特集「令和IPO企業トップに聞く 〜 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。

創業時からの事業変遷
—— それでは、創業時からの事業変遷についてお伺いします。
グロービング株式会社 代表取締役社長・田中 耕平氏(以下、社名・氏名略)創業前から、現状のコンサルティング業界はあまり良い方向に進んでいないと感じており、その点を考えてきました。今のコンサルティングサービスの悪い部分、つまりコンサルティング企業の利益視点になってしまっているところを変えていくことが、我々の出発点でした。
我々は「内なる外」という言葉を使って、クライアントの立場で価値を上げることを目指しています。コンサルティング企業が儲けるためのビジネスではなく、クライアントが本当に強くなるためのサービスを提供するのが我々の立ち位置です。単なるコンサルではなく、戦略コンサルとして、CXOレベルのリレーションを持ちながら、全社変革や新しい事業の立ち上げをサポートしています。
我々のスタイルは、クライアントの中に深く入り込み、クライアントの社員と一体化して、事業責任者やプロジェクト責任者としての役割を持ち、クライアントと共に変革を推進するものです。この「内なる外」からさらに内側に入り込むスタイルは、クライアントから非常に高く評価されています。
—— なるほど、非常に興味深いですね。最近の動向についても教えていただけますか。
田中 我々は、日本のトップ企業と対峙していますが、彼らも大きな変革を起こす際に人手が足りないと感じています。現業のエースを引っ張ってくることは難しく、そこで我々がクライアントの立場として入り、変革を推進することが求められています。経営者の方々も、我々のような入り方を歓迎してくださっています。
また、AIを活用して効率的にサービスを提供することも進めています。繰り返しの作業をツール化し、クラウドプロダクトとして提供することを考えています。グロービングインテリジェンスというチームを立ち上げ、業務のAI化を進めており、効果が出始めています。これをAIプロダクトとして外に出すことも考えています。
上場を目指された背景や思い
—— 上場を目指された背景や思いについてお伺いしたいと思います。
田中 上場については、ジョイントイニシアチブやクライアントとの関係が深まる中で、信頼性を高めるために重要だと考えています。日本のトップティアの企業が我々を信頼するには、上場していることが大きな意味を持ちます。上場することで、外部からの見え方がしっかりした会社として認識され、信用力が上がります。これにより、ジョイントイニシアチブのような取り組みが広まりやすくなるのです。
また、コンサルタントの採用においても、スタートアップのような小さなコンサルでは不安を持たれることがあります。上場することで、信用力が向上し、人材採用にもプラスになります。さらに、クラウドプロダクトへの投資や将来的な海外展開も視野に入れています。資金調達の手段を多様化するために、上場は重要なステップです。

今後の事業戦略や展望
—— 今後の事業戦略や展望についてお伺いしたいと思います。
田中 ジョイント・イニシアティブをもっと広めていくというのが大きな目標です。現在40パーセントほどの比率ですが、それをさらに高め、クライアントと一緒に動かす存在として不可欠なものにしたいと思っています。コンサルティングとしてはジョイント・イニシアティブの比率をしっかり上げることが重要ですし、AI活用やクラウドプロダクトを含めたツール化も進めていかなければなりません。これらが総体となって、ジョイント・イニシアティブモデルを立ち上げていくのが今後の目標です。
これが実現すれば、日本企業だけでなく海外にも展開していくつもりです。最近話題になっているデジタル赤字についても考慮しています。日本の製造業が外貨を稼いでいるのに、クラウドやデジタルサービスで結局海外のサービスを使ってしまう現状があります。我々は純粋な日本企業なので、外資系コンサルに払っている分を削減し、日本のトップティア企業が外資を入れずにプロジェクトを進めたいというニーズに応えられると考えています。
これにより、我々は強いポジションに立てると思います。日本国内でデジタル赤字を減らすだけでなく、我々のメソッドを海外展開し、輸出産業として外貨を稼ぐことを大きな展望としています。デジタル赤字をデジタル黒字に変えたいのです。
—— 海外展開についてですが、日本と海外の企業文化や性質が異なることがあります。その際、日本の良さを海外に伝えるのか、それとも現地に合わせてカスタマイズするのか、どのようにお考えですか。
田中 コンサルティングはもともとアメリカなどから発祥しています。トップダウン型の経営に適したフレームワークなどが多く、日本のガバナンス構造には合わない部分もあります。しかし、日本の企業も変わってきています。強みは活かしつつ業態を変えながら強くなっている企業もあります。日本の企業の強みを活かしつつ、日本型の経営をメソッド化し、海外に展開していくことは可能だと考えています。
現在、会社内で新しいマネジメント手法を作り始めており、外部に発表する予定です。この記事が出る頃には、そうした動きも進んでいると思います。
今後のファイナンス(調達・投資)計画について
ーー今後のファイナンス計画についてお伺いできますでしょうか?
田中 我々の今後の投資計画ですが、大きな柱としては「クラウドプロダクトの開発」に注力しています。繰り返し使えるノウハウを蓄積し、それを活かしてクライアントに提供できる製品を開発するための投資が主になります。これはしっかりと時間とお金をかける部分です。
ただし、一般的なSaaS企業のようにマーケティングや営業費用に多額の予算を投じ、無料でばら撒いて後から回収するというモデルではありません。私たちが目指しているのは、製品開発を中心とした持続可能な投資です。また、人材採用や海外展開にも力を入れており、中長期的にはM&Aも視野に入れています。
ーーこのJI型モデルを成功させるための人材育成や教育について、もう少し具体的に教えていただけますか?
田中 おっしゃる通り、私たちのビジネスモデルは「JI型」、つまり「ジョイント・イニシアチブ型」という独特な形態です。これを実現する上で、優秀な人材の存在は欠かせません。弊社では創業当初から、AIなどの技術を活用して業務効率を高めるとともに、スキルの高いコンサルタントを採用してきました。優秀な人材は我々の強みとなっています。大量の若手スタッフを抱えるのではなく、経験豊富な人材を採用し、その力を最大限に発揮できる環境を整えることを重視しています。
採用した人材には、プロジェクトを通じた実践型の育成(OJT)を中心に教育を行っています。優秀な先輩社員のもとで学びながら早期に成長し、戦力化する仕組みです。このように育成された人材は、クライアントの中に入り込み、責任を持って戦略の実行までを支える役割を担っています。
ーー確かに、戦略立案だけでなく、実行に責任を持つという点が「JI型」の大きな特徴ですね。特に優秀な人材が活躍する環境が整っているからこそ、このモデルが機能しているのだと感じます。
田中 その通りですね。クライアントのニーズを真摯に捉え、私たち自身もコミットメントを持って取り組む姿勢が、信頼につながったと思います。
メディアユーザーへ一言
—— メディアユーザーの皆さんに向けて、田中社長から一言いただけますか。
田中 日本社会は「失われた30年」とも言われる時期を迎えていますが、労働人口の減少や生産性の低下といった大きな課題があります。我々は、こうした問題を解決し、日本を再び成長軌道に乗せたいと考えています。また、日本流の経営マネジメントの仕組みを海外に展開し、より強い企業を世界中で作っていくことを目指しています。メディアユーザーの皆さんには、ぜひその点を認識していただきたいと思います。特に、投資家の皆さんには応援していただければと思います。
- 氏名
- 田中 耕平(たなか こうへい)
- 社名
- グロービング株式会社
- 役職
- 代表取締役社長兼上級執行役員