
1982年12月 当社入社
1985年4月 取締役就任
1991年4月 常務取締役就任
2003年2月 大連三栄水栓有限公司 董事長就任(現任)
2004年10月 代表取締役社長就任(現任)
2023年6月 一般社団法人日本バルブ工業会愛重就任(現任)
創業時から上場までの事業変遷
ーー 事業の変遷について教えてください。
SANEI株式会社 代表取締役社長・西岡 利明氏(以下、社名・氏名略) 当社の創業は1954年9月、まだ日本が戦後復興の真っただ中にあった時代です。創業者である私の父・西岡明を含む3人が「三栄水栓製作所」として立ち上げました。社名の「三栄(サンエイ)」は、創業メンバー3名が共に栄え、発展していくようにとの願いを込めたものです。
当時の日本は、戦争の爪痕が残る中で、生活インフラの整備が急務でした。特に水道は、人々の暮らしに不可欠な要素として重要視されていました。復興が進む中で、新たに住宅が建設され、水まわり設備の需要が急激に増加していました。その流れの中で、当社は「人類ある限り水は必要である」を理念とし水栓金具の製造・販売に乗り出しました。
しかし、当初から順風満帆だったわけではありません。最初は少人数の企業であり、まずは製造を請け負ってくれる協力企業を探しながら、少しずつ事業を拡大していくという形でした。創業当時は「点」の時代と位置付けています。つまり、個々の水栓金具を単体で販売する事業モデルです。
1967年には、日本初のシャワー付湯水混合水栓を開発し、国内市場に先駆けた画期的な製品としてヒットしました。当時、各世帯に内風呂が普及し始めた時期であり、より快適な水回り環境を求めるニーズに応える形となりました。これにより、当社は業界内での知名度を大きく向上させることができました。
1980年代に入ると、給水・排水システム全体をトータルで提供する「線」の時代へと移行しました。
当時の住宅業界では、水が出ないなどのトラブルがあるとすぐに「水栓の問題」としてメーカーに問い合わせが入ることが一般的でした。しかし、実際には水道メーターから水栓に至るまでの給排水環境全体の問題であることが多かったのです。水道局はメーターまでの管理しか行わず、メーター以降は住宅所有者の責任となります。そのため、多くの消費者が「水回りのどこに問題があるのか分からない」という状況に直面していました。
そこで当社は、「水栓単体」ではなく、「メーターから水栓に至るまでのトータルソリューション」を提供することに注力し始めました。配管や継手、排水設備までを含めた提案を行い、より包括的な事業展開を進めたのです。この時期を「線」の時代と呼んでいます。
2000年代に入ると、住宅市場の変化に伴い、当社の事業は「面」の時代へと進化しました。これは、水栓単体や給排水設備の提供にとどまらず、水回り全体の空間設計やデザイン性を重視した提案へと広がっていったことを意味します。例えば、キッチン、バスルーム、洗面所といった各スペースの一貫したデザインを考慮した商品開発を進め、インテリアデザインの要素を取り入れた製品ラインナップを強化しました。
ーー 水回りを「面」で捉える発想は、どのような背景から生まれたのでしょうか?
西岡 日本の住宅市場、特にマンションなどは「各部屋が機能別の箱」として売られる傾向があります。しかし、水回りの空間は、単なる機能的な設備ではなく、生活の質を左右する重要な要素です。例えば、キッチンにおいて、最も触れる機会が多いのはシンクや収納ではなく、実は水栓なのです。お風呂場でも、快適さを左右するのは浴槽だけでなく、シャワーの水圧や温度調節のしやすさなど、細かい部分にあります。
これらの視点から、当社は水回りを単なる設備としてではなく、「空間のデザイン」として捉え、「水をデザインする」というコンセプトを打ち出しました。そして、その発想をより明確にするために、2018年には「SANEI株式会社」へと社名変更を行いました。この名称変更は、日本国内だけでなく、海外市場でのブランド認知を統一する狙いもありました。
ーー つまり、住宅市場の変化に適応しながら、進化し続けているということですね。
西岡 そうですね。今後の住宅市場は、単なる設備の提供から、よりライフスタイルに寄り添った提案が求められる時代に入っていきます。当社は「点」「線」「面」という三段階の進化を経て、水回りの全体的なデザイン提案を行う企業へとシフトしてきました。
私たちの目指す未来は、単なる水栓メーカーではなく、「水をデザインする」ことで、暮らしそのものを豊かに創造することです。水は人々の生活に欠かせないものです。その水をより快適に、より美しく使っていただけるように、これからも進化し続けていきたいと考えています。

上場を目指された背景や思い
ーー 2020年に東証第2部(現・東証スタンダード市場)へ上場されました。その背景をお聞かせください。
西岡 上場を決意した理由は、大きく分けて二つあります。
一つ目は、ガバナンスの強化と社会的信用の向上です。当社は水栓業界において国内の大手企業と競争しています。今後、さらなる成長を目指すにあたり、企業としての透明性を高め、公正な経営を行うことで、顧客や取引先からの信頼を一層確立する必要がありました。特に、公共事業や大規模プロジェクトを受注するためには、社会的信用の高さが求められます。上場することで、内部統制やコンプライアンスを強化し、より健全な企業運営が可能になると考えました。
二つ目は、資金調達の多様化と事業成長の加速です。例えば、主要な製造拠点である岐阜工場では、高付加価値製品の生産強化を目的に、設備の増強を進めています。また、当社は住宅市場だけでなく、ホテル、飲食店、介護・医療施設、公共施設などの非住宅市場への事業展開を進めており、これには大規模な投資が必要です。安定的な資金調達の手段を確保するために、上場という選択を取りました。
当社は2010年代半ばから上場に向けた準備を開始し、2020年12月に東証第二部(現・東証スタンダード市場)への上場を果たしました。ちょうど新型コロナウイルスの影響が世界経済に及び始めた時期であり、IPO(新規株式公開)の市場環境も不透明でした。しかし、「今後の成長のためには、このタイミングを逃さない」という強い意志のもと、計画を遂行しました。
ーー 上場に際して社内での反発はありましたか?
西岡 上場に向けた準備を数年かけて進めていたため、社内の理解も徐々に深まりました。そのため、大きな反発はありませんでした。むしろ、社員にとって「会社の成長を実感できる機会」として前向きに受け止められました。特に、ガバナンスの強化により、企業の透明性が向上したことで、社員のモチベーション向上にもつながったと感じています。
上場を果たしたことで、企業としての社会的責任はこれまで以上に重くなりました。しかし、それと同時に、「水をデザインする」という当社の理念をより広く発信し、国内外の市場でさらなる成長を遂げるための新たなスタートラインに立つことができたと考えています。
今後の事業戦略や展望
ーー 日本の住宅市場は縮小傾向にありますが、水栓メーカーとしての戦略はどのようにお考えですか。
西岡 確かに、日本の人口減少に伴い、新設住宅の着工数は減少しています。特に、都市部では住宅のコンパクト化が進み、一戸あたりの水回りスペースも限られているのが現状です。その一方で、住空間の質に対する消費者の意識は高まり、水回りの快適性やデザイン性を重視する傾向が強まっています。この変化をビジネスチャンスと捉え、当社では以下の三つの戦略を強化していきます。
まず、SANEIブランドの強化です。品質はもちろんのことながら、操作性や吐水、外観などをさらに追及し、人の五感に訴えかける品位基準を探求していきます。そうすることで当社は人と水が出会う場所に、新たな価値をデザインしていきます。
次に水まわりにおける住空間を面で提案できる事業・商品を更に展開していきます。例えば、高級ホテルのバスルームを思わせるラグジュアリーな水栓や、空間に調和するシンプルで洗練された水栓など、ニーズに合わせた商品を展開することで、新築・既存住宅に関わらずデザイン性の高い水回り提案を行っていきます。
三つ目が、ホテル、飲食店、介護・医療施設、公共施設などの非住宅市場へのシェア拡大です。これらの施設では、水栓のデザイン性だけでなく、耐久性や衛生面も重視されます。特に、新型コロナウイルスの影響を受けたことで、「非接触型」の水栓や節水型の製品への関心が高まりました。当社では、センサー式の水栓や、衛生管理がしやすい抗菌仕様の製品開発に注力し、BtoB市場での需要に応えていきます。

今後のファイナンス(調達・投資)計画について
ーー 今後の資金調達や投資計画について教えてください。
西岡 当社では、人々が一日を通して必ず触れる水回り製品の品質向上に注力しています。朝の洗顔から、夜のシャワーに至るまで、生活の中で自然に触れる存在として、より快適で価値のある製品を提供し、水をつなぐことが私たちの使命です。そのため、投資計画の中心には、高付加価値製品の開発と生産体制の強化があります。
直近では、岐阜工場の生産ラインを増強し、より精密な加工技術を用いた水栓製品の製造を強化しました。また、2024年5月には名古屋市に「R&Dセンター」を設立し、新技術の研究・開発に取り組んでいます。例えば、水の流れ方やレバーの感触、水が出る音にまでこだわり、スマートフォンのように、ユーザーが直感的に使いやすく、触れた瞬間に「違い」が分かる製品づくりを目指しています。
資金調達については、自己資金を活用しつつ、市場環境を見極めながら追加の資金調達も視野に入れています。住宅市場に限らず、ホテルや飲食店などの非住宅市場でも影響力を拡大しています。今後は、このBtoB市場へのアプローチを強化し、さらなる成長に向けた投資を進めていきます。
また、株主還元の面でも累進配当を導入し、安定的な利益還元を継続する方針です。今後も「水をデザインする」企業として、長期的な視点で成長戦略を推進していきます。
メディアユーザーへ一言
ーー 最後に、投資家や読者に向けてメッセージをお願いします。
西岡 SANEIは単なる水栓メーカーではなく、「水をデザインする」企業として、人々の暮らしを豊かにする製品を提供していきます。朝起きて顔を洗う瞬間から、夜眠るまで私たちの商品が人々の日常に寄り添い、快適な生活を支えることを使命としています。
今後も、日本国内はもちろん、海外市場へも積極的に展開し、さらなる成長を目指します。私たちの挑戦に、ぜひご期待ください。
- 氏名
- 西岡 利明(にしおか としあき)
- 社名
- SANEI株式会社
- 役職
- 代表取締役社長