既存不適格物件は避けるべき?定義や原因、購入しても良い場合を解説

多くの不動産投資家にとって既存不適格物件は避けるべきものと考えられがちですが、実際には購入を検討しても良い場合があります。本コラムでは、既存不適格物件の定義や違法建築との違い、既存不適格となる主な原因などを解説します。不動産投資をする上で適切な判断ができるようにぜひご覧ください。

既存不適格物件とは?定義や違法建築との違いを解説

既存不適格物件は避けるべき?定義や原因、購入しても良い場合を解説
(画像:PIXTA)

既存不適格物件とは、建築中古物件において新築当時の法律では適法だったものの、法改正により現行の建築基準法に適合しなくなった建物のことです。「不適合」とは現行の基準に対してであり、建築時点では法令に則っていたため、新築当時に建築基準法に適合していない違法建築とは異なります。すなわち、既存不適格物件は現状維持であれば問題ないのに対して、違反建築物は建築基準法に適合するよう改修が必要になります。

例えば、建ぺい率や容積率の制限変更、高さ制限の改正などにより既存不適格となることがあります。

これらの物件は建築基準法第3条第2項により、現状のまま使用することが認められています。ただし、建て替えや大規模な改修を行う際には、現行法に適合させる必要があります。

違法建築について詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。

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既存不適格物件となる主な原因

既存不適格物件は避けるべき?定義や原因、購入しても良い場合を解説
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既存不適格物件となる主な原因には以下のようなものがあります。

  • 建ぺい率や容積率の超過
  • 高さ制限の違反
  • 接道義務の不適合
  • 用途地域の変更

建ぺい率や容積率の超過

建ぺい率や容積率の制限は、都市計画法や条例によって定められていますが、これらの規制が変更されると、建築当時は適法だった建物が現在の基準を超過してしまうことがあります。

例えば、以前は建ぺい率60%だった地域が50%に変更された場合、建築面積が敷地面積の50%を超える建物は既存不適格となります。このような建物は現状維持が認められていますが、建て替えや大規模改修の際には現行基準に適合させる必要があります。

高さ制限の違反

建物の高さに関する規制も都市計画法や条例で定められており、時代とともに変更されることがあります。特に注意が必要なのは「絶対高さ制限」です。

例えば、第1種低層住居専用地域では10m、第2種低層住居専用地域では12mという絶対高さ制限があります。第2種低層住居専用地域で高さ12mの建物を建てた後、用途地域が第1種低層住居専用地域に変更されると、その建物は2mオーバーとなり、既存不適格物件となってしまいます。

接道義務の不適合

建築基準法では建物を建てる際に敷地が幅員4m以上の道路に2m以上接していることを義務付けています。これを「接道義務」といいますが、道路拡張計画や都市計画の変更により、既存の建物がこの基準を満たさなくなることがあります。

例えば、旗竿地や袋地、建築基準法上の道路に接していない土地などが該当します。接道義務を満たさない土地は再建築不可物件とみなされ、建て替えや増改築が制限されます。ただし、隣地の買い取りやセットバック(土地と道路の境界線を後退させること)などの対策により、接道義務を満たすことができる場合もあります。

用途地域の変更

都市計画の見直しにより用途地域が変更されることがあります。例えば、商業地域だった場所が住居地域に変更された場合、商業地域での規制が住居地域では適合しない部分があります。

具体的には、用途地域の変更によって日影規制が厳しくなる場合があり、既存の建物が新しい日影規制に適合しなくなる可能性があります。また、一部の用途地域では敷地内の緑地面積の割合が規定されていますが、用途地域の変更で要件が厳しくなることも考えられます。

用途地域の変更は、その地域の将来的な発展や住環境の保護を目的として行われますが、既存の建物にとっては既存不適格の原因となる可能性があります。用途変更の建て替えの際には、現行の用途地域の規制に適合させる必要があるため注意が必要です。

不動産投資における既存不適格のリスク

不動産投資において、既存不適格であるリスクにはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは既存不適格物件のリスクとして以下の5つを解説します。

  • 資産価値の低下
  • 建て替えや大規模改修の制限
  • 賃貸経営への影響
  • 融資の制限
  • 保険加入の困難さ

資産価値の低下

既存不適格物件は現行の建築基準法に適合していないため、資産価値が低下する傾向にあります。既存不適格物件を建て替える際には、現行の法規制に適合させる必要がありますが、従前と同じ規模や用途での再建築が困難になることで、土地の有効活用が制限されます。そもそも、接道義務を満たしていないなどの理由で、再建築不可の場合もあります。

接道義務とは
建築基準法で定められた規定で、建築物の敷地は原則として幅員4m以上の道路に2m以上接していなければならないというものです。この条件を満たさない土地は、建築確認が下りず、新たな建物を建てることができません。

建て替えや大規模改修の制限

前述した通り、既存不適格物件を建て替える場合、現行の法規制に適合させる必要があります。そのため、従前の建物と同じ規模や用途での建て替えが困難になる可能性があります。

例えば、建ぺい率や容積率が変更された場合、建て替え時に元の規模の建物を建てることができません。将来的な不動産活用や価値向上の機会が制限される可能性があり、長期的な投資戦略に影響を与える場合があります。

賃貸経営への影響

既存不適格物件であることは賃貸経営にも影響を及ぼす可能性があります。入居者を募集する際に既存不適格物件であることが敬遠される要因となり、空室率の上昇や賃料の低下を招く可能性があります。

そのため、賃貸経営者はこれらのリスクを十分に理解した上で、賃借人に対して適切な情報開示と丁寧な説明を行うとともに、建物の維持管理や安全性の確保に注力する必要があります。

融資の制限

既存不適格物件は金融機関によって融資を得られない場合があります。たとえ融資が可能であっても、担保価値が低く評価される傾向もあり、融資額や返済期間において希望した条件と異なる可能性も少なくありません。

また、融資審査を行う際に建築当時の適法性を証明する書類が必要となります。これらの制約により、投資資金の調達が困難になったり、資金調達コストが増加したりする可能性もあります。

保険加入の困難さ

一部の保険会社では、既存不適格物件に対する火災保険などの加入を制限したり、保険料が割高になったりすることもあります。また、新耐震基準を満たしていない旧耐震基準で建築された建物や建物に傾きやひび割れがある場合は、瑕疵保険への加入が困難になる可能性もあります。

保険加入の制限は、災害時のリスク管理や資産保護の観点から投資の安全性に影響を与えるため、このように既存不適格物件は保険加入が困難になることを理解しておきましょう。

既存不適格物件でも購入しても良い場合

既存不適格物件は避けるべき?定義や原因、購入しても良い場合を解説
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既存不適格物件には前述したリスクがありますが、適切な判断と戦略があれば、投資対象として検討する価値は十分にあります。ここでは既存不適格物件でも購入しても良い具体的なケースを解説します。

  • 立地条件が優れている場合
  • 取得価格が十分に安い場合
  • 現状のまま長期運用が可能な場合
  • 将来的な法改正や都市計画の変更の可能性がある場合
  • リノベーションによる価値向上が見込める場合

立地条件が優れている場合

駅前や繁華街など、非常に優れた立地にある既存不適格物件は、その希少性から高い需要が見込まれる可能性があります。このような物件は、賃貸需要が安定していることが多く、収益性を確保しやすいです。

例えば、都市部の商業地域にある既存不適格物件は周辺の再開発や経済活動の活性化により、将来的な価値情報の可能性も高くなります。このように、立地の良さや周辺環境によって既存不適格のデメリットを上回る場合、投資対象として検討する価値があるでしょう。

取得価格が十分に安い場合

既存不適格物件は一般的に市場価格が低く抑えられています。取得価格が十分に安ければ、初期投資を抑えることができ、投資利回りを高める可能性があります。例えば、同等の立地・規模の適格物件と比較して大幅に安く購入できる場合、リスクを考慮しても十分な投資メリットがあると言えます。

ただし、是正工事費用や将来的な改修のコストも考慮に入れる必要があります。既存不適格物件は相場と比較して価格が低いため利回りが高く魅力的ですが、実際には是正工事に追加の費用がかかる場合もあることを理解しておきましょう。

現状のまま長期運用が可能な場合

建物の状態が良好で、大規模な改修や建て替えが当面必要ない場合は、既存不適格物件でも長期的な運用が可能です。特に、耐震性能が十分で設備も比較的新しい物件であれば、安定した賃貸収入を長期にわたって得られる可能性が高くなります。また、定期的な点検やメンテナンスを適切に行うことで、建物の寿命を延ばし、投資期間を長くすることができます。

将来的な法改正や都市計画の変更の可能性がある場合

地域の再開発計画や法改正の動きがある場合、将来的に既存不適格状態が解消される可能性があります。例えば、2025年4月に予定されている建築基準法の改正には、古い既存住宅などの省エネ化や長寿命化を促す目的で、既存不適格物件における現行基準の適用を一部免除する内容が盛り込まれています。

具体的には、接道義務や道路内建築制限の既存不適格となっている物件について、現行基準は大規模修繕や増改築工事の際には、現行基準適合が必要です。しかし改正後は、市街地環境に大きな影響を与えないと認められる大規模な修繕や模様替えを行う場合は、現行基準を適用しないとされています。このような動向を見据えて投資判断を行うことで、将来的な価値上昇の機会を捉えることができます。(2025年2月現在での記載になります。)

出典:国土交通省「既存建築ストックの長寿命化に向けた規定の合理化」

リノベーションによる価値向上が見込める場合

リノベーションを行うことによって価値向上が見込める場合は、既存不適格物件でも投資の選択肢として検討しても良いでしょう。前述した通り、2025年4月の法改正によって既存不適格物件のリノベーションのハードルが下がります。そのため、適切なリノベーションを行うことで物件の魅力を高め、賃料収入の増加や資産価値の向上を図ることができます。

例えば、内装や設備の更新は比較的容易に実現可能であり、キッチンやバスルームの刷新は日常生活の質を大きく向上させるため、物件価値を高めることができます。このようにリノベーションによって、物件価値を向上させられる見込みがある場合は、検討する価値があります。

(提供:manabu不動産投資

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