2024年3月、日本銀行はゼロ金利を解除し、17年ぶりとなる利上げを行った。同年7月と2025年1月にも追加の利上げを実施し、日本にもようやく「金利のある世界」が訪れたのである。ただ、このまま右肩上がりで金利が上昇する状況ではない。日本銀行の植田総裁は「金融緩和」でも「金融引き締め」でもない、いわゆる「中立金利」を模索している模様だ。

では、植田総裁が現状で適切と考える金利水準はどの程度なのだろうか。本記事では、中立金利の水準やその水準まで金利が上昇した場合、私たちの生活にどのような影響があるのかについて考察する。

日本銀行の追加利上げは必至の状況

植田日銀総裁が考える「中立金利」とは。いったい金利はどこまで上がるの ?
(画像=kanzilyou / stock.adobe.com)

日本銀行は、2024年3月18日・19日で開かれた金融政策決定会合で、長年にわたって続けてきたゼロ金利政策をやめ、短期金利の誘導目標を0~0.1%程度に設定する「利上げ」を実施した。それまで政策金利は「マイナス0.1%」だったため、実質0.2%の利上げを行った格好だ。日本銀行は同年7月末にも利上げを実施し、政策金利は0.25%まで上昇。さらに、2025年1月にも追加の利上げを行い、0.5%まで引き上げられた。

植田総裁は、2024年3月の利上げに踏み切った理由を「賃金と物価の好循環を確認し、2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現できる見通しが立った」と発言。また、同年7月に利上げを決めたあとの会見では「現在の政策金利 (0.25%) はまだ極めて低い水準であり、引き続き経済情勢を見ながら政策金利を引き上げることになる」との考えを示した。

政策金利据え置きの判断を下した2024年10月、12月の金融政策決定会合後の会見では、「経済・物価に関する指標はおおむね見通しに沿って推移している」と、それまでと同じ見方を表明する一方で、「政治情勢や米国経済の不確実性が高まっている」との懸念を表明。会見では「 (追加の利上げに関して) 時間的な余裕があるとの表現は使わない」と明言した。

それに続く、0.5%までの利上げを決めた2025年1月の決定会合後の会見では、「 (2025年の) 春闘において、去年に続きしっかりとした賃上げを実施するといった声が多く聞かれている」とし、日本経済が順調に推移していることを述べたうえで、「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている」と、利上げに対する日銀のスタンスがこれまでと変わっていない旨を表明した。

日本銀行が考える「中立金利」とは ?

気になるのは「日本銀行はどの程度まで政策金利を引き上げるつもりなのか」ということである。1月の決定会合で表明したように、植田総裁は現在の0.5%という政策金利について「まだ上げる余地がある」と認識している模様だ。要は、現状を「まだ金融緩和の状態」と見ているわけである。今後の焦点になるのは「植田総裁は中立金利をどの程度の水準と考えているのか」だろう。「中立金利」とは、政策金利が「金融緩和」的でも「金融引き締め」的でもなく、経済や物価などの情勢に対して「中立」である状態を指す。

日本銀行は、景気が過熱していると判断すれば、その熱を冷ますために「金融引き締め」を行い、逆に景気が冷え込んでいると判断すれば、金融緩和によって世の中にお金をばらまくことで景気を浮上させようとする。このように政策金利を調整して物価の安定を図ることが、その国の中央銀行 (日本でいうと日本銀行) の役割だ。

現在の政策金利について日本銀行が「金融緩和の状態にある」と考えているなら、まだ利上げが続く可能性があり、反対に「金融引き締めの状態にある」と捉えているのであれば利上げはストップすると考えられる。つまり「経済状況に対してバランスが取れている金利」が中立金利だ。

植田総裁が考える「中立金利」の水準

植田総裁は、その「中立金利」について「何%が中立金利」と具体的に表明しているわけではない。ただ「中立金利というものがあるとして、それが一定と決まっているなら、それに到達するまでは利上げを続ける」との考えを明らかにしている。また、日本銀行が2024年8月に公表したワーキングペーパー (論文) によって「日本銀行が掲げる2%のインフレ目標を前提にすれば中立金利は1~2.5%」との見方が浮上した。簡単にいえば「少なくとも金利が1%に到達するまでは追加利上げが行われる可能性がある」ということだ。2025年1月の決定会合後の会見でも、植田総裁は「中立金利にはまだ相応の距離がある」と、従来の考えに変わりはないことを示した。

これは、あくまで物価や雇用などの情勢が「日本銀行がいま描いているシナリオ通りに進めば」という条件付きではある。例えば米国経済が下振れしたり、日本の物価上昇ペースが加速したりすると、その前提条件が崩れるため、「中立金利」に対する日本銀行の見方も変わってくることは確かだ。

利上げにどう対処すべきか

「政策金利が何%まで引き上げられるか」については、経済情勢の変化とともに変わるだろう。しかし現状では、今後も日本銀行が利上げ政策を続ける可能性が高いと思われる。日本銀行の利上げ政策を受け、2024年10月には3メガバンクなど大手銀行が約17年ぶりに住宅ローン金利の一部を引き上げた。また、企業への貸出金利がジワジワと上昇するなど、すでに国民の生活に利上げの影響が出ている。

まだ金利が急上昇するような「劇的な変化」ではないものの、今後利上げが継続的に行われれば、それに伴って住宅ローン金利や貸出金利も上昇することが予想される。その一方で、普通預金や定期預金などの金利も連動して上昇する可能性が高い。そのため、住宅ローンの借り換えや定期預金の満期後にはより金利の良い金融商品へ乗り換えるなど、消費者サイドも状況の変化に合わせた行動を取るべきだろう。

日本銀行は当面、利上げ政策を続ける可能性が高い。そうはいっても、一方的に金利が引き上げられるということにはならず、やがて利上げは打ち止めになるはずだ。私たち消費者は、経済情勢に目を配り「日本銀行がどういう方針で動いているのか」程度は知っておくべきだ。

情勢の変化に合わせてローンの借り換えを行ったり、新規契約時に政策金利と連動する変動金利ではなく「固定金利」を選択したり、あるいはより利息の高い金融商品へ資産を移行したりするなど、柔軟な対応が求められる。また、外貨建ての資産をポートフォリオに加えることで、通貨分散によるリスク軽減や為替差益を狙うこともできる。こうした選択肢を柔軟に組み合わせ、変化する経済環境への対応力を高めることが重要だ。

(提供:大和ネクスト銀行


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