新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業。政府からユニコーン100社創出が宣言されたこの状況下において、「現在の成長企業・ベンチャー企業の生き様」は、最大の関心事項と言える。ジャンルを問わず、一社のトップである「社長」は何を思い、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。その経営戦略について、これまでの変遷を踏まえ、様々な角度からメスを入れる。

近年では公認会計士・税理士に加え、企業経理や内部監査、法務といった管理系のプロフェッショナル領域の人材紹介も行っている。
また正社員の人材紹介の補完として、会計・経理人材を中心とする人材派遣、会計人材を中心とする求人ナビ、社員の定着支援を行う人事支援事業を行う。また採用定着支援領域ではベンチャー投資も行っており、2024年にはメタバースでメンタルヘルスを予防する「MentaRest」にも出資している。
これまでの事業変遷
—— 創業の背景やこれまでの事業変遷についてお聞かせください。
株式会社レックスアドバイザーズ 代表取締役・岡村 康男氏(以下社名、氏名略)
株式会社レックスアドバイザーズを設立したのは2002年10月のことです。それ以前、私は外資系生命保険会社に12年半勤めていました。その中で被買収を二度経験し、ガラッと違う企業文化や経営スタイルに触れる機会を得ました。その一方で、顧客として接していたオーナー経営者の方々との出会いが私の視野を広げ、「いつか自分も経営者になりたい」という想いを強めていったのです。
最初起業したいと思ったとき、保険コンサルティングや乗合代理店、ファイナンシャルアドバイザー(IFA)のような形で、企業経営者を支援するような会社にしようかなどとも考えていました。しかし、より独自性のある分野を模索した結果、経営者が最も課題と感じている「人材採用」に着目しました。この気づきが、現在の人材事業へとつながっています。

—— 人材事業を始めた背景について、もう少し詳しく教えていただけますか?
岡村 1990年代後半、マザーズやナスダックジャパンといった新興市場が立ち上がり、私の周囲でも上場を目指す経営者が増えました。そうした方々と接する中で、上場準備には優秀な管理部門の人材が不可欠であることを知りました。しかし、ベンチャーや中小企業では、幹部や管理職の採用に苦戦していました。
「この課題を解決することで、経営者を支援できる」という想いから、人材紹介事業を立ち上げることにしました。当初は幹部層を中心に支援していましたが、その後、スタッフ層の採用ニーズにも応える形で事業を拡大しました。
—— 創業当初はどのような苦労がありましたか?
岡村 私は、人材ビジネスに関しては、まったくの素人でした。ただ、保険営業時代に経営者と築いた信頼関係のおかげで、直接求人の依頼をいただくことができたのです。これまでの経験から、お客様の課題を深く理解し、それを解決するためにどう動くかという基本スタンスは変わっていませんでした。
しかし、求人を受けること自体は問題なくても、「どうやって適切な人材を探すか」という点では非常に苦労しましたね。
—— 御社ではM&Aを活用した成長戦略にも取り組まれていますね。その背景を教えてください。
岡村 人材紹介事業を拡大する中で、派遣事業や求人広告事業といった他の人材サービスにもニーズがあることがわかってきました。そこで、派遣会社の経営者から相談を受けた際に、株式交換による事業譲渡を実現しました。
M&Aの背景には、単に事業を拡大するだけでなく、既存のお客様の課題をより幅広く解決したいという想いがあります。人材派遣事業とのシナジーを生かし、より包括的なサービスを提供する体制を整えることができました。
—— M&Aによる異なる企業文化の統合には苦労もあったのではないでしょうか?
岡村 特に最初の2年間はカルチャーの違いに苦労しました。最初は事務所を別々に構えていたのですが、「一緒に働く方が良い」と判断し、吸収合併を経て、同じオフィスで同じ組織として働く体制に切り替えました。
結果的に、残ってくださった社員も多く、現在では一体感のあるチームとして機能しています。共通の目的を持つことが統合を成功させる鍵だと感じました。
飛躍的な成長を遂げた秘訣
—— 御社が飛躍的な成長を遂げたポイントについてお聞かせください。その秘訣は何でしょうか?
岡村 当社が飛躍的な成長を遂げたと自負するにはまだ道半ばかもしれません。ただ、1つのターニングポイントとして挙げられるのは、「未経験者の採用」です。
設立当初は私自身も未経験でしたから、人材業界の経験者を中心に採用していました。しかし、社員が増え、10数人規模になると経験者の採用が難しくなりました。その時、営業経験はあるものの人材業界未経験の20代を積極的に採用し始めたのです。そこから組織が大きく成長したと感じています。
—— 未経験者を採用することで、組織にどのような変化がありましたか?
岡村 未経験者を採用する利点は、既成概念に縛られない点です。私自身、外資系の保険会社にいた頃、保険業界経験者を採用しない方針を目の当たりにしました。それは、既存の固定観念にとらわれるよりも、新しい視点を持つ人を教育した方が効果的だという考えからでした。
同じように、人材業界でも「人材紹介とはこうあるべきだ」「派遣業はこうだ」という概念に縛られず、柔軟に考えられる人が組織に新しい風を吹き込んでくれました。これが大きな成長につながったのだと思います。
—— 岡村さんご自身のご経験が、そうした採用方針に影響を与えているのですね。では、未経験者を育成する際、特に力を入れている点は何でしょうか?
岡村 私の原点として、保険業界で培った「契約後の付き合い」を重視する姿勢があります。保険営業では契約を結ぶことがゴールになりがちですが、本当に重要なのは契約後にお客様とどう信頼関係を築いていくかです。同じ考え方を人材業界にも適用しています。
未経験者であっても、お客様との長期的な信頼関係を築くという当社のスタンスを理解し、共感できるメンバーであることが大切です。そのため、採用時から「契約後の付き合い」の重要性を繰り返し伝えています。
—— 社員の皆様にビジョンを共有するために、特に工夫されている点はありますか?
岡村 ビジョンの共有はまだ課題が残る部分もあります。当社は百人規模の会社ですが、私が直接すべての社員に話を伝えるのは物理的に限界があります。そのため、毎日ブログを書いて社員全体に発信しています。
ブログでは、お客様との付き合い方や仕事に対する姿勢などを綴っています。一方通行になりがちではありますが、継続することで、たまたま目にした社員が少しでも心を動かされれば、それで十分だと思っています。最終的には、社員一人ひとりが同じ目的を持って働けるよう、引き続き努力していきたいですね。
経営判断をする上で重要視している点
—— 経営判断の際に特に重視されている点はどのようなところでしょうか。
岡村 顧客を中心に考えています。長期的に顧客のためになるのか、熱意を持って長く続けられるのか、それが社員の成長に役立つものなのか、そういったことを判断基準にしています。つまり、稲盛和夫さんの言う「動機善なりや私心なかりしか」を意識しています。目先の利益やメリット以上に、長く貢献できるかどうかを軸に考えれば間違いないと思っています。
—— 例えば利益を追求するのではなく、本当にお客さんのためになっているのかを考えるということでしょうか?
岡村 私たちは物を売るというよりも、信用を売ってきた、広げてきたというスタンスです。何かのブームに乗って短期的に利益を上げるのではなく、長期的な信頼を築くことを重視しています。それが私たちの体質に合っていると感じています。
—— お客様との長期的な関係を重視されているのですね。しかし、どこかでお客様を担当できるキャパシティの限界に達するのではないかと考えますが、その点についてはどうお考えですか?
岡村 確かに、私一人で営業を続けているならキャパシティの問題が出てくるでしょう。しかし、私たちは会社として、レックスメンバーが同じスタンスで多くのお客様に接しています。成長志向のあるお客様にしっかり向き合い、お互いに成長していくスタイルを取っています。事業領域や営業領域が広がり、同じスタンスの社員が増えてくれば、どんどん多くのお客様に対応できると考えています。
今後の事業展開や投資領域
—— 今後の事業展開について、どのような方向性でお考えですか?
岡村 当社は、人材事業を始めた当初から一貫して、企業の管理部門の採用に貢献し、管理系のプロフェッショナルの転職支援を続けています。コアコンピタンスとしては、会計人材の紹介や派遣にあります。そこを深掘りし、まずはその分野でトップクラスを目指すことが重要です。公認会計士資格者や税理士資格者をはじめとする会計人材から、さらに内部監査や法務、経営企画、人事など職種を広げ、企業の成長に欠かせない管理部門を支援することが基本です。
地域戦略や人材領域に関する隣接分野を広げていこうと考えています。特に、企業の課題として採用だけでなく、採用後の定着も重要視されています。我々も採用後の企業の成長を伴走するスタンスで、定着に懸念のある企業に対してサポートを強化したいと考えています。
—— 採用後の定着など人事領域についても、レックスさんに任せれば安心というイメージですね。
岡村 そうですね。人口減少が続く中で、どの会社も成長のステージで踊り場を迎えることがあります。コアな人材をしっかりと確保しつつ、管理部門を中心に採用する会社は少ないです。我々がその役割を担い、当社の顧客の中心となっているアカウンティングファームの関与先企業の成長にも貢献できるよう、協業していきます。
—— 今後投資する領域についてはどのように考えていますか?
岡村 当社は「人と企業の成長支援」をコンセプトにしておりますので、「採用、育成、定着」に関連する事業であれば、仲間に迎え入れ、一緒に協働していきたいと考えています。実際に今年は、M&Aでキャリアデザイン事業の会社をグループ会社化し、また、メンタルケア領域のスタートアップへ資本参画するなど、投資のチャレンジも始めています。
—— 採用から育成、定着までを賄えると、顧客にとって安心感が大きいですね。
岡村 今のところイメージ先行の部分もありますが、中堅企業や新興企業では人事部門が十分な体制にないことが多いです。管理部門や会計の部分をアウトソーシングするように、人事領域でもバックオフィス業務をアウトソーシングする企業が増えています。採用や評価制度、ハラスメントの問題など、さまざまな人事課題に対するサポート役となり、定着の支援につなげたいと考えています。
メディアユーザーへ一言
—— 弊社のメディアユーザーに向けて一言いただけますでしょうか。
岡村 当社は20年以上、人材採用の領域で地道に成長を続けてきました。その中で学んだことは、長期的な視点で企業を支援することの重要性です。短期的な利益に目を奪われるのではなく、長期的に価値を提供し続けることが、企業にとっても私たちにとっても最善の結果を生むと信じています。
金融業界では「敗者のゲーム」という古典的な書籍がありますが、その中で紹介されているように、インデックスファンドを長く保有する考え方が私の原点です。この哲学をもとに、クライアントと長く伴走する企業でありたいと思っています。また、私たち自身も発展途上にありますので、ぜひ多くの方々に長期的な視点で応援していただけるとうれしいです。
- 氏名
- 岡村 康男(おかむら やすお)
- 社名
- 株式会社レックスアドバイザーズ
- 役職
- 代表取締役CEO