新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業。政府からユニコーン100社創出が宣言されたこの状況下において、「現在の成長企業・ベンチャー企業の生き様」は、最大の関心事項と言える。ジャンルを問わず、一社のトップである「社長」は何を思い、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。その経営戦略について、これまでの変遷を踏まえ、様々な角度からメスを入れる。
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これまでの事業変遷について
——これまでの事業変遷についてお聞かせください。創業から現在までの経緯やストーリーについて、ぜひお話しいただければと思います。
杉原 設立は1983年2月26日で、本社は新大阪にあります。弊社はICTを通じて課題解決をリードすることを目指し、DX推進を一気通貫で支援できる点を強みとしていて、主にICT全般、特にCADとBIM、クラウドサービスに力を入れております。
——事業の特徴についても詳しく教えてください。
杉原 現在、仙台、福島、東京、名古屋、大阪、福岡に拠点を設けていて、独自のサポートセンターを構え、CADやBIMを販売した際にはメーカーに頼らず、自社でサポートを行えることが事業の特徴です。お客様にはソフトの導入だけでなく、サーバーやパソコンの設置、工場間のインフラ整備など多岐にわたる提案を行っています。窓口を一本化し、ソフトだけでなくインフラやハードもサポートできる体制が評価されています。
—— 具体的な事業内容についても教えていただけますか?
杉原 基本的にはソリューション営業を行っています。特にエンジニアリングソリューションとして、二次元CADから三次元CADを製造業と建設業に提供しています。ITソリューションではICT全般をサポートし、ヘルプデスクや運用保守も行っています。また、産業FAソリューションとして、産業機械装置の導入を行っており、これは中国にも進出しています。
売上も過去3年間、右肩上がりで推移していて、23年度の売上は26億9400万円です。営業利益も含めて、順調に成長しています。
—— 中国への進出について少し詳しく教えていただけますか?
杉原 工作機械や産業機械装置の大型案件に取り組んでいます。デジタルマーケティングにも力を入れ、セールスプロモーションを行う部隊も設けています。サポートセンターは特に高評価をいただいており、メーカーに頼らず窓口を一本化できる点が好評です。
—— 昨年、創業40周年を迎えられたということですが、どのような歩みをされてきたのでしょうか。
杉原 創業者は私の父です。もともとアンドール社の創業社長が、前職で父の部下で、彼がCADを作って販売しようという相談を父に持ちかけました。そして、日本製のアンドール社のCADを販売するために立ち上げた営業系の会社からスタートしました。当初は外国のCADが参入する前で、比較的成長しましたが、外国系のCADが参入することでシェアを奪われていきました。そのため、CADだけでなく、パソコンやサーバー、ネットワークといった部分もフォローし、お客様との長期的な関係を築く方針を取りました。
現在は、CADを動かすには高性能なパソコンが必要になるため、パソコンやインフラ系のサービスも提供できるように力を入れています。
—— サポートセンターについても伺いたいのですが、独自の優位性があるとのことですが、どのような経緯で力を入れられたのでしょうか。
杉原 サポートセンターでは、特殊なスキルを持った人材が必要です。CADは現在、低迷期にありますが、かつては非常に売れており、現在は必要なところには入り切ったという感じがします。私たちは、アンドール社のCADだけではなく他社製品のCADもサポートできる体制を整えました。特殊なスキルを持った人材の確保は難しいですが、これが他の企業との差別化につながり、契約数も飛躍的に伸びました。
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飛躍的な成長を遂げた秘訣
—— 成長の秘訣についてお伺いしたいのですが、飛躍的な成長を遂げた要因は何でしょうか。
杉原 それは、やはりBIMの導入が大きかったですね。もしこれがなかったら、今のような成長はなかったと思います。もちろん、苦労も多かったですが。
—— そのBIMを導入するに至った経緯を教えてください。
杉原 もともと私たちは派遣事業も手掛けており、建設業のオペレーターを派遣していました。そのオペレーターから「BIMって知ってる?」と聞かれたのがきっかけです。調べてみると、当時はまだ一部のスーパーゼネコンが導入し始めたばかりでした。海外では進んでいましたが、日本ではまだまだでした。
最初の3年は非常に苦労しましたが、4年目からは急成長しました。
—— BIMというのは具体的にどのようなものなのでしょうか。
杉原 BIMは設計時に使用するソフトウェアで、二次元CADとは異なり三次元モデルを作成できます。建物をパソコン内で全て作り上げるという考え方です。
今では多くの設計事務所で導入されています。国もBIMモデルの提出を求めるようになり、ヨーロッパの基準に合わせたルールが整備されたことも成長の一因です。
経営判断をする上で重要視している点
——経営判断をする上で最も重視している点についてお聞かせください。
杉原 私が最も重要視しているのは、ビジョンを明確にすることです。これが社員に響かないと、会社全体が迷子になりがちです。社員がイメージしやすいように説明しているつもりですが、なかなかうまく伝わらないことがあります。説明した当初は理解してもらえるのですが、時間が経つと「会社が今何をしようとしているのか分からない」という声を耳にすることがあります。社員の心に深く響くビジョンやミッションを浸透させる必要があると感じていますが、これはビジネスにおける私のテーマでもありますし、最も重要視しているポイントでもありますね。
—— 人材の確保については、何か施策を行っていますか?
杉原 人材の確保については、大手の紹介会社を利用しています。応募はたくさん来るのですが、高い給料を提示しているわけではないので、なかなか理想的な人材に出会えません。条件をもっと良くしないと、優秀な人材は集まらないかもしれないと考えています。
—— 同じような悩みを持つ企業も多いですね。給料を上げれば人が来るというものでもないですし、福利厚生に力を入れている企業も増えています。
杉原 各拠点に人を配置しなければならず、特に東京や大阪では営業系の人材確保が大変です。しかし、技術者についてはコロナ禍を経てリモートでのサポートが可能になり、地方に分散させることができるようになりました。地方でITをやりたいという若者は意外と多く、熊本にサポートセンターを設けるなど、地方に優秀な人材を集める体制を整えています。
事業拡大の未来構想
—— 事業拡大の未来構想で、ファイナンスの観点からM&AやIPOなども選択肢に入るかもしれません。将来のビジョンについてお話しいただければと思います。
杉原 現在、私たちはITを活用してお客様に貢献したいと考えています。しかし、どうしてもCAD屋さんのイメージが強いので、CADはうちに任せるけれど、それ以外の難しいシステムは別のところに頼むというイメージを持たれているようです。
その為、包括的ヘルプデスクというサービスを一部の特定のお客様に提供しています。これはお客様のIT系のトラブルをすべてサポートするもので、ネットワークが繋がらないとか、アプリが起動しないといったレベルのものから、もっと広範囲なトラブルに対応しています。現在は大手のお客様に限られていますが、今後はそういったサービスをCADだけでお付き合いしているお客様にも展開していきたいと考えています。
—— システムを全部入れ替えて売上を一気に上げるというよりも、保守やメンテナンスを通じて長くお付き合いしていくということですね。
杉原 一回のお取引で終わる関係ではなく、長期的にお客様を支えるパートナーでありたいと考えています。お客様と共に歩みながら、目標達成に向けたお手伝いをする伴走者としての役割を重視しています。商品をお届けするだけではなく、使用中に出てくるトラブルや新たな課題にも対応し、お客様の成功を最後までサポートすることを目指しています。
ZUU onlineユーザーへ一言
—— ZUUonlineユーザーに向けて一言お願いします。
杉原 実は私、以前に株の取引で大きな損失を出した経験があります。その際に、自分の責任で取引を行うことの重要性を痛感しました。信頼できる情報を自分で収集し、それをもとにリサーチを行ってから行動するべきだと強く感じました。革新的な技術が日々生み出される昨今、より未来を考え続け行動することが重要になると思います。ですから、しっかりとした情報収集とリサーチを行い、慎重且つ素早い判断で成長を続け、社会へ貢献したいと考えています。
- 氏名
- 杉原 康史(すぎはら やすし)
- 社名
- 株式会社エービーケーエスエス
- 役職
- 代表取締役