用するよりも圧倒的にコストを抑えて開発を行っています。もし、生成AIの開発にご興味がある方がいらっしゃいましたら、ぜひご相談ください。お待ちしております。
- 氏名
- 北森 聖士(きたもり さとし)
- 社名
- 株式会社VOLTMIND
- 役職
- 代表取締役