新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業。政府からユニコーン100社創出が宣言されたこの状況下において、「現在の成長企業・ベンチャー企業の生き様」は、最大の関心事項と言える。ジャンルを問わず、一社のトップである「社長」は何を思い、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。その経営戦略について、これまでの変遷を踏まえ、様々な角度からメスを入れる。

出身地:愛媛県
趣味:ドライブ、ゲーム
尊敬する経営者:本田宗一郎、三木谷浩史
経歴:2000年に大学卒業後、総合不動産デベロッパー入社。分譲マンションの企画、マーケティング、販売を担当。入社3年目に、個人向けマンション販売全国1位の実績。 2003年、楽天インサイト株式会社(旧楽天リサーチ)入社。インターネットリサーチの黎明期から、市場調査の企画、データ分析、人材育成、新規事業など広範な業務部門を支える。 2015年、株式会社アイディエーション設立。現在に至る。
生活者の声や日常を徹底的に聴取、観察し、そこで集めたFindingsから次の一手となるアイデアを開発し、クライアント企業のビジネスを成功に導くことをミッションとします。
社長の出身地である愛媛県松山市での地方創生を目指し、2019年に松山オフィスを設立。主軸のマーケティング・リサーチ事業に加え、ホテル・旅館の宿泊者向けアンケート自動集計・分析ツール『Voice for Hotels』を展開。
これまでの事業変遷
—— まず創業の経緯について教えてください。
株式会社アイディエーション 代表取締役社長・白石 章兼氏(以下、社名・氏名略) もともと楽天のリサーチ事業の立ち上げに関わっていました。その中で、未経験者が活躍しにくいリサーチ業界の風習や文化に違和感を感じていたんです。それを自分自身で変えてみたい、という思いが芽生えたのがきっかけです。 また、私自身が愛媛県出身で、地方創生に関心を持っていました。ただ、楽天という大企業に所属したままでは、なかなかその思いを実現するのが難しかったんです。そこで、独立して東京だけで活動するのではなく、愛媛県松山市にも事務所を構え、二拠点でやってみようと決心しました。
—— リサーチ業界というと、先進的なイメージがありますが、実際にはどうなのでしょうか?
白石 リサーチ業界は、「古い風習」が根強く、新しいことに対する抵抗感をもっていました。2000年頃からネットを活用したリサーチが普及し始めましたが、当初、既存の調査会社はネットを軽視していました。現在では定量調査のほぼすべてがネットでの調査に切り替わり、その結果、業界内の勢力図が大きく変わりました。リクルート出身者が作ったネットリサーチ専業のマクロミルやすでにネット業界で大企業になりつつあった楽天やヤフーなども調査業界に参入し、台頭する一方で、従来の調査会社は衰退していきました。そうした動きを目の当たりにした経験が、業界全体をもっと柔軟に変える必要があると感じた理由です。
—— 貴社の事業形態は、少人数制であると伺いました。どのような体制で運営されているのですか?
白石 社員は現在19名、アルバイトが15名ほどです。少人数ながら、幅広い業種をカバーしています。リサーチのニーズは業界を問わず存在しますので、どんな案件にも柔軟に対応できるようにしています。 忙しい日々ではありますが、それだけ求められることが多いという証でもあります。
飛躍的な成長を遂げた秘訣
—— これまで貴社が事業を営んできて、成長したポイントについてお伺いしたいのですが、何かございますでしょうか?
白石 まあ、これは本当に当たり前のことかもしれませんが、採用ですね。私の実兄がもともと上場企業の子会社の立ち上げメンバーで、人材採用をしていたキャリアがあり、実兄に入社してもらって採用に専念できる組織を作りました。そこからキーマンを二人採用できたことが大きかったかもしれません。そこから組織作りを進め、ノウハウを継承できる仕組みを作りました。
—— その採用というのは創業からどのあたりのタイミングでご縁があったのでしょうか?
白石 創業から5年目ですね。
—— 先ほどのノウハウについてですが、組織作りやマネジメントの知見をお持ちだった方々なのでしょうか?
白石 実は完全な知見は二人ともありませんでした。一人は第二新卒で、もう一人はアパレルで店長をやっていた経験があり、マネジメントのノウハウは持っていましたが、リサーチのノウハウは全く持っていませんでした。この二人を最初のキーマンとして育成し、そこから採用を進めていきました。私と副社長の山川は楽天の時からずっと人材育成担当をしていたので、そのノウハウが活かされたかもしれません。
—— インターネットで拝見したところ、新規事業の立ち上げ業務をよくされていたと書いてありましたが、人材育成や人材開発もかなりなされていたのですね。
白石 積極的に兼務でやっていて、非常にやりがいがありました。独立志向はずっと強かったのですが、いろんなことを担当させてもらって楽しくなり、やめられなかったというのがあるかもしれません。
経営判断をする上で重要視している点
—— 経営判断を行う際、何を最も重要視していますでしょうか?
白石 やはり社員のモチベーションが上がるかどうかという点は非常に重要です。例えば新規事業を始める際、その意義や社員がワクワクするかどうかが大切です。社員がワクワクしないと、売れるものも売れないですからね。投資を行う際も、全社員が納得しているかどうかを考えます。自分の意思だけで決めることはあまりありません。みんなに「どう思う?」と聞くことが多いですね。
—— 社員数が19名とお聞きしましたが、皆さんの心の距離感が近い運営をされているということでしょうか。
白石 はい、相当近いと思います。松山とは場所は離れていますが、心は近いですね。
—— よくあるトップダウンの企業とは違うアプローチですね。
白石 そうですね。社員が「なぜこれをやるのか」と疑問に思うことがないようにしたいんです。トップダウンだと社長は幸せかもしれませんが、社員はそうではないと思います。社員から相談を受けたり、意見を求めたりすることで、会社を一緒に作っている感覚が生まれると思います。
今後の事業展開や投資領域
—— 今後の事業展開や投資領域について教えてください。
白石 リサーチ業務を可能な限り簡素化し、誰でも簡単に、そして安価にリサーチを行える仕組みを構築したいと考えています。そのためにデジタル技術やAIを活用しています。 リサーチ業務のDX化が進めば、そこから派生する形で、全く新しいサービスを展開していく計画もあります。現時点で具体的なアイデアが固まっているわけではありませんが、弊社の強みである大手企業とのネットワークと、豊富なマーケティングデータを最大限に活用するつもりです。
—— 大手企業からのリサーチ依頼を多く受けているということですが、それが今後の新規事業開発にもつながるのでしょうか?
白石 弊社には大手企業の新規事業に関するデータが多数蓄積されています。もちろん、それらを直接活用することはできませんが、そういった大手企業のマーケティングに携わることで、マーケティングリサーチャーとしての専門性を社員全員が持っています。そのためマーケティングコストという観点では新規事業の立ち上げコストを大幅に削減できます。P&Gや花王といった大手企業がマーケティングを重視する体制を築いているように、私たちも全員がマーケティングに精通していることで、効率的な事業開発が可能になると考えています。
—— リサーチ業務のDX化が進むことで、将来的に会社の方向性も変わる可能性があるのでしょうか?
白石 直近の10年は、リサーチ会社としてのスキルとノウハウを積み重ねていくフェーズです。その上で、DX化によって業務効率をさらに向上させ、そこから生まれたリソースを新規事業に回していく構想を描いています。
—— 貴社の社員構成についてもお伺いしたいのですが、松山オフィスではどのような体制で運営されているのでしょうか?
白石 松山には社員が5名、アルバイトが15名ほど在籍しています。全員がリサーチに関わる業務を行っています。地方拠点でありながら、東京本社と同水準の給与体系を維持しており、その結果、社員の可処分所得は松山の平均を大きく上回っています。
—— 会社としての長期的なビジョンを教えてください。
白石 直近の3年は「育成フェーズ」と位置づけています。リサーチャーとしてのスキルを持つ社員を育てつつ、体制を強化していく時期です。その後、5年、10年というスパンで、DX化を進めながら事業規模を拡大していきます。最終的には、上場を視野に入れた成長戦略を描いています。
私たちの使命は、リサーチ業界における新しい価値を創造すること。そして、それを通じて地方創生や社会全体の発展に貢献することです。
メディアユーザーへ一言
——メディアユーザーへのメッセージをお願いします。
白石 リサーチに関連するお困りごとがあれば、ぜひお任せください。丸投げしてもらえれば、我々が全て引き受けます。
—— 非常に心強いお言葉ですね。ありがとうございます。
- 氏名
- 白石 章兼(しらいし あきとも)
- 社名
- 株式会社アイディエーション
- 役職
- 代表取締役社長